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山神さまの子〖第16話〗──②
しおりを挟む今、蒼は、もしもの婚約や祝言に備えていた。婚約や祝言を無理に決められたら相手を狛井家に残し、自分は空と暮らす。相手には悪いが自分は空しか愛せない。
愛するつもりもない。そのために空の家を綺麗にして、使い勝手をよくした。空の家だけ引かれていない電気も人間の村から通した。
留守長の祖父は特に反対もせず許してくれた。祖父は曲がったことが嫌いなので、改まり、全て話した。出会いから、そこにあった傲慢さ。芽生えた邪な気持ちも、その後の行為も、無様な自分も。そして、恋をし、今、空に夢中な自分がいること。他に誰かを愛するつもりはないこと。もし、婚約や祝言を無理に決められるなら、自分はこの家を捨てるということもきちんと話した。祖父は、
「初恋か。まるで炎のようだな。まさか聡明なお前がここまで空様に恋し、狂うとは。山神さまも、罪深いのう」
ほほほっと祖父は笑った。
「山神さまと、空に何の関係が?それに空『様』とは?巷の噂では空の母は『穢れた巫女』など言われて……」
「あの巫女は、華乃様は穢れてなどいない!山神さまが唯一愛した女人だ。形だけの珠移しの儀にさえ山神さまはいらっしゃり、子を作るのに華乃様の魂の珠をほとんど取らなかった。華乃様が臥せることを心配なされてな。華乃様からほんの少しだけ珠を取り、その代わりのほとんどを山神さま自ら魂の珠の力を与え、子を作った。それが、空様よ」
あの子は山神さまの子よ。その力を色濃く受け継いだ、尊く、美しい奇跡の子じゃ──。祖父は茶を啜りながら話を続ける。
「村の上の方は空様の秘密を知っておる。だから、噂を流した。『穢れた巫女』の話をな。流せと行ったのは巫女自身の華乃様よ。空様を守るために」
「守る、ため?」
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