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第一章、聖女編/Ⅰ、旅立ちと覚醒
01、物心ついた俺は、自分がひとと違うことに気付いた
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「うふふ! ジュキったら帝国一強いのに、帝国一の美少女ね!」
「からかうなよ」
目をそらすと、運悪く壁の鏡が目に入った。そこに映るのは、エメラルドの瞳が印象的な銀髪ツインテ美少女。半分魔物のような姿に生まれついた俺が女装だなんて、終わってる!
「はぁぁぁ……」
重いため息をついた俺に、
「私はそんなジュキが大好きよ!」
そう言って彼女は、少しだけ背伸びして俺の頬に口づけしてくれた。
「あんたのことは俺が守るから――」
彼女のきらめくピンクブロンドをそっとなでる。
俺を愛してくれる彼女を聖女になんかさせねえし、王太子のとこになんかやるもんか!
* * *
レジェンダリア帝国。それは「水の大陸」のほとんどを支配する、さまざまな文化や宗教を持つ人々によって構成された大きな国。
俺が生まれた竜人族の村は、その海沿いに広がる亜人族の自治領内にある。
物心ついてしばらくすると俺は、自分の姿がねえちゃんや両親と違うことに気付いた。
「ねえちゃん、どうしてジュキだけこんななの?」
両手を見つめながら不安な気持ちで尋ねたのは、四歳ごろだったと思う。俺の白い手には水かきと、透明なかぎ爪が生えていた。
「ジュキちゃんは奇跡の夜に生まれたから、特別なのよ!」
ねえちゃんは俺を元気づけるように明るい声で答えたが、俺はとてもそんなふうに思えなかった。みんなと一緒がよかったよ……
「いいか、ジュキエーレ。お前は先祖返りした姿で生まれたんだ」
親父が小さな俺の身長に合わせるように、かがんで答えた。親父もねえちゃんも、ほかの竜人族と同じようにとがった耳と、牙のような犬歯を持っている。そこは俺も一緒なんだけど、問題は肌の色。絹のように白い上、手足は真珠のごとく輝くうろこに覆われている。
「せんぞがえり?」
オウム返しに尋ねると、
「そう、俺たちのご先祖様は、真っ白い竜だっていう伝説があるんだぞ!」
親父は満面の笑みを浮かべて、俺の頭をガシガシとなでた。
「だからジュキ、お前ももう少し大きくなって魔法が使えるようになったら、村一番の勇者になるかもな!」
「そうよ、ジュキちゃん」
ぐつぐつとおいしそうな音をたてるスープをかきまわしていた母さんも、振り返った。
「ジュキちゃんが生まれた日の翌日には、わざわざ旅の聖女様が村に立ち寄って祝福を授けてくださったんだから」
「しゅくふく?」
首をかしげる俺の服を、ねえちゃんがいきなりめくった。
「ほら、これよ! ジュキちゃんの胸にはきらきらした聖石が埋め込まれてるでしょ! ジュキちゃんをいつも守ってくれるってこと!」
俺の胸の真ん中には、小さな身体には大きすぎる宝石が嵌まっていた。
「そうだぞー、ジュキ。ドラゴンの血が濃いお前は、きっと大きな魔法が使えるようになるぞ!」
家族だけじゃなく村の人たちからも期待されていたけれど――
――俺はみんなの期待を裏切ることになった。いくら待っても魔力の兆候が現れなかったのだ。
村の子供たちは五、六歳にもなれば近所の魔術師匠のもとへ通って、読み書きと一緒に魔力の扱い方を学ぶ。
「やーい、魔力無し!」
赤髪のいじめっ子イーヴォがはやし立てると、
「先祖返りのくせに役立たず!」
いつもイーヴォにくっついている黒髪のニコも口をそろえる。
俺は何も言えずにうつむいた。だって役立たずなのは本当だもん……
俺より三つ年上のイーヴォはすでに鍛冶屋の父親を手伝っていたし、二つ上のニコは魔法で畑を耕すことができた。
「ジュキちゃんをいじめるなーっ!」
家の中からねえちゃんが、フライパン片手に飛び出してくる。
