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神獣の姿【第19話】──④
しおりを挟む自分は理性はある。自制心も。けれど今の空の言葉で音をたててそれらは崩れた。
「……軽く、口を開けて。目を瞑って。息継ぎの声は、出していい」
空の長い睫毛に見とれる。暫くずっと、唇を重ねていた。空の口の中は熱く、甘い味がする。空の息継ぎの声は見た目とは違い、艶やかに色っぽい。暁の家じゃなかったら押し倒している。
実際、この後手洗いを借りて、自慰をした。思い浮かべたのは、口づけた後の自分に身を任せた空の姿だった。今の空は繭から羽化したての蝶のようだ。美しいが、何処かまだ頼りない。
手洗いから帰り、着替えを手伝ってやる。淡い水色。帯は薄緑色。流水に笹が流れるようだ。空の長いまっすぐな髪が映える。着替えるとき何かにひっかけたのか、包帯が半分以上解けてしまっていた。
「え………?」
驚いたのは傷痕だった。蒼の爪の形に濃い桜色になっているだけだ。二、三日で元通りだ。山神さまは、空が自分に術をかけられない制約の代わりに高い自己治癒の力を与えたのか。
「傷が消えている………」
「あ、ほんとだ。痛くないと思ったら、治ってる!」
村の子供にやられた深い傷や、打ち身、肋骨のひびも、治っていた。
「普段なら一週間くらいかかるんだけど。五日かからないなんて。痕もきっと残らないよ」
「この傷が一週間?」
「うん。変なの?」
「いや、いいことだ。本当に良かった」
普通なら一ヶ月は寝込むとは言わなかった。自分が愛しいと思う相手は、山神さまの子。この想いは身分違いなのだろうか。
許されるのか。もちろん自分が祈る相手は山神さまだけだ。他は誰の指図も受けるつもりはない。
一秒も時間が惜しくて、誰にも見せたくない狗の容貌に戻って、蒼は空に会いに戻った。狗の姿が一番速く駆けれるからだ。
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