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64 騎士団長とか言う男

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 クロードは最近機嫌が良くない。自分でも自覚していて、そのせいで部下が萎縮しているのも気がついている。しかし、どうも駄目なのだ。



「陛下の執務室へ行く途中だが?」

「……奇遇だな、私も第二保管庫へ用事がある」

「「朝からお前の仏頂面を見なければならんとは。今日は厄日か?」」

「「黙れ、うるさい。弱い者ほど良く囀る」」

「「何だと?!」」

 自分達の地位は高い、部下もたくさんいる。そんな自分達が揉めている姿を見せるのは良くないと分かっていてもどうも止められない……。

 本当にしたい事、本当に交わしたい言葉はおこなってはいけない事なのだから。あの睨みつける瞳の奥に蹲る炎の熱さに気が付いたのは学生の頃だったか。胸に手を当て思い起こせば同じ炎を自分も抱えている事。お互いにそれを包み隠し毎日くすぶり続ける苦しみに悶えている事。

「……陛下に呼び出されたのだったか」

「ああ……ディエス様もご一緒だ」

 その返事はどういう意味か。絶対に二人きりではないと言いたいのか。陛下は新しく迎えられた側妃のディエス様を大層お気に召してだろうが、氷で出来ているようで熱く燃え盛るような白百合は美しいから……。

「陛下は、百合は好かんらしい。もっぱらアイリスのみ愛している」

「……聞き及んでいる」

 近衛騎士達が陛下の護衛につくこともある。無論、夜間もだ。まだまだ王としてはお若い陛下が新しいく美しい花を愛でぬわけがない、しかも望んで手に入れたものならば尚更。クロードの表情はとても苦い。

「だから……」

「……」

 その先の言葉は聞かなくても分かっている。心配ない、そう言うんだろう?だが、分かっていてもざわつく心を押さえるのは中々難しい。
 その苛立ちが周りに伝播する、悪循環。

「本当に仕事の話しかしないのだ。こちらも真剣に向き合わねば、宰相の座から引きづり落されそうだ」

「はは……「せいせいする」」

「「黙れ」」

 お前が失敗すれば、自分達のこの絶対に埋まらぬ関係に少しはひびが入るだろうか……この心が少しでも慰められる結果が訪れるだろうか。何度も何度も自問自答したことをもう一度クロードは心の中で繰り返す。

「ない、だろうがな。側妃の「アイリスの君」はお優しい。私の力を高く評価してくださっている」

「そうか「残念だ」」

 良かったな、と素直に褒めてやることもできない。言いたいこととは逆の心にもない台詞を口から吐き出さなくてはならない。良かったな、心配だ、側に居たい……言えたならどれほど楽になれるのだろうか。

 二人の中を誤解されないよう、わざと不仲に見えるよう振る舞っている。それが部下達の不和をもたらしている事……しかし、これ以上は……。

 クロードとセイリオスは肩を並べて歩いていると陛下の執務室まですぐに着いてしまった。扉の前に立っている衛兵が姿勢を正して礼をする。

「陛下に呼ばれ、参上した。扉を開けてくれ」

 衛兵は少しだけ躊躇ってから

「あの、少しだけ……お待ち下さい」

 苦笑いをして、口の前に人差し指を立てた。静かにしろ、と言う事だ。すると聞くつもりは全くないのだが、執務室の中でのやり取りがうっすら聞こえて来る。


「えー?クッキー食わせろ?口に入れろって事か?」

「うむ、私はまだ仕事が残っていて両手が塞がっている。お前は終わったのだろう?」

「終わったけどさー。しゃーねーなぁ、ほら、あーん」

「ん」

「ほら、口開けろ。あーん」

「ん」


 これは陛下が側妃殿に「あーん」とか言われながらクッキーを食べさせてもらっているのか……っ?!握り拳に力が入り、短い爪が手のひらに食い込むようだ。

「すいません、今声をかけると陛下の機嫌が悪くなりますから……」

 なるほど、この衛兵はよく分かっているのだな……!それにしても……っ!

「き、騎士団長様……ひっ!?さ、殺気??!も、もう少し、もう少しだけ、お、お待ちおおおお……!ひぃいいーーー!」

「な、何でもない……う……」

 う ら や ま し い 

「ク、クロード、騎士団長……?」

「何でも……何でも、ない……っ」

 私も、私も……セイに、あーんとかして貰いたいっっ!!この苛立ち、どこにぶつけたら良いんだ!!!

「ひ、ひぃ……!」

 あまりのクロードの嫉妬が限界を突破した殺気に衛兵は腰が抜ける寸前だった。



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