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「う、嘘だ……アンゼリカが、私を?愛してくれて、いたのに」

「裏切ったのは兄上でしょう?愛があったかどうか定かではありませんが、アンゼリカ様は兄上を尊重して下さっていたのに。そこの女を選んだのは兄上でしょう?」

 涙を浮かべながらも、きつい目で睨みつけるリルファをモーリッツは歯牙にもかけない。

「わ、私は!私は……リルファを、えら、選んだ……?選んだのか?助けて、助けて……アンゼリカ……」

 泣き崩れる兄のマルセルを見下ろし、モーリッツは両親に向き合う。

「王太子の任、確かに承りました。その上でアンゼリカ様より預かっていた書類です。私が次の王太子となるならば、婚約破棄に関わる全ての違約金の支払い期限を設定しないと」

「それは本当か?モーリッツ」

「ええ、父上。この書類をご覧下さい」

 モーリッツが筒に入れて持ってきた書類に目を通し

「アンゼリカはここまで……」

 と、王と王妃は目頭を押さえた。そこにはモーリッツの言う通りの内容と、しかも利子も発生しない旨しっかり記載され、アンゼリカ本人のサインが2種類、アンゼリカ・ザザーラン、アンゼリカ・ラグージの名前で入っている。

「ええ、これ以上アンゼリカ様の頭脳を王家の為に使っていただけないのは恐ろしい損失ですが、彼女は敵対する気はないのです……そっと見守りましょう」

「そうだな、モーリッツ……」

 父王は深い溜息をつく。

「わたくしとモーリッツ様はアンゼリカ様に会ってはならぬと言う契約はございませんし、また相談に伺っても良いと返事も頂いています。お優しいアンゼリカ様なら私達をお助け下さるでしょう」

「そうね……ラジェット……。ああ、あの子を娘としてずっと側に置いておけると思っていたのに……あの子の分まで助けてちょうだいね?ラジェット」

「アンゼリカ様には及びませんが、誠心誠意頑張ります」

 少し腰を落として優雅に礼をするラジェットは淑女として美しく、王太子妃として相応しかった。
 その側で情けなく取り乱し泣き喚くマルセル。

「わ、私も!私もアンゼリカに、あい、会いたいっ!」

「駄目に決まってるでしょう!貴方にかせられる罰金はすぐさま払うものですからね!誰か、マルセルを部屋に!蟄居先が決まるまで、閉じ込めておきなさい!」

「はっ!」

 衛兵二人に脇を支えられ

「助けて……助けて……アンゼリカ……」

 それだけを繰り返し、マルセルは連れられて行く。

「ま!待って!マルセル様っ!!お、お金を!お金を下さい!!」

 偽なのか嘘なのかの涙をばっと振り払って叫んだリルファをその場にいた全員が呆れと軽蔑を込めて冷たく見下した。





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