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第二章 失恋

3:初めて向けられる母からの関心

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この度、リリカの結婚相手を一から探さなければならない状況になって初めて、ローズの関心がリリカへ向けられた。

しかし、今のリリカはそれどころではない。

(ウィリアム様との結婚がなくなってしまったわ……きっと本当にこれきりだわ……)

リリカはローズに言われたことに落ち込む隙もないほど、とにかく大きなショックを受けていた……




その日からリリカは、部屋に籠って泣き続けた。
身体が干からびてしまうのではないかという程、泣きまくった。
食事なんて口にする気にもなれず、水を飲むことすら億劫だ。
必要最低限の行動以外は、ベッドに突っ伏して過ごした。
リチャードが何度か慰めに来てくれたが、リリカは布団を被って出て来ず、決して会おうとも会話をしようともしなかった。




リリカが部屋に籠り出して三日目、ローズがいきなりリリカの部屋を訪ねてきた。

「リリカ、いい加減にしなさい! この悔しさをバネに、"もっと地位の高い良い男性を射止めてやる"というくらいの心意気を見せなさい!」

リリカは布団を被っているためローズの姿は見えないが、きっといつも通り仁王立ちで腰に手を置いているだろう。
リリカは、言葉だけでそんないつもの様子を思い浮かべてしまい、その想像の中のローズの顔に嫌悪感を抱く。

(私は悔しいのではなくて、ただただ悲しいのよ……)

リリカはそう思ったが、口に出すことはしなかった。
ローズの相手をする心の余裕なんて、今のリリカは勿論持ち合わせてなどいない。

無反応なリリカに、ローズのこめかみに青筋が浮かぶ。
そしてローズはその布団を一気にはぎ、大声で言った。

「今からドレスを仕立てに行くわよ。これは命令よ。すぐに、準備をしなさい!」

リリカが布団の外の世界で見たローズの目は、思い浮かべたローズの瞳よりもずっと、酷く冷たいものだった……


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