守られてばかりいる自分が情けなくて、俺の足は次第に、いじわるな子供たちが集まる魔術師匠の家から遠のいていった。
ねえちゃんがほかの子供たちと一緒に魔術師匠の家に行ってしまったある日の朝、俺は風に乗って流れてくるパイプオルガンの音色に導かれて、村の真ん中にある精霊教会をのぞいた。
「ようこそ。小さなお客さん」
ひんやりとした聖堂の中で、一人音楽を聴いていた俺に気付いた神父様は、演奏をやめると立ち上がって俺を見下ろした。オルガンの椅子は中二階みたいなところにあった。
「坊やも弾いてみるかい?」
「いいの!?」
俺は目を輝かせた。
古くて大きなパイプオルガンの左右には、たくさんボタンやレバーが並んでいて、操作するたび音色が変わるのだ。鍵盤を押すと荘重な音が石造りの壁に響きわたる。
パイプオルガンに夢中になった俺は、教会に入り浸るようになった。神父様は音楽だけじゃなく、読み書きや精霊教会の神話についても教えてくれた。
「むかーし昔、世界にまだ何もなかったころ、空から四大精霊王が降りてきました。彼らはそれぞれ火、土、空気、水を作り出し、そこから命が生まれたのです。我々竜人族は、水をつかさどる竜の精霊王の子孫なんだよ。さあ、命の源となった精霊王たちに祈りを捧げよう」
俺は手を合わせてちょっと目をつむってから、
「ねえ、しんぷさま。きょうもオルガンさわっていい?」
「もちろん。ふいごに風魔法をかけるから少し待っていなさい」
オルガンの立ち並んだパイプに空気を送るため、神父様はいつでも風魔法を使ってくれた。
ある日俺が右手だけでオルガンを弾きながら、旋律を口ずさんでいると、
「ジュキの声は綺麗だね」
神父様がおだやかにほほ笑んだ。
「ジュキのこえ、きれい……?」
神父様の言葉を口の中で繰り返したとき、心にぱっと花が咲いた。村の高台から見える、陽射しに輝く海みたいにキラキラした気持ちになった。
みんなから期待されているのに魔法も使えない、ほかの子供たちより身体が小さくて弱くて友だちもできない、そんな俺に初めて「価値のあるところ」が見つかったのだ。
それから俺は毎日聖堂に通って、神父様から聖歌を習った。
冬至の精霊祭の日、俺は教会に集まった村人たちのために歌った。
「この子の声は、なんと澄んで美しいのだろう――」
「心を満たす歌声だ」
「恍惚としてなにも考えられなくなる――」
みんな俺の歌を気に入ってくれたみたいで、ほっとした。だがそのとき、聖堂の端からあざ笑うイーヴォの声が聞こえてきたのだ。
「けっ、女みてぇに高い声で歌いやがって、かっこ悪ぃ!」
「こらっ、イーヴォ! よしなさい!」
周りの大人たちが慌てて止めるが、イーヴォは声変わりの始まった変な裏声で俺の歌を真似した。
「みーみーうぉぉぉか~たむけぇなさ~~いぃ」
「馬鹿か、お前は!」
イーヴォの親父さんが息子の耳を引っ張って聖堂の外に連れて行った。
俺は唇をかんで悔し涙をこらえていた。きっと俺の白い顔はいつもと違って朱に染まっていただろう。でも幸い、俺の立つ聖歌隊席は聖堂の床より高いから、きっと誰にも見えない……
その次の日から俺は、以前ほど足繁く精霊教会に通わなくなった。
春になるころ、何を勘違いしたのか両親が、小さな竪琴をプレゼントしてくれた。
「お前のかっこいい先祖返りした手でも、こいつなら弾きやすいだろ?」
贈った側の親父が、俺より満足そうな顔をしている。
指の間に薄い膜が張った俺の手では、鍵盤楽器が弾きにくかったのは事実だけれど。
高い声を嘲笑されて傷付いたとはいえ、歌うと生きていることを確かめられた。だから俺は一人、村の高台へ行って竪琴だけを友に弾き歌うようになった。
「ジュキは歌に関する<ギフト>を授かってるんじゃねぇか?」
夏の夕食時、親父が豆と夏野菜の冷製スープを口に運びながら言い出した。暑い季節はいつも、うちの家族は親父が木材を手に入れて屋根の上に作ったテラスで食事を取っていた。
「ギフト?」
俺が首をかしげると、
「ギフトっていうのはね――」
