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Ⅴ、敵は千二百年前の大聖女
49、顔のない御者と幽霊馬車
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馬車の魔力燈が、街道脇に建つ「王都マデ千M」の立て札を照らし出す。それを見たレモが、ある計画をこっそり耳打ちした。
「そういうつもりだったのかよ」
俺は苦笑しつつうなずくと、窓を開けて顔を出した。
「皆さまがた」
上に座っているイーヴォたちに声をかける。俺の高い話し声を聞いたレモが笑いをこらえているのが気に入らないが、ここは無視。自分でも違和感ハンパないが今は計画優先だ。
「そろそろ降りていただけませんか。わたくしたちの目的地に着きましたので」
「ジュリアちゃん、王都まで乗せて行ってくれるんじゃないの?」
イーヴォがべたっとした気持ち悪い笑みを浮かべて、俺を見下ろす。こいつ女の子の前だとこんな顔すんのか。初めて見たが鳥肌立つな。
「申し訳ありませんが、わたくしたちの目的地をお教えするわけにはいきませんので」
打ち合わせもしていないのに、優秀な御者が手綱を引いて馬を止めた。公爵夫人がじきじきに頼んだだけあって、なかなかできる男だ。
サムエレが率先して、イーヴォとニコに声をかけてくれる。
「降りましょう。さっき千Mの立て札を通り過ぎました。城門までは歩いてもすぐです」
地上に降り立ち窓の下にやってきた彼に、俺は褒美を与えてやることにした。
「聞き分けの良いイイ子ですこと」
にっこりとほほ笑んで見下ろすと、真っ赤になったサムエレは落ち着かない様子で眼鏡の位置を直した。ほほーう、いつも偉そうなこいつも女の子相手だとこんな反応なのか。
「おいらだって降りるぜ!」
「俺様もな!」
ニコラとイーヴォも我先にと、馬車の後方の踏み台に足を伸ばしているようだ。
「おい邪魔だぞ」
「押さないでくださいよ、イーヴォさん!」
くだらないことでもめる二人。でかい足音を立ててイーヴォが窓の下に歩いてくる。
「王都で会おうな、ジュリアちゃん!」
俺は無言で冷たい視線をくれてやった。お前のことは一番嫌いだ。
「俺様に惚れさせるぜ!」
それレモにも言ってたよな。どこから来るんだ、その自信。
俺は悲しそうな表情を作って首を振り、
「仲間を手下としか思っていないぞんざいな態度……わたくし、思いやりのない方には惹かれませんの」
「くっ」
「なんだかあなたって、いざとなったら仲間を危険なところに置き去りにして自分だけ逃げそうなんですもの」
「うっ」
つい先日、俺をダンジョンに置き去りにしたイーヴォは言葉につまる。慌ててニコとサムエレのえり首をつかまえると、
「行くぞほら!」
と去って行った。
イーヴォたちの灯す光明が揺れながら次第に遠ざかってゆく。木々の闇に吸い込まれて見えなくなったころ、
「そろそろいいかしら」
レモが窓から身を乗り出して、御者にあるものを渡した。
それから指先で光明の印を結び、
「聖なる光よ―― 我らを取り巻きて、蒼き煌めき放ちたまえ。蒼き光明」
呪文を唱えると、青い光がぼんやりと馬車の表面を包んだ。レモは窓から外をのぞいて魔術のかかり具合を確認すると、満足げにうなずいた。
次は俺の番だ。
「聞け、風の精。汝が大いなる才にて、低き力の柵《しがらみ》凌《しの》ぎ、我らを運び給え。鴻闊空揚翼!」
俺のイメージに従い馬車全体がふわりと浮き上がる。音もたてずに街道をすべってゆく。
重なる枝の向こうに、イーヴォたちの姿が見え隠れする。音のしない馬車に気付くはずもなく、細い街道を三人並んで歩いている。
