魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅱ 魔王国の改革

5節 エイジの肉体改造計画 ⑦

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「待たせたな。では、俺に聞きたいことというのは一体なんなのか、教えてくれ」

 待ちに待ったその日、朝からエイジとレイヴンは鍛錬場にいた。そして、エイジはレイヴンのその問いかけに、堕天使の翼を広げることで応えた。

「なっ……お前……!」
「聞きたいことっていうのは、堕天使の力の使い方、そして空の飛び方だ」

 エイジは驚くレイヴンに、魔族の力を手にしたことを伝える。そのことを聞いたレイヴンは顎に手を当て。

「なるほどな。確かに、それぞれの特性については俺ら幹部格に聞くのが手っ取り早い。それに、幹部の中で自力で、翼で空を飛べるのは俺くらいだしな。よし、いいだろう。早速始めるぞ」

 そう言うと、レイヴンも翼を展開した。彼のはエイジと比べて艶や大きさが優っており、特筆すべきは、翼が二対なことだろう。

「悪いが、エイジ。飛翔に関しては、一朝一夕で出来るようになるものではない。今後も時間があり次第教えていくが、そこは覚悟しておけ。大事なのは魔力の制御だ。コントロール技術はベリアル様のお墨付きがあるお前なら、いくらか早いかもしれないが、な。まあ、それは午後からだ。午前のうちに、堕天使の能力、『聖属性』の力について教えよう」

 レイヴンは手を掲げる。その掌に、光の槍が作られた。

 聖属性は各魔力属性の中にある、少々特殊な属性だ。所謂、『副属性』の一つ。

 副属性とは、主要九属性とは別に付加される属性の総称。例えば魔族特効や、魔獣特効などが該当する。つまり魔術とは、九属性×副属性×分類によって決まるのである。聖なら光と思うかもしれないが、全ての属性にある点が注意である。例えば浄化の炎や聖水などがいい例だ。

 聖属性は、魔を祓うため祝福された魔力である。怨念などを持つ霊体や、一度死したのちに邪法によって蘇った者、その他悪魔系列など神々に仇なす魔性の存在に有効である。総じて、穢れた魂を持つ者を滅する属性だ。

 その対極として、邪属性というものがある。すなわち神に仇をなす魔力。神々やその遣い、そして祝福を受けた聖者など、穢れなき魂を持つ者を堕とす魔力。ある程度高位の悪魔族やアンデッド系が保有する。

 どちらも、飽くまで一般人のような、善性も悪性も等しく持っているような者に対しては、効き目は薄い。

「堕ちた元天使だからな。穢れた光を扱う。ほとんど闇属性だが、幾らか浄化の力もあるから魔族に効くぞ。今使い方を教えてやる」

 レイヴンが言うには、堕天使としての力を感じながら、普通に魔力攻撃をすればいいとのこと。それであれば、今までの制御訓練や昨日のインキュバス特訓で魔族の性質を感じることに慣れていたエイジにとって、レイヴンが驚く程に、拍子抜けとばかりに出来てしまうのだった。

 因みに、聖属性の光槍を作ったり、空を飛ぶなんていうのは魔術でも出来る。更に言えば、幻影を見せたり五感を強化したりなんていうのも、魔術で代替可能。なのに、何故エイジは魔族になったか。それは、魔族の特殊能力であるならば、いちいち魔術として発動しなくても、魔力だけで感覚的に容易く行えてしまう。つまり楽だからである。

 呆気なく出来たものの、二人は一応ということで、午前は聖属性の扱いについて練習をした。そして__

「では、飛翔訓練だ」

 エイジが昼休憩を取っている間、レイヴンは資材を積み上げて高台を作っていた。

「まずは、ここから飛び降りる。その時翼を意識して滑空してみるんだ。それが基礎だ。恐らくだが__」

 レイヴンに促されるまま、エイジは台の上に立つ。そして深呼吸をひとつして、翼に魔力を込め、飛び降りた。が、特に何事もなくそのまま落下した。

「あ、あれ……?」

 その様子を見たレイヴンは、額に手を当てる。

「さすがに筋のいいお前と言えど、できないこともある、か」

 レイヴンにとって、このことは予想外だったらしい。つまり、習得はかなり遅くなるかもしれないということだ。

「一応、手本とコツを教えよう。だが、先に飛翔用魔術の方を習得した方がいい。あとで魔導書を手配しておく」

 レイヴンは先程エイジが立っていた場所に立つと、端から歩くように軽やかに飛び立ち、翼を広げて滑空していく。3mほどの高さから、20m程も滑空してみせた。

「いいか、俺たち魔族にとって、翼とは羽ばたくものではない。羽ばたいて飛ぶには小さすぎるし、体も重過ぎるからだ。それは飛竜とて同じこと。滑空したり、魔力を纏わせて、その噴射で飛んでいるようなものだ」

 その後、レイヴンは熱心に指導してくれたものの、エイジはどうにも上手く飛ぶことができなかった。やはり、エイジといっても苦手なことはあるのだ。そのため、その夜は飛翔の代替として魔術を勉強することとなった。

 空を飛ぶ魔術には、空飛ぶ魔術陣の上に乗って飛ぶものと、体そのものを浮かせるものがあった。当然前者の方が簡単で燃費もいいので、効率を考えるならほぼ一択のようなものだったが。
 

 そしてその翌日。なんとか午前中のうちに、やや不恰好ながらも滑空に成功したエイジ。彼は早速翼で飛翔する、その前に、レイヴンの提案で手足からの魔力噴射を練習することになった。彼が空を自由に飛べるようになるのは、まだまだ先のようである。
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