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番外編
2 利口者には花束を2
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内勤の制服と騎士団の制服は違う。遠目にお互いの姿を見て、ときめく心を抑えられなかった。
なんてカッコいい……。
忘れると、心は封じたと誓ったのに……たった一日で「思うくらいは良いだろう」になっていた。そして常にお互いを探している。離れれば離れただけ想いは強くなるという現象を知らないふりをした。
「……」
書類を届けに行った帰りに、遠回りして騎士団の訓練所を覗く。沢山の騎士達の中からすぐに黒髪のクロードを見つけた。
「クロード!振りが甘いっ!もっと早く!」
「はいっ!」
訓練の一環だと分かっているが、クロードの至近にいる騎士に苦々しい思いが向いた。ずっと見ていたかったのに、足早に立ち去る。なんだ、この気持ち。そ己の心に耳を傾けてみれば、すぐに答えが出た。
「……嫉妬……」
醜い炎がちろりと舌を出したのだと気が付き、愕然とする。
「私は、あの騎士に嫉妬した……?」
頭を振って気持ちを切り替える。もうクロードとの事は終わった。嫉妬?馬鹿馬鹿しい!そんな事あるものかと。
セイリオスは自分が自制出来る人間だと思っている。そんなくだらない理由で揺れたりしないと。
現実は揺れに揺れ、大地震を引き起こしてしまうのだが、セイリオスは深呼吸する。
「私は、そんなくだらない躓きをする男じゃない」
さっさと地位を得て、家の安泰を……。そう己を律している、つもりだった。
「セ……」
声をかけなかった。王宮の渡り廊下を同僚らしい人間と何か話しながら歩いて行くセイリオスは相変わらず美しい。見惚れていたのもあるが、自分達の関係は終わったんだと思い出したからだ。
迂闊に親しげに声をかけてはいけないと思った。
「なあ?見たか。今年入ってきた文官のリンツ家の息子、すげー美形だよな」
「ああ、あれはいいね。あの顔なら抱けるよ。もしかしたら、陛下からお声がかりがある……うおっ?!」
バギィ!!と大きな音がして、打ち込み訓練用の人型がボッキリ折れていた。
「……すいません、先輩」
「あ、ああ。古かった、のかな?」
そのすごく丈夫な筈の人型を折ったのはクロードで、折れる筈のないものだったがそれでもクロードは折った。何故そんな力が出たのか、何故そんなにイライラするのか。クロードは気づけない。
二人は年々出世街道を駆け登って行くが、モヤモヤとした思いも年々膨らんで行く。騎士団に派遣されたセイリオスの部下はクロードに睨まれまくる。
あいつは、あいつは、いつもセリーの側にいたのか?!くっ!私が知らない働くセリーの横顔とか見たのか!ゆ、許せんんんんん!
「ひっ!き、騎士団長、な、何か御用ですか……」
「何でもない」
セイリオスの部下は嫉妬の圧に耐えきれず3日で胃をやられて逃げ帰る。
「騎士団への派遣は嫌です!」
「……そうかでは誰か別の人を……」
勿論皆、逃げ帰る。
当然騎士団からの連絡もセイリオスの絶対零度の眼差しに耐えきれない。
あいつは……あいつはクロードの部下として毎日一緒に汗……汗とか流したり、時には「よく頑張ったな」なんて頭を撫でたり?いや、あり得ないクロードはそんな男ではいやしかし……クソッ!!