「上を通るか」
俺はちょっと精霊力の出力を増やして、馬車を木々の高さまで持ち上げた。驚いた馬が、
「フッフッ」
と鼻を鳴らしたので、御者が長い鞭の先で落ち着けるように彼らの背中をたたいた。
「ごめんよぉ、お馬さんたち」
つぶやく俺にレモがちょっと笑いながら、
「馬車を引く仕事かと思ったら、馬車と一緒に空飛ぶなんて彼らもびっくりよね」
馬の鼻息で気が付いたのか、何気なく振り返ったサムエレが足を止めた。
「ほ、本当に出た……」
「出たって?」
問い返したニコも、サムエレの視線の先をたどって硬直した。
「ゆ……幽霊馬車――」
「顔無し御者が操る幽霊馬車――本当だったとは……」
御者には黒い仮面をかぶってもらっただけだが、夜空に浮かんでいると顔が無いように見えるんだろう。
「なに言ってんだ、お前ら」
バカにした声でつぶやいたイーヴォ。馬車を見上げるや否や、
「ああ、ア、ぁ――」
息も絶え絶えになり、その場にバタンと倒れてしまった。
「イーヴォさん?」
「イーヴォくん!」
慌てて駆け寄る二人。サムエレがすぐに手首を持ち上げ脈を確認する。
「気絶しているだけだ。回復魔法をかけましょう」
マジかよ。あんなに強がってたくせに気絶するのか。
街道で立ち止まった三人の上を、馬車はふわりふわりと行き過ぎ、王都の城壁を目指す。
「な、なんだあれは!?」
夜勤の門番が、夜空から近づく俺たちを指さして声をあげるが、
「睡魔」
ぱたん。
一瞬にして熟睡してくれた。
俺は城壁を越えたところで、馬車をゆっくりと地上に下ろした。聖堂までの道は御者が知っている。月夜の静寂を破るように、馬車は寝静まった聖都ラピースラの石畳を走り始めた。
-----------------
次回、いよいよ聖堂へ!
「今の聖女に会うのか?」
「この国の王妃なんだよな?」
「瑠璃石も出てくるのかな・・・」
等々、続きが気になりましたらお気に入り追加してお待ちください☆
「そういうつもりだったのかよ」
俺は苦笑しつつうなずくと、窓を開けて顔を出した。
「皆さまがた」
上に座っているイーヴォたちに声をかける。俺の高い話し声を聞いたレモが笑いをこらえているのが気に入らないが、ここは無視。自分でも違和感ハンパないが今は計画優先だ。
「そろそろ降りていただけませんか。わたくしたちの目的地に着きましたので」
「ジュリアちゃん、王都まで乗せて行ってくれるんじゃないの?」
イーヴォがべたっとした気持ち悪い笑みを浮かべて、俺を見下ろす。こいつ女の子の前だとこんな顔すんのか。初めて見たが鳥肌立つな。
「申し訳ありませんが、わたくしたちの目的地をお教えするわけにはいきませんので」
打ち合わせもしていないのに、優秀な御者が手綱を引いて馬を止めた。公爵夫人がじきじきに頼んだだけあって、なかなかできる男だ。
サムエレが率先して、イーヴォとニコに声をかけてくれる。
「降りましょう。さっき千Mの立て札を通り過ぎました。城門までは歩いてもすぐです」
地上に降り立ち窓の下にやってきた彼に、俺は褒美を与えてやることにした。
「聞き分けの良いイイ子ですこと」
にっこりとほほ笑んで見下ろすと、真っ赤になったサムエレは落ち着かない様子で眼鏡の位置を直した。ほほーう、いつも偉そうなこいつも女の子相手だとこんな反応なのか。
「おいらだって降りるぜ!」
「俺様もな!」
ニコラとイーヴォも我先にと、馬車の後方の踏み台に足を伸ばしているようだ。
「おい邪魔だぞ」
「押さないでくださいよ、イーヴォさん!」
くだらないことでもめる二人。でかい足音を立ててイーヴォが窓の下に歩いてくる。
