妖精の園

華周夏

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【第71話】フィルとレガートの夜

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「やっと掴んだ幸せを、離したくない。僕は欲張りになった。失ったら怖いものが増えた」


    としがみつきながら言った。
レガートは、

『顔を上げてくれないか?』


と柔らかな口調で言い、

上を向いたフィルの涙を、
優しく白い指で拭う。





『大切なものやひとが増えたということだ。欲張りじゃない。
今の私の願いはフィルと共に生き、
老い、空に行くことだ。
フィルを残してはいけない。
舞踏会では心配をかけた』


「クレシェンド、
幸せそうにアクセント王と手を取り合って、空に昇って消えちゃったね……」


クレシェンドは、一連の扱いで倫理観や大切なものを思う心が壊れてしまったのかとフィルは思った。

レガートの爪、フィルに変化しレガートを操って邪術までかけた。






 フィルとレガートは、ベッドに横になり、とりとめのない話をする。

その中でずっと訊いてみたかったことを、口ごもりながらフィルは訊く。

「あのさ、レガート。レガートは赤ちゃん、欲しい?」

『難しい質問だな。
もちろん欲しいが。私に似たら、生きにくい。可哀想だ。それに、
人間と妖精の子は授かりにくい』

「そっか。僕は…会いたかったな……仕方ないね」

『そうだな。きっとフィルに似た美しく、優しく聡い子になったろうな』
    
清々しい甘いレガートの匂いは眠りへと誘う。
    



いつの間にか寝てしまい、
目を覚ますと

窓際のソファーでレガートは寝ていた。
フィルは水を飲み、
レガートに毛布をかけて上げようとした
瞬間手を捕まれた。


『フィルか。すまない。軍人の性だな。最近寝ていても深く寝れない』

「『つづき』はしないの?」

『フィルがいいなら』

「──触れて、レガート」

それから先はあまり覚えていない。
何しろ広いベッドがあるのにベッドまで待てずにソファーで抱きあった。
    

その日のレガートは激しかった。
達し続け、
訴えても続けられる行為。いつしかフィルは与えられ続ける快楽に堕ちる。
    
広い、星が見つめる天井を背景に、
レガートの少し汗ばんで湿った髪と口づけが降りてくる。
長い口づけを交わしながら、
繋がった身体を揺さぶられる。
    
何回も、求め、求められ、
身体はもう限界なのにフィルの欲だけは



レガートを欲しがる。
レガートが奥を突く度、嬌声をあげ
快楽を享受した身体は悦ぶ。


レガートがフィル最奥を突いた瞬間、
フィルは目が眩む恐怖すら覚えるような快感を感じ、

叫びにも似た声をあげ、達し、
レガートも眉根に皺を寄せ
フィルの体の最奥に大量の精を放った。

達した後なのにレガートの吐精に感じ、
フィルは足を痙攣させ、再び達し、
そのまま溶けてしまうように意識を失った。
    


気がつくと、
まだ息は整っておらず、
肺は速く上下するままだ。

レガートは腰布姿で、乱れた髪もそのままに、ふわふわのタオルで行為の後を拭き取ってくれていた。
    

何だか違和感がある。脚の間に硝子の栓のようなものがついている。


「何これ!レガート!取って!レガート!」

『妊娠栓だ。子供が出来る確率が、上がるから……あと五分我慢してくれ……』

「レガート……」

赤ちゃんの話をしたから?

寂しがり屋で、
焼きもちやきの、
不器用な、

フィルのいとしい失えないひと。

『泣いて、いるのか?すまない………さすがに自分でもあの抱き方は激しかったと反省している。
悪かった。久しぶりで。つい………以後気をつける。すまなかった』

「ううん。いい。謝らないで」
   
 裸だったはずなのに薄紫の薄絹を巻かれている。

レガートが、巻いてくれた。
起き上がろうとすると、
お腹が、コポッと音を立てた。
初めて聴く音だ。



まるで『待って、じっとして』
と言われているようだった。

しばらくするとお腹の音は何も反応はなくなってしまった。




フィルはお腹を押さえる。
いつか会いたい。レガートとの赤ちゃん。 
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