29 / 96
4.君と繋いだ手を離したくなかった
1
しおりを挟む
鈴音と手を繋いで外を歩いている。目を引くほどの美少女が隣にいるものだから、いつもより他人の視線を感じて居心地が悪い。鈴音を連れて買い物に行くにあたり、僕が考えた作戦は――。
「タクミ、恋人っていいな。ずっと手を繋いでいられるのは嬉しい」
僕よりもひと回りほど小さな手が、僕の手を握る力を少し強めた。『年下の幼馴染でもある恋人が、高校卒業を機に僕の家に転がり込んできたが、オシャレや身だしなみにあまりに無頓着で困り果てて、一緒に買い物に行くことにした』という設定。わざわざ説明するようなことはないだろうが、そういう設定を考えておくことで、僕自身も出かける決心がついた。
家を出てすぐに駆け出した鈴音を追いかけるのは大変だった。放っておくとどこに行ってしまうかわからないから、恋人は手を繋ぐものだと言い聞かせると、やっと隣を歩いてくれるようになった。手を繋いで歩くなんて恥ずかしくて嫌だけれど、仕方ない。
近場のショッピングモールに行けば、女性向けのファッションブランドはいくらでもある。後は売りたくてたまらない店員に任せておけば、勝手に買うべきものが決まってくるだろうという算段だった。ところが、女性ものの店はたくさんありすぎて、どこに入ればいいのかまったく見当がつかない。物珍しそうにきょろきょろとする鈴音の横で、僕は途方に暮れていた。
「工藤君?」
数メートル先からこちらに向かってくるのは、梨花さんだった。この前見た服装とは打って変わって、パンツスタイルだったけれど、洗練されていてよく似合っている。知らない人間に警戒しているのか、鈴音はそっと僕の後ろに隠れてしまった。
「やっぱり工藤君だ! こういうところ来ないイメージだったけど……あ、もしかしてデート中だった?」
梨花さんの視線は僕の後ろの鈴音に注がれた。デート中と言われ、すぐに否定しようと思ったけれど、道中考えた設定を思い出す。
「いや、あの、まあ、そういう感じ……です。昨日は料理ありがとうございました。おいしかったです」
「パパに聞いたけど、工藤君わたしと同い年らしいから、別に敬語なんか使わなくていいよ! でも、彼女いたなら余計なことしたかな?」
「彼女っていうか、幼馴染っていうか……」
ね、と鈴音に同意を求めたものの、話を聞いているのかいないのか、首を傾げられた。
「タクミ、恋人っていいな。ずっと手を繋いでいられるのは嬉しい」
僕よりもひと回りほど小さな手が、僕の手を握る力を少し強めた。『年下の幼馴染でもある恋人が、高校卒業を機に僕の家に転がり込んできたが、オシャレや身だしなみにあまりに無頓着で困り果てて、一緒に買い物に行くことにした』という設定。わざわざ説明するようなことはないだろうが、そういう設定を考えておくことで、僕自身も出かける決心がついた。
家を出てすぐに駆け出した鈴音を追いかけるのは大変だった。放っておくとどこに行ってしまうかわからないから、恋人は手を繋ぐものだと言い聞かせると、やっと隣を歩いてくれるようになった。手を繋いで歩くなんて恥ずかしくて嫌だけれど、仕方ない。
近場のショッピングモールに行けば、女性向けのファッションブランドはいくらでもある。後は売りたくてたまらない店員に任せておけば、勝手に買うべきものが決まってくるだろうという算段だった。ところが、女性ものの店はたくさんありすぎて、どこに入ればいいのかまったく見当がつかない。物珍しそうにきょろきょろとする鈴音の横で、僕は途方に暮れていた。
「工藤君?」
数メートル先からこちらに向かってくるのは、梨花さんだった。この前見た服装とは打って変わって、パンツスタイルだったけれど、洗練されていてよく似合っている。知らない人間に警戒しているのか、鈴音はそっと僕の後ろに隠れてしまった。
「やっぱり工藤君だ! こういうところ来ないイメージだったけど……あ、もしかしてデート中だった?」
梨花さんの視線は僕の後ろの鈴音に注がれた。デート中と言われ、すぐに否定しようと思ったけれど、道中考えた設定を思い出す。
「いや、あの、まあ、そういう感じ……です。昨日は料理ありがとうございました。おいしかったです」
「パパに聞いたけど、工藤君わたしと同い年らしいから、別に敬語なんか使わなくていいよ! でも、彼女いたなら余計なことしたかな?」
「彼女っていうか、幼馴染っていうか……」
ね、と鈴音に同意を求めたものの、話を聞いているのかいないのか、首を傾げられた。
1
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる