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Ⅳ 魔王の娘
2節 会議は舞闘 ①
しおりを挟む翌朝。睡眠不足ゆえ、その足取りは重い。そんなエイジが向かう先は、何時もの会議室である。最近は頻繁に会議し過ぎだとも感じていたが、刻一刻と状況は変わり続け、特に今日は最重要業務が概ね完了したというのだから、その報告会をナシにするわけにもいかず。やけに鈍い頭をなんとか回して、議題に上がるであろう今後のことを考える。
だが、もう少し長く考えたいという気持ちとは裏腹に、すぐドアの前に着いてしまう。さらに、昨日のように雑念が邪魔し、後ろの秘書になんとなく急かされているような感覚になって。怪訝に思われたくないから、変なところで立ち止まるわけにもいかなかった。
ドアの前で一呼吸入れ、ノックする。前に、耳をそばだてる。中からあまり聞き馴染みのない高い声がする。
「どうされました?」
「シッ……少し、待ってくれ。大したことではない」
案の定、怪訝な顔をされるが。千里眼使用。部屋を伺う。そこには__
「やっぱ、レイエルピナ……って、え~……」
彼女はレイヴンと何か親しそうに話している。ノクトとも、やや楽げに。しかも、なんと、比較的穏やかな微笑を浮かべながら。
「……あんなふうに、笑えるんだ……」
幹部らとは仲良さげで。エイジは疎外感やら何やら、悲しくなりながら。この空気を壊したくないと思い。だが、ここにずっと立ち止まるわけにもいかず。後ろからの圧、そして幹部は全員出席済みで自分が一番最後。意を決し、ノックしてすぐさま入室。
「よぉ、みんな。おはよう、遅くなってスマン」
「ああ、おはようエイジクン」
「おはようだ」
入るや否や、彼女から微笑みは消え、鋭い視線を向けられるが、さて。
「さあて、今日最初の議題は戦後処理の報告だな。で、それ以外は__」
「戦後処理以外の、この国の展望であるな」
「……やはり、か。あまり考えきれてないが、仕方ないな。ようし、では会議を始めるぞ! そしてささっと終わらせて、早く仕事をしようか!」
エイジはわざとらしく目を合わせようとせず。そのうちにダッキが、そしてテミスがこっそりと入り、シルヴァによって扉は閉ざされる。
「チッ……」
舌打ちすると、レイエルピナは扉へ向かう。彼女はエイジの開く会議になんぞ興味はなく、帰るのだろう。そう、思った者が多かったのだが。
「ふっ!」
「なッ⁉︎」
「「「‼︎」」」
扉近くの宰相にローキックを放ち、足払いを仕掛けた。その不意打ちに、エイジは姿勢を崩す。
「くっ」
だが、彼とて戦闘経験はある。流石の反射神経で手をつくが。
「ぐぅ!」
肩甲骨の間を踏みつけられ、不完全な受け身は崩れて、潰される。
「無様ね。これが魔王国の首相? ふざけてんじゃないわよ!」
罵倒と共に厚いブーツの踵でぐりぐりと踏み躙った。
「あ……がぁ」
「レイエルピナ様!」
エレンがすぐさま立ち上がり、レイエルピナを離そうとする。が__
「ああ、あぁ……イイ」
続く爆弾発言に、皆が凍った。ベリアル、ノクト、テミスにシルヴァ、レイエルピナでさえ例外なく。
「ハァ? キッモ……」
キモイ。その暴言はエイジの心にグッサリと深々と刺さったが、構わず。
「ああ、イイ……できれば、もう少し……下の方を」
「……ケッ、これでいい⁉︎」
一度足を上げると、今度は腰の辺りを思いっきり踏みつけ、そのまま踵でグリグリとするのだが。
「あっ、ああ……たまらない」
皆からの冷たい視線がエイジに突き刺さる。だが、彼は(見かけ上)全く意に介さない。
「ああ、そこぉ……コリが、ほぐれるぅ……」
最後の言葉。その意図を理解すると空気が解れ、苦笑いに包まれた。ただ一人を除いて。
「……フザっけんな! シッ‼︎」
「かぁ…⁉︎」
脇腹につま先が突き刺さる。今度ばかりは流石に堪えるか、エイジは声すら出せずに悶絶し、転げ回る。
「バカにして!」
「レイエルピナ様! 貴女といえど、やっていいことと悪いことが__」
「はあ? アンタ誰よ」
諌めようと割って入るシルヴァ。だが、レイエルピナの矛先は彼女へ向かった。
「私は、シルヴァです。彼の護衛兼秘書の__」
「ああ、いたわね、そんなヤツ。確か、何の役にも立たないくせに厚待遇の。なるほど、この宰相の秘書か。へぇ、いいじゃない、役立たず同士お似合いね!」
「それは……!」
「レイエルピナ嬢__」
「やめないか‼︎」
エスカレートの直前、威圧感のある声が会議室を貫く。その拍子にレイエルピナとシルヴァ、エリゴスの動きが止まる。その声の主はベリアル。ではなく__
「彼女は関係ないだろう。誰彼構わず当たり散らすのはやめなさい」
エイジである。脇腹はまだズキズキと痛いが、そんなこと気にしていられない。立ち上がった彼は、甘さを捨てた冷徹な目で傍若無人な小娘を射竦める。
「アンタにそんなこと言われ__」
「ほーう。魔王国の王女というのは、随分と品がないみたいだな。王女としての礼節も! 教養も、気品なんぞもどこにもないただの暴君! あーあ、コイツの親は一体どんな教育してんだろーね!」
「うくっ……」
唯一と言っていい程の弱み、養父ベリアル。彼を引き合いに出されては、レイエルピナは何も言えない。
「わかったら、席を用意してあるから大人しく座っていなさい。では、今度こそ会議を始める」
始まる前からこれである。荒れるに荒れることは、想像に難くない。
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