13 / 50
13話 グローズクロイツ家の男は愛が重いらしい
しおりを挟む
「アル! 今日から仕事だぞ!」
扉をドンドン叩く音がぼんやりとした頭の中に聞こえてきた。
「ちっ、もう休みは終わりか」
舌打ち? アルトゥール様、舌打ちしたの? そんなことする人だったのかしら?
「ディー、今日から私は仕事なんだ。部屋を出るけど、ディーはこのまま寝ていたらいいから。回復魔法かけておくからね」
アルトゥール様はそう言うとベッドから下り、私に回復魔法をかけた。
アルトゥール様の回復魔法はそれほど強くないのですぐに回復はしない。自分で回復魔法をかけられたら一瞬で復活できるのだが、自分で自分にかけることはできないのが悔しい。
さっき、湯に入れてもらい、身体を綺麗にしてくれたし、その間にシーツも清潔なものに替えてくれているので、不快感はない。
それにしてもアルトゥール様は優しい。抱っこして浴室まで連れて行ってくれて、湯浴みをさせてくれたり(湯浴みだけじゃすまないけど)、食事もひとくちで食べられるように小さくして食べさせてくれる。閨事が済み眠る時は包み込むように抱きしめてくれる。
今まで閨事の経験がなかったからわからないが、これが普通なのだろうか? 世の男性達はみんなこんな感じなのかな?
唇にチュッとキスをして、アルトゥール様は部屋から出て行った。
もう少し寝よう。私は睡魔には勝てず夢の住人となった。
◆◆ ◇
お腹がすいて目が覚めたので、ベルを鳴らしメアリーを読んだ。
「ディー様、具合いはいかがですか? お昼ご飯食べられそうですか?」
「お腹すいた~」
「はいはい。軽食を用意しますね。まだ食堂までは無理でしょう?」
足がまだガクガクしていて、腰の感覚が微妙だ。
「うん。立てそうもない」
メアリーは眉根を寄せた。
「全く、盛りのついた若い子じゃあるまいし、アルトゥール様にも困ったものです。使用人一同、いつ出てくるか冷や冷やしておりました。まさか、最終日までお籠もりとは10代ですか? と言いたいです」
確かにアルトゥール様の体力は並の10代も敵わないだろう。
「前の奥さんの時もこんなだったのかしら?」
また口からよからぬ言葉が出た。まぁ、アルトゥール様はいないからいいだろう。
メアリーは勝ち誇ったようなドヤ顔で私を見た。
「ヨハンさんやエマさんの話では、前回の初夜はすぐに自室に戻られたそうです。蜜月休みは必要ないとおっしゃり次の日から仕事をされていたらしいです」
「そうなんだ。忙しかったのかな?」
「さぁ、どうなのでしょうね」
メアリーはふふふと笑っている。
夕方になり、ようやく動けるようになった。
サロンに行くと義両親とアンネリーゼ、リーンハルトがいた。
「ディートリントさん、身体は大丈夫か? あの馬鹿が無茶しよって申し訳ない」
義父が頭を下げた。どうリアクションすればいいか困る。
「あなた、ディートリントさんが困っているじゃありませんか。でも、良かったわ。やっとアルも幸せになれる。良い人を見つけてくれて本当に有難いわ。陛下に感謝しなくちゃね」
「そうだな。前が酷かったからな」
「あなた、子供の前よ」
義父は失言が多いタイプのようだ。確かに子供の前で母親の悪口はダメだな。
「お祖母様、大丈夫です。あんな人母親だとは思っていません。悪口合戦なら私が優勝できます」
アンネリーゼが真顔で話している。冗談なのか? 笑うとこなのか? わからない。
「笑うところです」
みんなが固まっているとアンネリーゼがぼそっと言った。
とりあえずみんなで笑った。
「さぁ、食事にしよう。アルももうすぐくるだろう。ディートリントさん、動けるか?」
義父が手を差し出した。
「お義父様、大丈夫ですわ。それから、私のことはディーとお呼びください。さんもいりません。お義母様もお願いします」
私の言葉にふたりはうれしそうに微笑んだ。
義父に手を借り椅子から立ち上がろうとしていると、アルトゥール様がサロンに入ってきた。
「父上、ディーのことは私がします」
声が低い。アルトゥール様は義父の手をはらった。
「そ、そうか。そうだな」
義父は手を引っ込めた。
「あらあら、アルはお父様にやきもちを焼いているのね。ディー、グローズクロイツの男は、愛が重いのよ。アルはそんなことないのかと思っていたけど、やっぱりグローズクロイツの男だったのね」
義母はくすくす笑う。
愛が重い? 私は愛されているのか?
