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13 覆水盆に返らず

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「お呼びでしょうか、母上。もしやアンゼリカ様がらみの事で?」

「その通りよ、モーリッツ。ラジェットもいるわね。今日からモーリッツが王太子、ラジェットは王太子妃になるわ。二人とも学ぶことが増えるし……巨大な借金を一緒に背負っていくことになったわ……。とても申し訳ないけれども頑張って貰えるかしら?」

 ラジェット・ハニヴァール侯爵令嬢は、深々としかし優雅にお辞儀をする。

「アンゼリカ様より助言をいただいておりましたので、滞りなく」

「……心強いわ、ラジェット。モーリッツも良いわね?」

「何事も問題ありません、母上、父上。借金の件もアンゼリカ様ならば王家を亡ぼすなどとは言いますまい」

「そうね、アンゼリカは慧眼ですものね……」

 話が自分達の頭の上を全て飛び去ってゆき、マルセルはどうしていいか分からずおろおろする。

「え……弟のモーリッツが……王太子?わ、私が、廃嫡?え、どういう事ですか……父上、母上……」

「どういう事も何も、その通りだ、マルセル。これほどまでにしてやったのにお前は何という愚かな息子か。我らとてこれ以上お前を庇いだては出来ぬ」

「アンゼリカの慈悲と優しさに縋り付いて何とか王として立てるかと思ったのに……それを自分で捨て去ったのです。アンゼリカを失ったあなたに何が出来るというの?」

 両親からのきつい言葉に、マルセル王子はその場にへたり込んだ。

「え、え……わ、私、私は……た、助けて……助けてくれ、アンゼリカ……!」

「アンゼリカはもういない、貴方が自分で決断したのでしょう?!」

「ち、ちが、違う!わ、私、私はリルファに、リルファにそうしろと言われて……」

「ひ、酷いわ!マルセル様!マルセル様がアンゼリカが怖いと、助けてくれと言ったんじゃありませんか!だから、リルファはマルセル様の為にアンゼリカを排除したのです!全てマルセル様の為です!」

「た、助けてくれなんて言ってない!アンゼリカは、いつだって正しかった。いつだって私の為に……そ、そうだ、アンゼリカに謝ろう。わ、私の事を愛しているアンゼリカなら、また私の婚約者に……」

「酷い!マルセル様はリルファの婚約者なんでしょう?!リルファを裏切るの?!絶対に許さないっ!!」

「ひぃっ!助けて、父上!母上っ!」

 二人のやり取りを見ていた観客達はなんてつまらない上に醜いのだと、頭痛を覚える。

「アンゼリカに会う事は許しませんよ、マルセル。貴方がアンゼリカに連絡を取ることも。アンゼリカに接触する度に罰金として100万ゴールド支払う約束ですから」

「えっ?!」

「予想していたのでしょうね。貴方が泣きつくと。最初の契約からしっかり明記されています。そして婚約を破棄されたのなら二度と王家には嫁がないと。本当に見て来たように隙のない契約書だわ」

「う、嘘、ですよね、母上……」

「嘘なら良かったのに……貴方の婚約破棄宣言など嘘なら、本当に良かったのに……」

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