上 下
124 / 139
番外編

2 利口者には花束を2

しおりを挟む
 内勤の制服と騎士団の制服は違う。遠目にお互いの姿を見て、ときめく心を抑えられなかった。

なんてカッコいい……。

 忘れると、心は封じたと誓ったのに……たった一日で「思うくらいは良いだろう」になっていた。そして常にお互いを探している。離れれば離れただけ想いは強くなるという現象を知らないふりをした。


「……」

 書類を届けに行った帰りに、遠回りして騎士団の訓練所を覗く。沢山の騎士達の中からすぐに黒髪のクロードを見つけた。

「クロード!振りが甘いっ!もっと早く!」

「はいっ!」

 訓練の一環だと分かっているが、クロードの至近にいる騎士に苦々しい思いが向いた。ずっと見ていたかったのに、足早に立ち去る。なんだ、この気持ち。そ己の心に耳を傾けてみれば、すぐに答えが出た。

「……嫉妬……」

 醜い炎がちろりと舌を出したのだと気が付き、愕然とする。

「私は、あの騎士に嫉妬した……?」

 頭を振って気持ちを切り替える。もうクロードとの事は終わった。嫉妬?馬鹿馬鹿しい!そんな事あるものかと。
 セイリオスは自分が自制出来る人間だと思っている。そんなくだらない理由で揺れたりしないと。
 現実は揺れに揺れ、大地震を引き起こしてしまうのだが、セイリオスは深呼吸する。

「私は、そんなくだらない躓きをする男じゃない」

 さっさと地位を得て、家の安泰を……。そう己を律している、つもりだった。



「セ……」

 声をかけなかった。王宮の渡り廊下を同僚らしい人間と何か話しながら歩いて行くセイリオスは相変わらず美しい。見惚れていたのもあるが、自分達の関係は終わったんだと思い出したからだ。
 迂闊に親しげに声をかけてはいけないと思った。

「なあ?見たか。今年入ってきた文官のリンツ家の息子、すげー美形だよな」

「ああ、あれはいいね。あの顔なら抱けるよ。もしかしたら、陛下からお声がかりがある……うおっ?!」

 バギィ!!と大きな音がして、打ち込み訓練用の人型がボッキリ折れていた。

「……すいません、先輩」

「あ、ああ。古かった、のかな?」

 そのすごく丈夫な筈の人型を折ったのはクロードで、折れる筈のないものだったがそれでもクロードは折った。何故そんな力が出たのか、何故そんなにイライラするのか。クロードは気づけない。



 二人は年々出世街道を駆け登って行くが、モヤモヤとした思いも年々膨らんで行く。騎士団に派遣されたセイリオスの部下はクロードに睨まれまくる。

あいつは、あいつは、いつもセリーの側にいたのか?!くっ!私が知らない働くセリーの横顔とか見たのか!ゆ、許せんんんんん!

「ひっ!き、騎士団長、な、何か御用ですか……」

「何でもない」

 セイリオスの部下は嫉妬の圧に耐えきれず3日で胃をやられて逃げ帰る。

「騎士団への派遣は嫌です!」

「……そうかでは誰か別の人を……」

 勿論皆、逃げ帰る。


 当然騎士団からの連絡もセイリオスの絶対零度の眼差しに耐えきれない。

あいつは……あいつはクロードの部下として毎日一緒に汗……汗とか流したり、時には「よく頑張ったな」なんて頭を撫でたり?いや、あり得ないクロードはそんな男ではいやしかし……クソッ!!

「ひ……しょ、書類はこれです……ヒイイイイっ」

 いかに肉体を鍛えた騎士でも魂の底まで凍えさせるような気迫の前では逃亡するしかない。

「もう絶対書類運びなんてしません!!」

「ん……?では別の者に……」


 こうして武官と文官のすれ違いはどんどん広がり連絡の不手際からいざこざが起こりそれはどんどん大きくなっていった。



 そしてセイリオスとクロードの婚約者の令嬢達が出入りするまでこの状況は続き、打破した令嬢達は

「女神!」

 と部下達から讃えられたが

「ふふ、女神は別にいるのですよ」「そうそう、私達も女神の恩恵を賜っただけですわ」

 と、華やかな笑顔を浮かべたので驚いた。

「セイリオスーちょっと田んぼ作りたいから予算ちょうだい。あとクロード、息の良さそうな騎士何人か貸してよー田植え手伝って~」

「私的流用はお断りですよ、側妃様」

「えーっだって、河川の決壊防止の為の工事にねじ込んでくれるって言ったじゃん!」

「……そう言う話でしたら、どうぞ」

「やったー!」

 ああ、またアイリスの君が何かやったんだな、と各部署でほっと溜息が漏れた。たまに突拍子もない事を言い出すけれど、あの陛下の寵妃はとても優しい。今日もどこかの部署に「アイリス・ドーナッツ」を差し入れしているんだろう。

「ああ、あの方が来てくれて本当に良かった!」

 今日もどこかで感謝されている事に当の本人は気が付かない。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

推し様の幼少期が天使過ぎて、意地悪な義兄をやらずに可愛がってたら…彼に愛されました。

櫻坂 真紀
BL
死んでしまった俺は、大好きなBLゲームの悪役令息に転生を果たした。 でもこのキャラ、大好きな推し様を虐め、嫌われる意地悪な義兄じゃ……!? そして俺の前に現れた、幼少期の推し様。 その子が余りに可愛くて、天使過ぎて……俺、とても意地悪なんか出来ない! なので、全力で可愛がる事にします! すると、推し様……弟も、俺を大好きになってくれて──? 【全28話で完結しました。R18のお話には※が付けてあります。】

処理中です...