母さんが聞く者の心を癒すような落ち着いた声で教えてくれた。
「――生まれながらの才能や、小さいころに身につけた能力のことよ。私たち帝国の民はみんな、一つか二つ――時には三つギフトを持っているの」
「魔法のこと!?」
早く魔法を使えるようになりたくて、俺は声を高くして身を乗り出した。
「ちょっと違うわね。発動するのに魔力が必要なギフトもあるけれど、魔法と関係ないものも多いのよ」
なぁんだ。つまんないの。
「ギフトってどうやったら分かるの?」
俺よりねえちゃんが興味を持って尋ねると、親父が説明を始めた。
「領都にある冒険者ギルドに登録すると調べてくれるんだ。この村にゃぁギフトや魔力を鑑定する水晶がないからな」
「魔力!?」
聞き捨てならない言葉に俺は顔を上げた。
「そうだぞ。父さんだってギルドに登録したときに調べてもらったんだ。それから幼馴染たちと組んだパーティで帝国中を旅したのさ」
「いいなあ。俺も強い冒険者になりたいよ……」
「なれるさ!」
胸を張った親父をねえちゃんと母さんが止める。
「ジュキちゃんに危険なこと吹きこまないでよ!」
「男の子のほとんどが一度は冒険者になるなんて、竜人族くらいよ?」
親父はまったく意に介さず、
「ジュキ、お前はちょっと成長が遅いだけだ。ギルドに登録できるのは十五歳から。その頃には父ちゃんみたいに強い竜人になってるさ」
親父の言葉は俺の胸を期待でいっぱいにした。
「お前が冒険者を目指すなら、父ちゃんが使ってた魔法剣をゆずってやるぞ!」
「やったー!」
俺は手の中のパンを放り投げて飛び上がった。
「俺、明日から剣の修行する!」
「偉いぞ、ジュキ!」
親父は目を細めて、俺の癖っ毛をガシガシと力強くなでた。
日よけのため頭上に張った帆布が、風に吹かれてバタバタと音を立てる。陸から海へと帰っていく風に導かれるように、俺は赤茶けた瓦屋根が連なるその向こう――夕日にきらめく海を見つめた。
俺は、広い世界と自由な冒険に胸を躍らせていた。
-----------------
次回、ジュキエーレが同じ村の仲間たちと旅立ちます。ギルドで魔力&ギフト鑑定を行うよ!
その結果はどうやら「普通」ではなかったようで――?
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「からかうなよ」
目をそらすと、運悪く壁の鏡が目に入った。そこに映るのは、エメラルドの瞳が印象的な銀髪ツインテ美少女。半分魔物のような姿に生まれついた俺が女装だなんて、終わってる!
「はぁぁぁ……」
重いため息をついた俺に、
「私はそんなジュキが大好きよ!」
そう言って彼女は、少しだけ背伸びして俺の頬に口づけしてくれた。
「あんたのことは俺が守るから――」
彼女のきらめくピンクブロンドをそっとなでる。
俺を愛してくれる彼女を聖女になんかさせねえし、王太子のとこになんかやるもんか!
* * *
レジェンダリア帝国。それは「水の大陸」のほとんどを支配する、さまざまな文化や宗教を持つ人々によって構成された大きな国。
俺が生まれた竜人族の村は、その海沿いに広がる亜人族の自治領内にある。
物心ついてしばらくすると俺は、自分の姿がねえちゃんや両親と違うことに気付いた。
「ねえちゃん、どうしてジュキだけこんななの?」
両手を見つめながら不安な気持ちで尋ねたのは、四歳ごろだったと思う。俺の白い手には水かきと、透明なかぎ爪が生えていた。
「ジュキちゃんは奇跡の夜に生まれたから、特別なのよ!」
ねえちゃんは俺を元気づけるように明るい声で答えたが、俺はとてもそんなふうに思えなかった。みんなと一緒がよかったよ……
「いいか、ジュキエーレ。お前は先祖返りした姿で生まれたんだ」
親父が小さな俺の身長に合わせるように、かがんで答えた。親父もねえちゃんも、ほかの竜人族と同じようにとがった耳と、牙のような犬歯を持っている。そこは俺も一緒なんだけど、問題は肌の色。絹のように白い上、手足は真珠のごとく輝くうろこに覆われている。