アンネリーゼが傍に来て耳元で囁く。
「自分のモノと認識をしたのでしょ。もう逃げられないわね。ご愁傷様」
呆れたようにため息をついた。
へ? アンネリーゼって7歳だったわよね。ご愁傷様って?
「とにかく夕食にしましょう」
義母の言葉に皆が食堂に移動した。アルトゥール様は私を抱き上げる。
「歩けます!」
「ダメだ。私の責任だからな」
確かにアルトゥール様の責任だけど……。
食事中もベッタリ世話をやかれ、みんなから生温かい目で見られ、恥ずかしくなった。
初めて会った時は、冷たそうな表情で冷気が漏れていたのに、全くそんなことはなくなった。
しかし、子供の前でこれはダメだろう。アンネリーゼは自分もして欲しいのではないのか? まだ7歳だし、親とのスキンシップは大切だ。淋しいと思っているかもしれない。
「アル様、リーゼにも……」
「私のことは気にしないで下さい。おふたりが仲良くしてくれるのが私の幸せですわ」
なんだかよくわからないな。アンネリーゼはどんな子で何を思っているのだろう。
「私達は明日、離れに戻ろうと思うが大丈夫か?」
義父がアルトゥール様に聞いている。
「大丈夫ですが、父上と母上さえよければ、ディーが屋敷のことに慣れるまでここにいてもらえないかと思っているのですがいかがでしょうか」
お~、それはいい。
「私もお義父様とお義母様が傍にいて下さると心強いです。お願いします」
私の言葉でしばらく義両親と同居することが決まった。ずっと本邸はしんどいので時々は離れに戻るらしい。
「本邸にいると働かされるからな」
義父は笑う。
こんないい人ばかりのグローズクロイツ家なのに、前の奥さんはなんで嫌だったんだろう?
アルトゥール様ともうまくいかなかったようだし、やはり言葉が足りなかったのかな?
食事が終わり、部屋に戻ろうとしていたら、アンネリーゼに呼び止められた。
「明日、ふたりだけで話があるんだけどいい?」
「もちろんよ」
「お昼ご飯が済んだら部屋に行くわ。今夜はほどほどにね」
ほどほど……7歳よね?
自室に向かうアンネリーゼの後ろ姿を見ながら、私は首を傾げてしまった。
扉をドンドン叩く音がぼんやりとした頭の中に聞こえてきた。
「ちっ、もう休みは終わりか」
舌打ち? アルトゥール様、舌打ちしたの? そんなことする人だったのかしら?
「ディー、今日から私は仕事なんだ。部屋を出るけど、ディーはこのまま寝ていたらいいから。回復魔法かけておくからね」
アルトゥール様はそう言うとベッドから下り、私に回復魔法をかけた。
アルトゥール様の回復魔法はそれほど強くないのですぐに回復はしない。自分で回復魔法をかけられたら一瞬で復活できるのだが、自分で自分にかけることはできないのが悔しい。
さっき、湯に入れてもらい、身体を綺麗にしてくれたし、その間にシーツも清潔なものに替えてくれているので、不快感はない。
それにしてもアルトゥール様は優しい。抱っこして浴室まで連れて行ってくれて、湯浴みをさせてくれたり(湯浴みだけじゃすまないけど)、食事もひとくちで食べられるように小さくして食べさせてくれる。閨事が済み眠る時は包み込むように抱きしめてくれる。
今まで閨事の経験がなかったからわからないが、これが普通なのだろうか? 世の男性達はみんなこんな感じなのかな?
