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【最終話】未来の妖精の王と王妃
しおりを挟む時は流れて……………
『君、大丈夫?脚を怪我しているよ。ひどい怪我だ!お母様は薬草にも詳しいんだ。
見てもらおう』
「私、薬草は効きにくいの。
それに、あなた………」
テヌートが、脚を木の枝に引っかけ、
ざっくり切った女の子を、
抱きかかえフィルのもとに連れてきた。
テヌートは、レガートそっくりな男の子。
顔の造作はレガートを幼くした感じがする。可愛いフィルとレガートの子供。
髪は黒、
爪は薄紫。
ただ、羽根は金色だ。
『母上!この子の傷を治して下さい!』
テヌートの腕の中の娘が平伏していった。
「フ、フィル様! も、申し訳ございません。下賤の身が会話できるような方ではないのに」
フィルは首を横に振る。
「貴賤の関係はないですよ。ほら、傷を見せて」
「すみません、私なんかの傷を治して下さるなんて」
フィルは癒しの指輪を使い、女の子の傷を治す。
『お母様と同じ金色の髪だね。凄く珍しいんだよ。金色の髪は王妃様とお母様しかいないんだよ。家はどこ?母上が治療して下さったから送っていくよ』
「ひとの世界から迷い森を抜けて来たの。だから、家はないです」
それまで口を開かずにいたフィルが娘の手を握る。ぼんやり紅く光り、それを見て口を開く。
「魔力は、ひとなのにあるのね。私も同じなの。これから寒くなるから、外に送り届けるわけにはいかない。テヌートの世話係になってくれる?あなたならテヌートは駄々はこねなさそうだから」
「嬉しいです!誠心誠意お仕え致します。ですが、そんな、私なんかが………」
「記憶が見えたの。ひとの世界で虐げられて。迷い森で、死ぬ寸前になりながらも生き長らえて、食べるのは森の木の実。
あなたは生きる悲しみも、苦しみも絶望すら知っているけど、光を見失わなかった。
ドルチェ・クレシェンド。空が遣わせたのかしら………」
皆、解らない顔をしている。確かにあの白亜の離宮であったことなどは、ほとんどのひとから忘れ去られた。
空は稀に人の死と同時に生まれ変わりを差し出す。
正しく生き直せと。
あまりにも、
不幸な境遇にあったものが多い。
ごく少数のひとしか知らない。
勿論このクレシェンドも本当に知らない。
「は、はい。一生懸命お仕えします、あの、フィル様」
「何?」
「どうして、私の名を………」
「記憶が見えたの。それだけ。あなたの潜在魔力は桁違いだね。良かったら術は私が教えるから、テヌートの護衛もお願いしようかな。ちゃんとお給金は出すよ。私は今日は非番だけど、普段は親衛隊の副長をやっているの。早めに話を通せば、親衛隊の訓練が見られるよ。さて、そろそろ旦那様が帰られる時間だね。夕飯の仕度だよ、テヌートも手伝って。クレシェンド、あなたもおいで。暖かいスープを作ろう………」
────────《完》
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