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【第92話】レガートのほしいもの
しおりを挟む天井が一面星空だ。
きらきら光ってとても綺麗だ。
フィルは大きなソファに深く腰掛け星空を眺め、レガートに「来て」と、ソファに手招きする。
二人でしばらく星を見た。
「綺麗だね」
『魔術師長からの祝いの品だ。『とても助かりました。感謝いたします』としか聞いていない。何かしたのか?』
「これ……」
フィルは指輪からまるい薬を作る工程をレガートに見せた。
『すごいな。癒しの魔法はこの世には存在しない。妖精の気を分けるのは誰でも出来るが、分けた分だけ与えた者の生命力は失われる。下手をすれば命取りの自殺行為だ』
「レガート……」
フィルはじっと切なそうにレガートを見つめる。レガートはフィルから目を逸らした。
『私は相応のことをした。謝って許される問題ではない。自分は愚かで簡単に騙された。術が解けたら本当のフィルは酷い栄養失調で、私は言葉にも、心にも、お前のボロボロに傷ついた小さな手でさえも、触れることも出来なくなっていた。もうフィルが、私を見て、心から笑うことはもうない。そう思えて……死のうと思った…。でも、今は生きたい。フィルと生きたい。
ずっと、一緒に生きて、フィルの願いのように『平穏』が欲しい。穏やかな、幸せが欲しい』
あの三ヶ月、フィルは待ち続けた。
あのとき死んでいたら、クレシェンドのようになっていたとフィルは思う。
ひたすら身体を失っても、
空にいくことを拒み、
レガートに執着し、
廊下を彷徨う影に成り果てた。
今まで色々なことがあった。
やっと手に入れた幸せ。
離したくない。
心の中にあった、色々な感情が溢れて、フィルはレガートの背中にぎゅっと手を回し、幼い子供のようにしゃくりあげ、声を出し泣いた。
レガートは、フィルの髪を撫でながら、
『すまない。フィル。たくさん泣いていい。今日は休もう』
と言い、ふわりとレガートはフィルを抱きかかえ、
大きな薄紫のベッドカバーに見事な金絹の刺繍の、柔らかな寝台に横たわらされる。
向かい合い、しばらく泣き続けるフィルの背をレガートはゆっくりとさする。
レガートの腕が、胸が、暖かくて、
かけられる声音が柔らかくて、
ますますフィルは泣いてしまう。
昔、泣くときははひっそり、誰にも見つからないように、泣いていた。
今、想うひとの胸の中で、泣いてばかりいる。安心して泣ける場所が出来た。
柔らかなベッド、
爽やかに甘いフィルの一番好きなひとの匂いにつつまれ、そしてそのひとの温かな体温を感じながら。見上げれば少し困ったような微笑みにぶつかる。
フィルは、泣き顔のままレガートに言った。
「広間でレガートが倒れ込んだとき、レガートが死んじゃったんじゃないかと思って、心の臓が握りつぶされるかのように痛んで、怖かったよ。それに、エーエフの剣を渡されたとき、自分の手でレガートを空に送らなければならないかもしれないということが怖くて、怖くて震えがとまらなかった。もう、あんな思いはもうしたくない」
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