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第五章 キャサリンとスターリン

1:自分ではコントロール出来ない感情

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「私がウィリアム様と結婚するから、お姉様とスターリン様が結婚をすれば良いわ」

リリカかブルーム伯爵邸を訪れた翌日、キャサリンは急にリリカの部屋を訪ねて来て、そう声高に言った。

「だって、ウィリアム様は研究成果を出して、もう貧乏研究者の心配はないでしょう? だからもう、結婚出来るわよね? 私がウィリアム様と結婚すればお姉様も諦めがつくでしょう? スターリン様もお姉様のほうが良いみたいだし、そうしましょうよ」

リリカは開いた口が塞がらなかった。
勿論話の内容も驚きだが、それよりもキャサリンに対して驚いていた。
キャサリンは真っ赤に腫れた目に、今も涙を浮かべながらそう口にしているのだ。

「キャサリン、表情と言っていることが一致していないわ」

座ったままで目の前に立ちはだかるキャサリンを見上げながら、リリカは落ち着いた声で冷静に言う。

「それでもよ!」

「一体どうしたというの? あれほどスターリン様のことを慕っていたというのに……」

「お姉様がスターリン様を惑わせたのでしょう!? あれほど、私に見せつけるように仲良くして!!!」

「えっ?」

そこでリリカは"ハッ"とする。

(キャサリンは大きな誤解をしているわ!!!)

「キャサリン、誤解よ! スターリン様には相談に乗っていただいて、その後も気に掛けて下さっていただけよ! スターリン様と私は、そのような関係では一切ないわ!」

「痩せて綺麗になって、姿勢も良くなって、自信に満ち溢れて……今のお姉様は素敵よ。スターリン様が好きになってもおかしくないわ……」

「キャサリン、スターリン様にそのような気持ちは一切ないわ!」

一向に聞く耳を持って貰えないリリカは、慌てて椅子から立ち上がる。



”バンッ!!!”



急に部屋の扉が開き、ローズが入って来た。
ずっとキャサリンから門前払いを受けていたローズは、盗み聞きをしていたようだ。

「キャサリン、リリカにスターリンを盗られたのね!? なんて可哀そうなキャサリン! スターリンもどうかしているわ! キャサリンではなくてリリカなんかを選ぶなんて!!! 見る目がなさすぎるわ!」

キャサリンはローズを睨み付ける。

「お母様、いい加減にして! 今のお姉様は素敵よ。今は私のほうがずっと醜いわ!!!」

キャサリンは、今の自分の精神状態が酷いことを自覚していた。
しかし、一年以上も心の中でくすぶり続けたマイナスの感情を、キャサリンは自分でコントロールが出来なくなってしまっているのだ……

「こんな私、自分でも嫌! 元の私に戻りたい! もう疲れた! スターリン様のことをもう考えたくない……!!!」

キャサリンはその場に泣き崩れる。
ひとりで悩み続けた結果、キャサリンの脳は考えることを放棄してしまった。

リリカは、キャサリンに駆け寄って抱きしめた。
リリカがキャサリンを抱きしめたのは、初めてのことだった……

「これほどボロボロに傷付きながらも、私のことを庇ってくれたではない。やっぱりキャサリンは素敵よ。今は自分を見失ってしまっているだけだわ……」

(そしてそのきっかけを作ったのは私……なんとかしないと……)

今までに見たことのないキャサリンに、自分が応援してくれていたキャサリンを傷つけていた事実に、リリカは胸が締め付けられる。

リリカは深刻な顔で考え込みながら、キャサリンをなだめるようにトントンと、背中を一定のリズムで軽く叩く。
その一方で、キャサリンに初めて口答えをされたローズは、頭の中が真っ白でその場に固まっていたのだった……





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