地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。～ざまぁ？ 没落？ 私には関係ないことです～

隣国ヘーラクレール編

77 ぼく、かっこいいよ

「ルシアナ様！」
「マーガレッタ様……アーサー様……そしてそちらのご立派な方は……」
「シロだよ！ルシアナぁ～～」
「シロ様！？」

　アーサーに先行を頼み、倒れていたルシアナ様を見つけて貰った。殴られたお顔は痛々しいけれど、ルシアナ様は私の無事を知り笑顔をみせてくれた。

「ありがとうございます、アーサー様、シロ様。ところであの愚か者は……」
「シロが蹴っ飛ばして、向こうの草むらの中に落ちてるよ！」
「まあ、シロ様は可愛くもあり、かっこよくもあり、勇敢でお強いのですね！」
「うん！　だってシロのお父さんはヘーラクレールおじちゃんを乗せた立派な天馬だからね！　ルシアナもシロの背中に乗って！　ぼくが運んであげるよ」
「光栄ですわ、シロ様」

　アーサーの手を借りて、私の後ろにルシアナ様が座った。私もそうだけれど、ルシアナ様も馬に乗ったことがないそうだ。でもシロ様は物凄くゆっくり、そして慎重に歩いてくれるので怖いことは何もない。背が高いので少し地面から遠いけれど、横にアーサーもいてくれてとても安心できる。

「シロ様……突然大きくなられたのですか……？」

　当分あのままだろうと、ディエゴ王太子を放置して、私達はカールさんやクロード様と合流しようと封印塚のある広場へとゆっくり進みだす。その途中、聞きたいことのうちで一番気になる所から質問を始めることにした。

「うん！　今、マーガレッタを助けにいけなくてどうするのって。シロ、強くお願いしたんだ。だからお姉ちゃんもお兄ちゃんもおじちゃんも行けっていってくれたの。そしたらぴかーってなってぶわーって元に戻ったよ」
「突然、シロが光ったんだ。びっくりしたよ……でも本当に良かった。シロは本当に私を乗せられるくらい大きかったんだね」
「最初からそういったよ！　信じてなかったのはアーサーだもんっ」
「はは、ごめんごめん。モチモチしているシロからは想像できなくてさ」
「かっこよすぎてびっくりしたでしょ？」
「うん、凄くかっこいい。ありがとうシロ、シロのお陰でマーガレッタは無事だった」
「えっへん！」

　シロ様と並んで歩くアーサーも歩調はゆっくりで、怪我をした私達に気を使ってくれているようだ。

「シロ様、シロ様のおでこには何やら角のようなものがおありになりますね？」

　私も気になっていたことをルシアナ様が尋ねてくれる。シロ様の額にはとても立派で長く、そして緑色の光を放つ角が一本天に向いてそびえたっている。らせんを描いているのに、ねじくれておらずまっすぐなきれいな角だ。

「これはユニコーンの癒しの角だよ。シロのお母さんはユニコーンなの、薬神様にお仕えしているんだ。だからシロにも角があるんだぁ～かっこいいでしょ」
「はい！　素敵です」
「シロのお力できっとマーガレッタのお膝も、ルシアナのお顔も少し治ってるはずだよ」
「そういえば痛みがひいています、腫れも治まってきていますね」
「えっへん！」

　そうだったんだ……だからシロ様は私達に背中に乗るようにいってくれたんだ。なんて優しい方なんだろう。天馬の姿になっても撫で心地がいいシロ様に色々な質問をしながらゆっくり進んでいると、進行方向から血相を変えたクロード様とカールさんが大股で走ってくる姿が見えた。

「アーサー様！　シロ様！」
「アーサー！　シロ坊！　マーガレッタとルシアナ嬢は……！」
「クロード～カール～ここだよ～～～」
「むっこの間抜けな声はシロ坊か！」
「ぼくはまぬけじゃないーー！」

　二人の後ろからハウエル団長を先頭に騎士達がついて来たのがみえたけれど、ゴルダさんの姿がなくて安心した。

「殴って縛って大人しくさせておいたぜ。なぁに冒険者の俺にボコられたんなら良い訳も色々しやすいだろ？」
「ご配慮誠に痛み入ります」
「おう！」

　全員と合流し、ルシアナ様はクロード様に、私はアーサーに手を貸してもらいシロ様の背中から降りる。

「もー安心ね……」
「シロ様！？」

　私達を下ろすとシロ様は眠そうに呟き、天馬の体はしゅるしゅると音を立てて縮んでいった。そしていつも見慣れた小鳥の姿になってすぅすぅと寝息を立てて眠ってしまう。長かった角もいつものお豆くらいの大きさに戻ってしまった。