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8話 父と娘の関係は修復できるのか?

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 食堂に行くと、ちょうど義両親も来たところだった。

 アルトゥール様がリーンハルトを抱っこし、アンネリーゼと一緒に食堂に来たので驚いているようだ。

「お祖父様、お祖母様、おはようございます」

「お、おはよう。リーゼ、今日は一緒に食堂で朝食を食べてくれるのか?」

 義父が恐る恐るアンネリーゼに尋ねる。

「ええ、この人が一緒に食べたいと言うので、それにリーンがテーブルや服を汚くしても叩かないって言ったからきました」

「叩かないとは?」

 アンネリーゼの言葉に義両親はとまどっているようだ。そら、戸惑うわな。しかし、今まで誰も気が付かなかったのだろうか? 私はそちらの方が驚く。

 義父が膝をつき、アンネリーゼの目線に目線を合わせ、優しく言葉を出した。

「リーゼは誰かに叩かれていたのか?」

 アンネリーゼは諦めているような表情をしている。母親から理不尽に叩かれた記憶は辛いだろう。

「いなくなったあの人にいつも叩かれていました」

「あの人? あの女か? なぜ、私達やアルにそのことを言わなかったんだ」

 義父の言葉にアンネリーゼは目を見開く。

「あの人が、お祖父様達は辺境の地の仕事が忙しくて、私のことなんか興味がないと言っていました。私のことを思っているのは自分だけ、だから私に見放されたらあなたは誰も相手にしてくれないのよって言われました。それにあの人は、お父様やお祖父様、お祖母様、エマ達の前では私を可愛がっている振りをしていたので、そんな姿を見ているお祖父様達に、私が叩かれていると言っても信じてもらえないとも言われました。お祖父様達に告げ口をしたら、あなたがかまって欲しくてそんな嘘をついていると言うから、誰もあなたなんか信じてもらえないのよといつも言われていました」

「そ、そんな事を……」

 話を聞き、涙ぐんでいる義母はアンネリーゼの元に駆け寄り抱きしめた。

「気がついてあげられなくてごめんなさい。私達はあなたを愛しているわ。信じているわ」

「あの女……」

 義父は拳を握りしめている。

 私はアルトゥール様の顔を見た。

アルトゥール様は頷き、膝をついてアンネリーゼの顔を見た。

「私達はリーゼとリーンを愛している。確かにリーゼが小さい頃は辺境の地は魔獣が今よりも頻繁に出ていたので、掃討しなければならなかった。家に帰る時間もさき、戦うしかなかった。あの者に任せっきりにしていた私の罪だ。あの者を信じていたのに、まさかリーゼにそんなことをしていたなんて。気が付かなかった。リーゼ、申し訳なかった。魔獣と戦うのも愛するリーゼやリーン、辺境の皆を守る為だ。それなのにあの者からリーゼを守れなかったなんて……」

 アルトゥール様は頑張って言葉を発した。リーンハルトを抱いている手が震えている。

 まさか、元奥さんからアンネリーゼがそんな目に遭っていたなんて知らなかったのだろう。
 知らないで済まされることではないが、元奥さんは悪質すぎる。子供になんでそんな酷いことが言えるのだろう。自分の不満を子供をいたぶることで発散していたのだとしても人として許されることではない。

アルトゥール様はアンネリーゼを見つめている。

「リーゼ、これからはなんでも話してほしい。私のことなど信用できないだろうが頼む。話すのが嫌なら手紙でもいい。私はダメな父親だ。これからはリーゼやリーンの気持ちに沿うことができる父親になりたい」

 お~、いいなぁ。サムズアップを出したくなるわ。

 私のあの時の言葉をアルトゥール様は覚えていて、私にはそれをしてくれた。きっとアンネリーゼともいつか心を通じることができると思う。アルトゥール様はやればできる人だ。

 リーゼは表情を変えずにコクンと頷いた。


「まんま……ま…」

 アルトゥール様に抱かれていたリーンハルトが手を伸ばした。

「あらあら、リーン、お腹がすいたのね。シェフ、リーン用の朝食もこちらにお願いね。さぁ、みんな朝食にしましょう」

 義母が涙を拭きながらアルトゥール様の手からリーンハルトを取り上げ、エマに渡した。

「エマ、お願いしてもいいかしら?」

「もちろんでございます」

エマは笑顔で頷いた。

アルトゥール様がエマからリーンハルトを取り上げようとした。

「母上、私が食べさせます」

いやいや、急には無理だろう。

「無理よ。おいおいね」

 義母はふふふと笑い、リーンハルトをエマの腕に戻した。

 まぁ、とりあえず、アルトゥール様と子供達は修復できそうだな。

 グローズクロイツ辺境伯家の初めての朝食は不思議な感じの朝食となった。

 美味しいスクランブルエッグとベーコンやソーセージ、パンも何種類かあって豪華だ。

 アンネリーゼがクロワッサンをパラパラ落とし、大人の顔を見ていたが、私はアンネリーゼ以上にパラパラ落としながら食べてみせた。

「リーゼ、このパンはパラパラと落ちるのが美味しく焼けている証なんだよ。だから、落としてもかまわない。うちのシェフのクロワッサンは最高だな」

 アルトゥール様がぎごちない笑顔でアンネリーゼに話しかけている。

 アンネリーゼはやはり、無表情で「はい」と答え、できるだけパラパラ落とさないように注意しながらクロワッサンを食べていた。

 小さいに受けた心の傷はかなり深いのだろう。心の傷が無い私に癒す事はできるだろか?

 いや、そういうことじゃない。私はアンネリーゼがアンネリーゼらしく生きられるように見守ろう。そして一緒に遊ぼう。それが私の役目かもしれない。

 私は決意を胸に秘め、ダッシュで朝食を食べた。

 さぁ、婚姻式だ。

 メアリー達が用意のために手ぐすね引いて待っている自室に戻るとするか。

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