「せんぞがえり?」
オウム返しに尋ねると、
「そう、俺たちのご先祖様は、真っ白い竜だっていう伝説があるんだぞ!」
親父は満面の笑みを浮かべて、俺の頭をガシガシとなでた。
「だからジュキ、お前ももう少し大きくなって魔法が使えるようになったら、村一番の勇者になるかもな!」
「そうよ、ジュキちゃん」
ぐつぐつとおいしそうな音をたてるスープをかきまわしていた母さんも、振り返った。
「ジュキちゃんが生まれた日の翌日には、わざわざ旅の聖女様が村に立ち寄って祝福を授けてくださったんだから」
「しゅくふく?」
首をかしげる俺の服を、ねえちゃんがいきなりめくった。
「ほら、これよ! ジュキちゃんの胸にはきらきらした聖石が埋め込まれてるでしょ! ジュキちゃんをいつも守ってくれるってこと!」
俺の胸の真ん中には、小さな身体には大きすぎる宝石が嵌まっていた。
「そうだぞー、ジュキ。ドラゴンの血が濃いお前は、きっと大きな魔法が使えるようになるぞ!」
家族だけじゃなく村の人たちからも期待されていたけれど――
――俺はみんなの期待を裏切ることになった。いくら待っても魔力の兆候が現れなかったのだ。
村の子供たちは五、六歳にもなれば近所の魔術師匠のもとへ通って、読み書きと一緒に魔力の扱い方を学ぶ。
「やーい、魔力無し!」
赤髪のいじめっ子イーヴォがはやし立てると、
「先祖返りのくせに役立たず!」
いつもイーヴォにくっついている黒髪のニコも口をそろえる。
俺は何も言えずにうつむいた。だって役立たずなのは本当だもん……
俺より三つ年上のイーヴォはすでに鍛冶屋の父親を手伝っていたし、二つ上のニコは魔法で畑を耕すことができた。
「ジュキちゃんをいじめるなーっ!」
家の中からねえちゃんが、フライパン片手に飛び出してくる。
守られてばかりいる自分が情けなくて、俺の足は次第に、いじわるな子供たちが集まる魔術師匠の家から遠のいていった。
ねえちゃんがほかの子供たちと一緒に魔術師匠の家に行ってしまったある日の朝、俺は風に乗って流れてくるパイプオルガンの音色に導かれて、村の真ん中にある精霊教会をのぞいた。
「ようこそ。小さなお客さん」
ひんやりとした聖堂の中で、一人音楽を聴いていた俺に気付いた神父様は、演奏をやめると立ち上がって俺を見下ろした。オルガンの椅子は中二階みたいなところにあった。
「坊やも弾いてみるかい?」
「いいの!?」
俺は目を輝かせた。
古くて大きなパイプオルガンの左右には、たくさんボタンやレバーが並んでいて、操作するたび音色が変わるのだ。鍵盤を押すと荘重な音が石造りの壁に響きわたる。
パイプオルガンに夢中になった俺は、教会に入り浸るようになった。神父様は音楽だけじゃなく、読み書きや精霊教会の神話についても教えてくれた。
「むかーし昔、世界にまだ何もなかったころ、空から四大精霊王が降りてきました。彼らはそれぞれ火、土、空気、水を作り出し、そこから命が生まれたのです。我々竜人族は、水をつかさどる竜の精霊王の子孫なんだよ。さあ、命の源となった精霊王たちに祈りを捧げよう」
俺は手を合わせてちょっと目をつむってから、
「ねえ、しんぷさま。きょうもオルガンさわっていい?」
「もちろん。ふいごに風魔法をかけるから少し待っていなさい」
オルガンの立ち並んだパイプに空気を送るため、神父様はいつでも風魔法を使ってくれた。
ある日俺が右手だけでオルガンを弾きながら、旋律を口ずさんでいると、
「ジュキの声は綺麗だね」
神父様がおだやかにほほ笑んだ。
「ジュキのこえ、きれい……?」
神父様の言葉を口の中で繰り返したとき、心にぱっと花が咲いた。村の高台から見える、陽射しに輝く海みたいにキラキラした気持ちになった。
みんなから期待されているのに魔法も使えない、ほかの子供たちより身体が小さくて弱くて友だちもできない、そんな俺に初めて「価値のあるところ」が見つかったのだ。
それから俺は毎日聖堂に通って、神父様から聖歌を習った。
