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神獣の姿〖第19話〗──③
しおりを挟む「そうにいちゃん、真っ黒でつやつや。宵闇みたい。綺麗………。触ってもいい?」
頷き身体を伏せると、空は長毛の首元に顔を埋め、片手で喉を撫でた。気持ちが良かった。温かで柔らかな匂いのする空の指。
「狛犬ってこういうことだったんだね。あ、お日さまにあたってるとこ、きらきら蒼く反射してる!光る蝶々の羽みたい」
「………空は、昔と同じことを言うんだな。だから、俺の名前は蒼。珍しい色らしい。一族はみんな白いからな。色々言われた。だから、言わせないよう努力をした。空だけだ。空なら、この姿を見られてもいい」
空は顔を首元に顔を埋めたまま傷ついていない左手で背をそっと撫でた。
「つらかったね。そうにいちゃん。小さいそうにいちゃんに会いたいよ。ぎゅっとしてあげたい」
「空………」
少し待っていてくれ、そう言い蒼は何かを唱える。狗の身体から、いつものひとの姿になった。紺色の着物姿だ。眼鏡もかけている。
「不思議……術なの?」
「まあな。獅子尾家の方と暁に挨拶をしてくる。空は着替えを持ってきた。着替えていてくれ」
用意されたのは美しい着物。けれど空は上手く着替えられない。あたふたとしているうちに時間が過ぎる。
「空、着替えたか」
廊下の障子を開けると半裸の空が四苦八苦しながら着物を着ていた。
「上手に着れなくて。いつもシャツだから……」
細い背中。欲しい、その思いは消えない。感情のままに後ろから空を抱きしめる。ほんのり、甘い匂いがする。
「そうにいちゃ………」
昔、一緒に寝たときと同じ。口づけたときとも同じ匂い。肩を掴み自分の方を向かせ、口づけた。
絡めるように、何度も口づけた。抱きしめた所から感じる熱。空と口唇を重ねている、その事実からの甘い陶酔の熱。
「くるし………」
小さな空の呟きに、蒼は我に返る。口唇を離し、俯く。本能に流される自分が恥ずかしい。
「す、すまない。急に……こんな」
「そうにいちゃんなら、いいよ。でも、慣れてなくて。そうにいちゃん、教えて?」
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