「ひ……しょ、書類はこれです……ヒイイイイっ」
いかに肉体を鍛えた騎士でも魂の底まで凍えさせるような気迫の前では逃亡するしかない。
「もう絶対書類運びなんてしません!!」
「ん……?では別の者に……」
こうして武官と文官のすれ違いはどんどん広がり連絡の不手際からいざこざが起こりそれはどんどん大きくなっていった。
そしてセイリオスとクロードの婚約者の令嬢達が出入りするまでこの状況は続き、打破した令嬢達は
「女神!」
と部下達から讃えられたが
「ふふ、女神は別にいるのですよ」「そうそう、私達も女神の恩恵を賜っただけですわ」
と、華やかな笑顔を浮かべたので驚いた。
「セイリオスーちょっと田んぼ作りたいから予算ちょうだい。あとクロード、息の良さそうな騎士何人か貸してよー田植え手伝って~」
「私的流用はお断りですよ、側妃様」
「えーっだって、河川の決壊防止の為の工事にねじ込んでくれるって言ったじゃん!」
「……そう言う話でしたら、どうぞ」
「やったー!」
ああ、またアイリスの君が何かやったんだな、と各部署でほっと溜息が漏れた。たまに突拍子もない事を言い出すけれど、あの陛下の寵妃はとても優しい。今日もどこかの部署に「アイリス・ドーナッツ」を差し入れしているんだろう。
「ああ、あの方が来てくれて本当に良かった!」
今日もどこかで感謝されている事に当の本人は気が付かない。
なんてカッコいい……。
忘れると、心は封じたと誓ったのに……たった一日で「思うくらいは良いだろう」になっていた。そして常にお互いを探している。離れれば離れただけ想いは強くなるという現象を知らないふりをした。
「……」
書類を届けに行った帰りに、遠回りして騎士団の訓練所を覗く。沢山の騎士達の中からすぐに黒髪のクロードを見つけた。
「クロード!振りが甘いっ!もっと早く!」
「はいっ!」
訓練の一環だと分かっているが、クロードの至近にいる騎士に苦々しい思いが向いた。ずっと見ていたかったのに、足早に立ち去る。なんだ、この気持ち。そ己の心に耳を傾けてみれば、すぐに答えが出た。
「……嫉妬……」
醜い炎がちろりと舌を出したのだと気が付き、愕然とする。
「私は、あの騎士に嫉妬した……?」
頭を振って気持ちを切り替える。もうクロードとの事は終わった。嫉妬?馬鹿馬鹿しい!そんな事あるものかと。
セイリオスは自分が自制出来る人間だと思っている。そんなくだらない理由で揺れたりしないと。
現実は揺れに揺れ、大地震を引き起こしてしまうのだが、セイリオスは深呼吸する。
「私は、そんなくだらない躓きをする男じゃない」
さっさと地位を得て、家の安泰を……。そう己を律している、つもりだった。
「セ……」
声をかけなかった。王宮の渡り廊下を同僚らしい人間と何か話しながら歩いて行くセイリオスは相変わらず美しい。見惚れていたのもあるが、自分達の関係は終わったんだと思い出したからだ。
迂闊に親しげに声をかけてはいけないと思った。
「なあ?見たか。今年入ってきた文官のリンツ家の息子、すげー美形だよな」
「ああ、あれはいいね。あの顔なら抱けるよ。もしかしたら、陛下からお声がかりがある……うおっ?!」
バギィ!!と大きな音がして、打ち込み訓練用の人型がボッキリ折れていた。
「……すいません、先輩」
「あ、ああ。古かった、のかな?」
そのすごく丈夫な筈の人型を折ったのはクロードで、折れる筈のないものだったがそれでもクロードは折った。何故そんな力が出たのか、何故そんなにイライラするのか。クロードは気づけない。
二人は年々出世街道を駆け登って行くが、モヤモヤとした思いも年々膨らんで行く。騎士団に派遣されたセイリオスの部下はクロードに睨まれまくる。
あいつは、あいつは、いつもセリーの側にいたのか?!くっ!私が知らない働くセリーの横顔とか見たのか!ゆ、許せんんんんん!
「ひっ!き、騎士団長、な、何か御用ですか……」
「何でもない」
セイリオスの部下は嫉妬の圧に耐えきれず3日で胃をやられて逃げ帰る。
「騎士団への派遣は嫌です!」
「……そうかでは誰か別の人を……」
勿論皆、逃げ帰る。
当然騎士団からの連絡もセイリオスの絶対零度の眼差しに耐えきれない。
あいつは……あいつはクロードの部下として毎日一緒に汗……汗とか流したり、時には「よく頑張ったな」なんて頭を撫でたり?いや、あり得ないクロードはそんな男ではいやしかし……クソッ!!
「ひ……しょ、書類はこれです……ヒイイイイっ」
いかに肉体を鍛えた騎士でも魂の底まで凍えさせるような気迫の前では逃亡するしかない。
「もう絶対書類運びなんてしません!!」
「ん……?では別の者に……」
こうして武官と文官のすれ違いはどんどん広がり連絡の不手際からいざこざが起こりそれはどんどん大きくなっていった。
そしてセイリオスとクロードの婚約者の令嬢達が出入りするまでこの状況は続き、打破した令嬢達は
「女神!」
と部下達から讃えられたが
「ふふ、女神は別にいるのですよ」「そうそう、私達も女神の恩恵を賜っただけですわ」
と、華やかな笑顔を浮かべたので驚いた。
「セイリオスーちょっと田んぼ作りたいから予算ちょうだい。あとクロード、息の良さそうな騎士何人か貸してよー田植え手伝って~」
「私的流用はお断りですよ、側妃様」
「えーっだって、河川の決壊防止の為の工事にねじ込んでくれるって言ったじゃん!」
「……そう言う話でしたら、どうぞ」
「やったー!」
ああ、またアイリスの君が何かやったんだな、と各部署でほっと溜息が漏れた。たまに突拍子もない事を言い出すけれど、あの陛下の寵妃はとても優しい。今日もどこかの部署に「アイリス・ドーナッツ」を差し入れしているんだろう。
「ああ、あの方が来てくれて本当に良かった!」
今日もどこかで感謝されている事に当の本人は気が付かない。
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