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隣国ヘーラクレール編

78 正式訪問

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 あれから十日後、私は今度はアーサーと共に完全武装をしてヘーラクレール城にやってきた。

「いいかい、マーガレッタ。存分以上にやっつけてくるように」
「アーサー。ヘーラクレール城など叩き壊すつもりで大暴れしなさい」

 私が無理やり王城へ連れ込まれ酷い目にあわされた話を通信魔法でイグリス様とアルティナ様にお伝えしたら、二人とも物凄く憤慨して噛みつく勢いだった。

「まだ父上と母上には伏せておくよ……アーサーとマーガレッタが無事に戻って来てから報告しないと、確実にヘーラクレールに向けて挙兵してしまう」
「ええ、暫くは箝口令を引きましょう。あとグラナッツ様にも……」
「ああ、グラ爺は頭に血が上るとホント手が付けられない……怖い」

 お二人はこちらへ乗り込むつもりのようだったけれど、流石に離れた国。日数的に間に合わないと自重いただいた。

「その代わりといっちゃなんだけど、隣国から豪華な礼服とドレスを取り寄せてそちらの神殿へ送るように手配しておいたよ。いいかい、レッセルバーグの威信にかけてもそんな舐めた王家はとことんまでやり込めるように!」
「あ、兄上……俺、そういうの苦手……」
「アーサー! そんなこと言ってる場合じゃないでしょうっ、完膚なきまでに叩き潰すのよ!」
「はいっ! アルティナ義姉上っ」

 こうしてアーサーと揃いのドレスを身にまとって、レイ公爵が用意してくれた真っ白な美しくて品のある馬車で乗り付けたのだ。

「……凄い可愛いね……マーガレッタ」
「アーサーも素敵ですよ」

 届いたドレスはアルティナ様が見立てたらしくとても素敵だった。きらきらと糸自体が光を跳ね返す青いドレスはアーサーの瞳の色と一緒で、角度によっては少し緑がかっているのがとても不思議だった。シルエットはごく一般的な令嬢が着るドレスと一緒だけれど、手の込みようが違った。ほんの細部にまで細い糸で複雑に編まれたやわらかいレースが層を成している。銀糸がふんだんに使われているのか、合わせてくれたレースの手袋もとてもきれいな刺繍が入っている。
 それに首元を飾る装飾品にこれでもかと使われている真っ赤なルビー。アーサーが赤い髪に青い瞳だからだろうけれど、重たいくらい大きな石がいくつもいくつもついている……こ、これはやりすぎではないのでしょうか、アルティナ様。

「アーサー……これはやりすぎではないかなと思うのですが」
「うーん、でもレッセルバーグのために兄上達がこれくらいは必要だって思ったんだから、きっと必要なんだよ」
「そうですね、国のために必要、そうですね!」

 そうだ、この場では私達がレッセルバーグの代表だ。私達がみすぼらしいとレッセルバーグの評判を落としてしまう。この華美な装いも国の為ならちょっとくらい似合わなくても必要なことなんだ。よし、と頷いて顔を上げる。

「行くよ、マーガレッタ」
「はい、アーサー」

 伸ばされたアーサーの手に自分の手を重ね、ぐっと握り合う。顔を正面に、口角をあげ、余裕のある笑みを作る。私達はレッセルバーグ国第二王子アーサーとその婚約者マーガレッタ・ナリスニア公爵令嬢なのだから。どこの国の国王にだって馬鹿にされて良い存在ではない、それを周知する必要があるんだから。

 入り口から案内されて、大広間へ着く。そして名前が呼ばれ、扉が開く。

「レッセルバーグ第二王子アーサー殿下と、婚約者のマーガレッタ・ナリスニア公爵令嬢、おつきになりました」

 顔をあげたまま、開かれてゆく扉を見て私は内心とても驚いた。ヘーラクレール城の大広間には私が想像していた以上の人々が詰めかけていたのだ。見知った顔がちらほらいたり、レイ公爵の姿も見えるけれど、まったく知らない人達……いいえ、近隣王族・大使図表でしか見たことがあるような方々がこちらを向いていたのだった。
 

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