唇にチュッとキスをして、アルトゥール様は部屋から出て行った。
もう少し寝よう。私は睡魔には勝てず夢の住人となった。
◆◆ ◇
お腹がすいて目が覚めたので、ベルを鳴らしメアリーを読んだ。
「ディー様、具合いはいかがですか? お昼ご飯食べられそうですか?」
「お腹すいた~」
「はいはい。軽食を用意しますね。まだ食堂までは無理でしょう?」
足がまだガクガクしていて、腰の感覚が微妙だ。
「うん。立てそうもない」
メアリーは眉根を寄せた。
「全く、盛りのついた若い子じゃあるまいし、アルトゥール様にも困ったものです。使用人一同、いつ出てくるか冷や冷やしておりました。まさか、最終日までお籠もりとは10代ですか? と言いたいです」
確かにアルトゥール様の体力は並の10代も敵わないだろう。
「前の奥さんの時もこんなだったのかしら?」
また口からよからぬ言葉が出た。まぁ、アルトゥール様はいないからいいだろう。
メアリーは勝ち誇ったようなドヤ顔で私を見た。
「ヨハンさんやエマさんの話では、前回の初夜はすぐに自室に戻られたそうです。蜜月休みは必要ないとおっしゃり次の日から仕事をされていたらしいです」
「そうなんだ。忙しかったのかな?」
「さぁ、どうなのでしょうね」
メアリーはふふふと笑っている。
夕方になり、ようやく動けるようになった。
サロンに行くと義両親とアンネリーゼ、リーンハルトがいた。
「ディートリントさん、身体は大丈夫か? あの馬鹿が無茶しよって申し訳ない」
義父が頭を下げた。どうリアクションすればいいか困る。
「あなた、ディートリントさんが困っているじゃありませんか。でも、良かったわ。やっとアルも幸せになれる。良い人を見つけてくれて本当に有難いわ。陛下に感謝しなくちゃね」
「そうだな。前が酷かったからな」
「あなた、子供の前よ」
義父は失言が多いタイプのようだ。確かに子供の前で母親の悪口はダメだな。
「お祖母様、大丈夫です。あんな人母親だとは思っていません。悪口合戦なら私が優勝できます」
アンネリーゼが真顔で話している。冗談なのか? 笑うとこなのか? わからない。
「笑うところです」
みんなが固まっているとアンネリーゼがぼそっと言った。
とりあえずみんなで笑った。
「さぁ、食事にしよう。アルももうすぐくるだろう。ディートリントさん、動けるか?」
義父が手を差し出した。
「お義父様、大丈夫ですわ。それから、私のことはディーとお呼びください。さんもいりません。お義母様もお願いします」
私の言葉にふたりはうれしそうに微笑んだ。
義父に手を借り椅子から立ち上がろうとしていると、アルトゥール様がサロンに入ってきた。
「父上、ディーのことは私がします」
声が低い。アルトゥール様は義父の手をはらった。
「そ、そうか。そうだな」
義父は手を引っ込めた。
「あらあら、アルはお父様にやきもちを焼いているのね。ディー、グローズクロイツの男は、愛が重いのよ。アルはそんなことないのかと思っていたけど、やっぱりグローズクロイツの男だったのね」
義母はくすくす笑う。
愛が重い? 私は愛されているのか?
アンネリーゼが傍に来て耳元で囁く。
「自分のモノと認識をしたのでしょ。もう逃げられないわね。ご愁傷様」
呆れたようにため息をついた。
へ? アンネリーゼって7歳だったわよね。ご愁傷様って?
「とにかく夕食にしましょう」
義母の言葉に皆が食堂に移動した。アルトゥール様は私を抱き上げる。
「歩けます!」
「ダメだ。私の責任だからな」
確かにアルトゥール様の責任だけど……。
食事中もベッタリ世話をやかれ、みんなから生温かい目で見られ、恥ずかしくなった。
初めて会った時は、冷たそうな表情で冷気が漏れていたのに、全くそんなことはなくなった。
しかし、子供の前でこれはダメだろう。アンネリーゼは自分もして欲しいのではないのか? まだ7歳だし、親とのスキンシップは大切だ。淋しいと思っているかもしれない。
「アル様、リーゼにも……」
「私のことは気にしないで下さい。おふたりが仲良くしてくれるのが私の幸せですわ」
なんだかよくわからないな。アンネリーゼはどんな子で何を思っているのだろう。
「私達は明日、離れに戻ろうと思うが大丈夫か?」
義父がアルトゥール様に聞いている。
「大丈夫ですが、父上と母上さえよければ、ディーが屋敷のことに慣れるまでここにいてもらえないかと思っているのですがいかがでしょうか」
お~、それはいい。
「私もお義父様とお義母様が傍にいて下さると心強いです。お願いします」
私の言葉でしばらく義両親と同居することが決まった。ずっと本邸はしんどいので時々は離れに戻るらしい。
「本邸にいると働かされるからな」
義父は笑う。
こんないい人ばかりのグローズクロイツ家なのに、前の奥さんはなんで嫌だったんだろう?
アルトゥール様ともうまくいかなかったようだし、やはり言葉が足りなかったのかな?
食事が終わり、部屋に戻ろうとしていたら、アンネリーゼに呼び止められた。
「明日、ふたりだけで話があるんだけどいい?」
「もちろんよ」
「お昼ご飯が済んだら部屋に行くわ。今夜はほどほどにね」
ほどほど……7歳よね?
自室に向かうアンネリーゼの後ろ姿を見ながら、私は首を傾げてしまった。
応援ありがとうございます!
71
お気に入りに追加
3,033
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる