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隣国ヘーラクレール編
72 驕れる者
しおりを挟む「さあ、聖女マーガレッタよ、わが手を取りなさい」
「ディエゴ様、何度も申し上げておりますが、マーガレッタ様は聖女ではございません。お間違えなきよう!」
私を背後に庇いながら、ルシアナ様はじりじりと奥庭の方へ後退していく。それをディエゴ王太子は愉悦に歪んだ顔で距離を詰めてくる。
「いいや、マーガレッタは聖女だ。私がそう決めた、だから聖女だ。ルシアナ、お前は邪魔だ、どけ」
「いいえ! どきません。そしてマーガレッタ様は聖女ではありませんし、それをディエゴ様が決めることなどできるはずがありません。聖女は神に認められた神聖な位、人間のあなたがどうこうできることではございません!」
「うるさいっ!英雄ヘーラクレールの直系の血筋たる私が決めたんだからそうなるんだ!」
高慢、なんて驕り高ぶった人なんだろう。聖女は神様が力を授けてくださった女性……それを勝手に決めることは私達人間にはできるわけがない。いくら英雄の子孫でもそれは無理だ。それなのに、ディエゴ王太子は当然のようにいってのける。私を守ろうとしてくれている「みなさま」も凄く不快そうにしているし、もちろん私も気分が悪い。
「それにマーガレッタ様はレッセルバーグ国の公爵令嬢だとお教えしましたよね? その彼女の意に添わぬことをすることはレッセルバーグ国に宣戦布告と見なされますよ!」
そうだ、ルシアナ様はきちんとあの場でいってくれたのだから後から知らなかった、聞いていないなんて絶対にいわせない……争いごとは嫌だけれど、ディエゴ王太子の言いなりになる方がもっと嫌だ。
「ははは!レッセルバーグなどという小国は知らん!それに我がヘーラクレールの騎士団は不敗の最強騎士団であるぞ、戦いになった所でわが国の圧倒的勝利で終わる以外ないではないか!」
「何度も言いましたけれど、きちんと周辺諸国の広い地図を見てから発言していただきたいですわ。レッセルバーグが本気を出せば我が国など一日で吹き飛んでしまうのですよ」
「そんな訳なかろう? 周辺の属国もすべて我が国に味方するのだぞ、そのレッセルバーグとやらが半日も立たずに降伏するであろうよ」
自信満々にそう言い切るディエゴ王太子だが、心底呆れた顔でルシアナ様は反論する。
「そんな訳ないでしょう。それに周りの国は属国ではないと何度教えても理解いただけないのですね。ただ、相手にされていないだけなのに……。戦争ともなれば周辺諸国は全部レッセルバーグ側につくことは容易に想像できるのが普通なのですが、あなたと話をしてもため息しかでませんわ」
「ルシアナ、お前の方が分かっておらんのだ! 英雄の興した国に皆膝まづくに決まっているだろう! 何故レッセルバーグにつく? 意味が分からん」
「レッセルバーグの方が強国であり、富国であり、人望もあるからに決まっているではないですか。取引相手としても優良であり、交通の便も良いとなれば自明でしょうに……しかもここ最近安全性まで高まっているのですから。なんでも凄腕の薬師様が大量にポーションを卸して下されているのだとか?」
「あっ……」
最後は私のほうを向いてルシアナ様は可愛らしく微笑む。大量にポーションを作っているのが私だって気が付いていらしたみたいだった……えっと、ヘーラクレールにまでそんな噂が伝わっていたなんて、少し恥ずかしい。それにそんなに大量じゃないですよ、普通程度です。
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