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第四章 会えない時間

9:旅立ちのあと

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ウィリアムの屋敷へ向かう途中、馬車の中でリリカはあることに気付いた。

(えっ……ちょっと待って……? 研究者として成功したのだから、今後も研究を続けるにしても、ウィリアム様が当初言っていた問題は少なくなったのではないのかしら……?)

ウィリアムは、当面は貧乏研究者となることは免れたはずだ。
勿論、”当面は”だが……
とすれば、ウィリアムが言っていた"結婚出来ない理由"はかなり減ったはずである。
リリカは芽生えた少しの希望を胸に、自分を勇気付ける。

前のリリカなら、ショックが大きくならないようにと悪い方へ考えていただろう。
しかし、今のリリカは違う。
思考が人生に大きく影響を与えることを、もうちゃんと、わかっているのだ。





「急な訪問で申し訳ありません。ウィリアム様にお会いしたいのですが……」

入口まで出迎えてくれた伯爵は、残念そうな顔をしている。

「リリカ、とても綺麗になったね。見違えたよ。……それが、ウィリアムはもう隣国へ出発してしまったのだよ……」

「えっ……」

伯爵の言葉に、リリカは目の前が真っ暗になった。

「リリカ、大丈夫かい!? 少し休んで行くといい」

眩暈をおこしたリリカを、伯爵は客間に通してくれた……





「リリカ、久しぶり。本当に綺麗になったわね!……ウィリアムに会えずに残念だったわね……」

お茶を持って来たのは、ウィリアムの姉だった。
リリカはあまりのショックに何も言えず、ただ俯いている……

ウィリアムの姉は、そんなリリカを見ながら眉を下げた。

「……リリカ、私が伯爵を継ぐからウィリアムに研究を続けるように言い出したせいで、あなたの人生を大きく変えてしまったわ。……振り回して、本当にごめんなさい」

ティーカップに入った紅茶を見つめながら、真面目な顔でリリカは答える。

「……いいえ。ウィリアム様にとって、研究を続けられるようになったことは良いことですから……。そして私も、自分自身を見つめ直すきっかけになりましたし……」

「……リリカは、今はウィリアムのことをどう思っているの?」

「今もお慕いしています」

顔を上げたリリカは、迷いなく、ウィリアム姉の目を真っ直ぐに見て言う。

「そう……あのね、言いにくいのだけれど……、実は……また一年前とは状況が変わったの」

リリカはポカンとした顔で、言い難そうにしている姉を見つめた……


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