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63 未来予測図は書いても良いが
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「ハインツ君、何かいい方法はないかね!?」
「すみません、私はそういう仕事に疎くて……」
「そう、だったな」
レジム公爵は焦っていた、書類を書き直しても何度も何度も不備だと突き返される。意味が分からずやっとの事で用紙のサイズに原因があると突き止めてからも、また突き返される。やっと要望書は用件のみを簡潔にまとめ、用紙サイズは整える事。と知ったのは2か月も経った後だった。約束の日まであと1ヵ月ほどしかない。
「お父様!ハインツ様は何を言っても聞いてくださらないし、何とかしてくださいませ!あれでは陛下のご様子やあの無能の弱みなど握る事が出来ません!」
レジム公爵の執務室へ娘のリリシアが来て、わあっと顔を覆って泣き出す。
「とはいえリリシア……ハインツ君は、噂とは違う男で……」
気弱令息、それがハインツの通り名だった。何を言われてもへらへらと笑い怒る事もないが自分の意見も薄い。周りに流されるだけの人物だともっぱらの噂だった。だから扱いやすいとレジム公爵は補佐につくことを許したがどうだろうか。
「いえいえ!私は若輩者ですから、公爵の足を引っ張りかねません。勉強させてください!」
と、ほぼ手伝う事はない。書類を書く事すら
「閣下の書記官の方が優秀ですし、私ではとてもとても……」
と、書いたことはない。そう、責任を伴う事柄、書類にハインツのサインが入った事は一度もない。
「ええ!婚約者とは本当に仲良く過ごさせてもらっていますよ!毎週街に出かけるのですが、いやあ!やはりディエス様が見つけてきてソレイユ様がお気に召したお店は混んでいて……あ、でも二人で並ぶとそれはそれで楽しくて。彼女との時間であれば何をしても良いものですね!」
聞いていてイラつくほど婚約者と上手く行っている話をこれでもかとしてくる。最初の頃、近寄ってきたリリシア相手にも自分の婚約者がいかに素晴らしいか語り、
「ほ、ほほ……そうでしたか……お幸せに……」
と、撃退した勇敢な面も見せる。頼りない風に揺れる柳の木だと思ったのに、どんどん大木に成長している印象すら見え始めている。レジム公爵は早々にハインツから情報を引き出すのを諦めた。
「金が……降りぬ」
しかしあと1ヵ月で結果を出さねばならない。やっと受理された申請書だが、これから審議をかけ、皇帝の元まで届き、そこからともなるといつになったら現金が手元にくるか分かったものではない。
「小口の現金であればそこまで大事ではないのですが、これほどの大金をお求めですと、審議に時間がかかりますね」
城の書記官にはそう言われたが、小金では騎士団員全員に金を配る事などできない。
「騎士団員とそして城の文官達……多すぎるんだ」
しかしそれを何とかしなくてはならない。
「……公爵家の金を使うか……うむ、この案件が成功すればかかった金額は経費としてもらえるはずだ。一時的に我が家のたくわえが減ったとしてもすぐに補填されるなら問題はない……しかし、鉱山を押さえられたのは痛いな……東の鉱山とその周りの薬草園は死守しないとな」
ブツブツと呟きつつ、レジム公爵はやっと重い腰を上げる。彼の計画……計画と呼べるほどの物とは思えないが、レジム公爵の頭の中では皇帝ラムシェーブルから報奨金を貰い受け、あの邪魔な側妃を排斥し、正妃ソレイユは離婚、娘のリリシアが正妃として立つ未来予想図が煌びやかに描き出されていた。
「我がレジム家はこれで安泰……ふふふ!」
レジム公爵の頭の中の未来図に金貨の雨を降らせる自分の姿を書き加え、彼は下卑た笑いをするのだった。
「すみません、私はそういう仕事に疎くて……」
「そう、だったな」
レジム公爵は焦っていた、書類を書き直しても何度も何度も不備だと突き返される。意味が分からずやっとの事で用紙のサイズに原因があると突き止めてからも、また突き返される。やっと要望書は用件のみを簡潔にまとめ、用紙サイズは整える事。と知ったのは2か月も経った後だった。約束の日まであと1ヵ月ほどしかない。
「お父様!ハインツ様は何を言っても聞いてくださらないし、何とかしてくださいませ!あれでは陛下のご様子やあの無能の弱みなど握る事が出来ません!」
レジム公爵の執務室へ娘のリリシアが来て、わあっと顔を覆って泣き出す。
「とはいえリリシア……ハインツ君は、噂とは違う男で……」
気弱令息、それがハインツの通り名だった。何を言われてもへらへらと笑い怒る事もないが自分の意見も薄い。周りに流されるだけの人物だともっぱらの噂だった。だから扱いやすいとレジム公爵は補佐につくことを許したがどうだろうか。
「いえいえ!私は若輩者ですから、公爵の足を引っ張りかねません。勉強させてください!」
と、ほぼ手伝う事はない。書類を書く事すら
「閣下の書記官の方が優秀ですし、私ではとてもとても……」
と、書いたことはない。そう、責任を伴う事柄、書類にハインツのサインが入った事は一度もない。
「ええ!婚約者とは本当に仲良く過ごさせてもらっていますよ!毎週街に出かけるのですが、いやあ!やはりディエス様が見つけてきてソレイユ様がお気に召したお店は混んでいて……あ、でも二人で並ぶとそれはそれで楽しくて。彼女との時間であれば何をしても良いものですね!」
聞いていてイラつくほど婚約者と上手く行っている話をこれでもかとしてくる。最初の頃、近寄ってきたリリシア相手にも自分の婚約者がいかに素晴らしいか語り、
「ほ、ほほ……そうでしたか……お幸せに……」
と、撃退した勇敢な面も見せる。頼りない風に揺れる柳の木だと思ったのに、どんどん大木に成長している印象すら見え始めている。レジム公爵は早々にハインツから情報を引き出すのを諦めた。
「金が……降りぬ」
しかしあと1ヵ月で結果を出さねばならない。やっと受理された申請書だが、これから審議をかけ、皇帝の元まで届き、そこからともなるといつになったら現金が手元にくるか分かったものではない。
「小口の現金であればそこまで大事ではないのですが、これほどの大金をお求めですと、審議に時間がかかりますね」
城の書記官にはそう言われたが、小金では騎士団員全員に金を配る事などできない。
「騎士団員とそして城の文官達……多すぎるんだ」
しかしそれを何とかしなくてはならない。
「……公爵家の金を使うか……うむ、この案件が成功すればかかった金額は経費としてもらえるはずだ。一時的に我が家のたくわえが減ったとしてもすぐに補填されるなら問題はない……しかし、鉱山を押さえられたのは痛いな……東の鉱山とその周りの薬草園は死守しないとな」
ブツブツと呟きつつ、レジム公爵はやっと重い腰を上げる。彼の計画……計画と呼べるほどの物とは思えないが、レジム公爵の頭の中では皇帝ラムシェーブルから報奨金を貰い受け、あの邪魔な側妃を排斥し、正妃ソレイユは離婚、娘のリリシアが正妃として立つ未来予想図が煌びやかに描き出されていた。
「我がレジム家はこれで安泰……ふふふ!」
レジム公爵の頭の中の未来図に金貨の雨を降らせる自分の姿を書き加え、彼は下卑た笑いをするのだった。
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