冬至の精霊祭の日、俺は教会に集まった村人たちのために歌った。
「この子の声は、なんと澄んで美しいのだろう――」
「心を満たす歌声だ」
「恍惚としてなにも考えられなくなる――」
みんな俺の歌を気に入ってくれたみたいで、ほっとした。だがそのとき、聖堂の端からあざ笑うイーヴォの声が聞こえてきたのだ。
「けっ、女みてぇに高い声で歌いやがって、かっこ悪ぃ!」
「こらっ、イーヴォ! よしなさい!」
周りの大人たちが慌てて止めるが、イーヴォは声変わりの始まった変な裏声で俺の歌を真似した。
「みーみーうぉぉぉか~たむけぇなさ~~いぃ」
「馬鹿か、お前は!」
イーヴォの親父さんが息子の耳を引っ張って聖堂の外に連れて行った。
俺は唇をかんで悔し涙をこらえていた。きっと俺の白い顔はいつもと違って朱に染まっていただろう。でも幸い、俺の立つ聖歌隊席は聖堂の床より高いから、きっと誰にも見えない……
その次の日から俺は、以前ほど足繁く精霊教会に通わなくなった。
春になるころ、何を勘違いしたのか両親が、小さな竪琴をプレゼントしてくれた。
「お前のかっこいい先祖返りした手でも、こいつなら弾きやすいだろ?」
贈った側の親父が、俺より満足そうな顔をしている。
指の間に薄い膜が張った俺の手では、鍵盤楽器が弾きにくかったのは事実だけれど。
高い声を嘲笑されて傷付いたとはいえ、歌うと生きていることを確かめられた。だから俺は一人、村の高台へ行って竪琴だけを友に弾き歌うようになった。
「ジュキは歌に関する<ギフト>を授かってるんじゃねぇか?」
夏の夕食時、親父が豆と夏野菜の冷製スープを口に運びながら言い出した。暑い季節はいつも、うちの家族は親父が木材を手に入れて屋根の上に作ったテラスで食事を取っていた。
「ギフト?」
俺が首をかしげると、
「ギフトっていうのはね――」
母さんが聞く者の心を癒すような落ち着いた声で教えてくれた。
「――生まれながらの才能や、小さいころに身につけた能力のことよ。私たち帝国の民はみんな、一つか二つ――時には三つギフトを持っているの」
「魔法のこと!?」
早く魔法を使えるようになりたくて、俺は声を高くして身を乗り出した。
「ちょっと違うわね。発動するのに魔力が必要なギフトもあるけれど、魔法と関係ないものも多いのよ」
なぁんだ。つまんないの。
「ギフトってどうやったら分かるの?」
俺よりねえちゃんが興味を持って尋ねると、親父が説明を始めた。
「領都にある冒険者ギルドに登録すると調べてくれるんだ。この村にゃぁギフトや魔力を鑑定する水晶がないからな」
「魔力!?」
聞き捨てならない言葉に俺は顔を上げた。
「そうだぞ。父さんだってギルドに登録したときに調べてもらったんだ。それから幼馴染たちと組んだパーティで帝国中を旅したのさ」
「いいなあ。俺も強い冒険者になりたいよ……」
「なれるさ!」
胸を張った親父をねえちゃんと母さんが止める。
「ジュキちゃんに危険なこと吹きこまないでよ!」
「男の子のほとんどが一度は冒険者になるなんて、竜人族くらいよ?」
親父はまったく意に介さず、
「ジュキ、お前はちょっと成長が遅いだけだ。ギルドに登録できるのは十五歳から。その頃には父ちゃんみたいに強い竜人になってるさ」
親父の言葉は俺の胸を期待でいっぱいにした。
「お前が冒険者を目指すなら、父ちゃんが使ってた魔法剣をゆずってやるぞ!」
「やったー!」
俺は手の中のパンを放り投げて飛び上がった。
「俺、明日から剣の修行する!」
「偉いぞ、ジュキ!」
親父は目を細めて、俺の癖っ毛をガシガシと力強くなでた。
日よけのため頭上に張った帆布が、風に吹かれてバタバタと音を立てる。陸から海へと帰っていく風に導かれるように、俺は赤茶けた瓦屋根が連なるその向こう――夕日にきらめく海を見つめた。
俺は、広い世界と自由な冒険に胸を躍らせていた。
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