「王都で会おうな、ジュリアちゃん!」
俺は無言で冷たい視線をくれてやった。お前のことは一番嫌いだ。
「俺様に惚れさせるぜ!」
それレモにも言ってたよな。どこから来るんだ、その自信。
俺は悲しそうな表情を作って首を振り、
「仲間を手下としか思っていないぞんざいな態度……わたくし、思いやりのない方には惹かれませんの」
「くっ」
「なんだかあなたって、いざとなったら仲間を危険なところに置き去りにして自分だけ逃げそうなんですもの」
「うっ」
つい先日、俺をダンジョンに置き去りにしたイーヴォは言葉につまる。慌ててニコとサムエレのえり首をつかまえると、
「行くぞほら!」
と去って行った。
イーヴォたちの灯す光明が揺れながら次第に遠ざかってゆく。木々の闇に吸い込まれて見えなくなったころ、
「そろそろいいかしら」
レモが窓から身を乗り出して、御者にあるものを渡した。
それから指先で光明の印を結び、
「聖なる光よ―― 我らを取り巻きて、蒼き煌めき放ちたまえ。蒼き光明」
呪文を唱えると、青い光がぼんやりと馬車の表面を包んだ。レモは窓から外をのぞいて魔術のかかり具合を確認すると、満足げにうなずいた。
次は俺の番だ。
「聞け、風の精。汝が大いなる才にて、低き力の柵《しがらみ》凌《しの》ぎ、我らを運び給え。鴻闊空揚翼!」
俺のイメージに従い馬車全体がふわりと浮き上がる。音もたてずに街道をすべってゆく。
重なる枝の向こうに、イーヴォたちの姿が見え隠れする。音のしない馬車に気付くはずもなく、細い街道を三人並んで歩いている。
「上を通るか」
俺はちょっと精霊力の出力を増やして、馬車を木々の高さまで持ち上げた。驚いた馬が、
「フッフッ」
と鼻を鳴らしたので、御者が長い鞭の先で落ち着けるように彼らの背中をたたいた。
「ごめんよぉ、お馬さんたち」
つぶやく俺にレモがちょっと笑いながら、
「馬車を引く仕事かと思ったら、馬車と一緒に空飛ぶなんて彼らもびっくりよね」
馬の鼻息で気が付いたのか、何気なく振り返ったサムエレが足を止めた。
「ほ、本当に出た……」
「出たって?」
問い返したニコも、サムエレの視線の先をたどって硬直した。
「ゆ……幽霊馬車――」
「顔無し御者が操る幽霊馬車――本当だったとは……」
御者には黒い仮面をかぶってもらっただけだが、夜空に浮かんでいると顔が無いように見えるんだろう。
「なに言ってんだ、お前ら」
バカにした声でつぶやいたイーヴォ。馬車を見上げるや否や、
「ああ、ア、ぁ――」
息も絶え絶えになり、その場にバタンと倒れてしまった。
「イーヴォさん?」
「イーヴォくん!」
慌てて駆け寄る二人。サムエレがすぐに手首を持ち上げ脈を確認する。
「気絶しているだけだ。回復魔法をかけましょう」
マジかよ。あんなに強がってたくせに気絶するのか。
街道で立ち止まった三人の上を、馬車はふわりふわりと行き過ぎ、王都の城壁を目指す。
「な、なんだあれは!?」
夜勤の門番が、夜空から近づく俺たちを指さして声をあげるが、
「睡魔」
ぱたん。
一瞬にして熟睡してくれた。
俺は城壁を越えたところで、馬車をゆっくりと地上に下ろした。聖堂までの道は御者が知っている。月夜の静寂を破るように、馬車は寝静まった聖都ラピースラの石畳を走り始めた。
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次回、いよいよ聖堂へ!
「今の聖女に会うのか?」
「この国の王妃なんだよな?」
「瑠璃石も出てくるのかな・・・」
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