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ずっと待ってる『第17話』
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出された茶を、手に取る。温くなり、飲み頃だ。
「邪な気持ちを抱いたと言ったな?」
カッと顔が赤くなるのを感じた。あのときを思い出す。綺麗な顔、白い肌、『そうにいちゃん』と甘い声を出す赤い唇。恥ずかしく、小さく頷き縮こまる。
「自制心が強く、術の力の下地があり、聡明なお前すら、魅せられる。その姿を見ただけで。しかも、山神さまと空様は同じ術を使う。癒しの術だ。その力を悪用しようと……汚い虫が群がるのは一目瞭然じゃ。だから華乃様は空様を守るために『わざと』根も葉もない話を広めるよう頼み、自ら村八分になった。空様には可哀想だが、空様を守るにはそれしか道はない。空様は術は使うがひとなのだ。術は術者を殺すのよ。空様は神ではない。永遠の力は、ないのだ。心の優しい空様は人のために自らを犠牲にする。癒しの術で生命を削り、人を救う。待つのは、気を使い果たしての衰弱による死だ。空さまは、困った者を切り捨てる非情さを持てぬ。後は狛井家で世話をするか、獅子尾家で世話をするか……どちらも空様は肩身が狭い思いをするだろう。最善は神官じゃ。それから、あと一ヶ月経ったらお前の記憶を消す。まあ、空様との蜜月を楽しめ」
「どうしてですか!何で、嫌です忘れたくない!空を忘れたくない!」
「周りを見ろ!うつけが!空様の息苦しさも解らんのか!お前以外は空様の悪口三昧。『穢れた巫女の子』として空様は生きてきた。華乃様の遺言状にもあったように、空様が神官になるまで、これからずっとだ。秘密を知ったものは暗示をかける。空様が神官になった際は全てを明かすがな。空様の暮らしは、密かにお前の父に命じ、生活に困らないようにするから安心せよ。悪いようにはしない。宿命だとはいえ狛井家のこの環境は空様にはあまりに憐れだ………諦めなさい。この家は見目だけ美しい金魚鉢よ。空様を、水に返してやりなさい、蒼」
正座の膝におかれた自分の手が震える。ずっと一緒にいられると思っていた。この想いは、後悔しない。恥ずかしいものではない。ただ、恋した相手は山神さまの子。あまりにも身分違いだった。それでも思わずにはいられない。
『一生をかけて守ります。だから、一緒にいることを許して下さい』
と。あまりにも悲しい。空を忘れたくない。こんなに好きなのに。こんなに愛しいのに。好きだけではだめなのか。何よりも大切なのに。そして、空はまた、孤独に生きるのか。
神官にはあと五年。それだけの年月を、独りで外に出れば『穢れた巫女の子』と言われ。石を投げられて、虐げられ。これが最善なのか。
「だから、婚約話ですか。俺には無理です。一生を空に捧げます。この想いは空以外にはありません」
「……だから珠合わせの約束したのか」
ギクッとした。自分と空の話は全部筒抜けだということか。
「空様は、その間お前を待ち続ける。十五歳までと安易に約束したお前を!ずっとな!空様に術をかけるなど不可能。術師が負ける。幼い空様は愛しいお前をただひたすら待ち続けることになる!空様には上手く言っておく。下がりなさい。婚約は、破棄しておく………」
泣くつもりなんかないのに目頭が熱くなる。忘れてしまうのか、この白菊も、寒桜も。隣で笑う、空も。あまりにも、つらすぎる。
「風が変わったよ。もうすぐ、雪が降るよ」
「こんなに晴れているのに?」
「うん。風花、降るよ。ほら!きらきら綺麗だよ。最初の雪だね………そうにいちゃんと見れてよかった。そうにいちゃん、空はね、そうにいちゃんのことずっと好きだよ。『永遠は、幻だ』なんて言うけど、空は……そうにいちゃんを信じてる。だから、忘れないで、空のこと、忘れないで。春になったらそうにいちゃんの家を出るよ。そうにいちゃんのお祖父さんが泣きながら謝ってた。
『婚約は致しませぬ、けれど蒼を忘れてくだされ』
って。でも、そうにいちゃん、空が十五歳になったら祝言をあげるんでしょ?それまでに準備をして迎えに来てくれるんでしょ?お祖父さんに、
『そうにいちゃんと珠合わせの約束をしました。僕はずっと待っています』
って言ったら、
『再会したとき、最初、蒼に会っても、悲しまないでくだされ。宿命の星があるなら必ず蒼は空様を見つけます。そして答えを見つけます。そうしたら珠合わせを。それは宿命です』
って。僕は待ってるよ。ずっと、待ってるから」
「邪な気持ちを抱いたと言ったな?」
カッと顔が赤くなるのを感じた。あのときを思い出す。綺麗な顔、白い肌、『そうにいちゃん』と甘い声を出す赤い唇。恥ずかしく、小さく頷き縮こまる。
「自制心が強く、術の力の下地があり、聡明なお前すら、魅せられる。その姿を見ただけで。しかも、山神さまと空様は同じ術を使う。癒しの術だ。その力を悪用しようと……汚い虫が群がるのは一目瞭然じゃ。だから華乃様は空様を守るために『わざと』根も葉もない話を広めるよう頼み、自ら村八分になった。空様には可哀想だが、空様を守るにはそれしか道はない。空様は術は使うがひとなのだ。術は術者を殺すのよ。空様は神ではない。永遠の力は、ないのだ。心の優しい空様は人のために自らを犠牲にする。癒しの術で生命を削り、人を救う。待つのは、気を使い果たしての衰弱による死だ。空さまは、困った者を切り捨てる非情さを持てぬ。後は狛井家で世話をするか、獅子尾家で世話をするか……どちらも空様は肩身が狭い思いをするだろう。最善は神官じゃ。それから、あと一ヶ月経ったらお前の記憶を消す。まあ、空様との蜜月を楽しめ」
「どうしてですか!何で、嫌です忘れたくない!空を忘れたくない!」
「周りを見ろ!うつけが!空様の息苦しさも解らんのか!お前以外は空様の悪口三昧。『穢れた巫女の子』として空様は生きてきた。華乃様の遺言状にもあったように、空様が神官になるまで、これからずっとだ。秘密を知ったものは暗示をかける。空様が神官になった際は全てを明かすがな。空様の暮らしは、密かにお前の父に命じ、生活に困らないようにするから安心せよ。悪いようにはしない。宿命だとはいえ狛井家のこの環境は空様にはあまりに憐れだ………諦めなさい。この家は見目だけ美しい金魚鉢よ。空様を、水に返してやりなさい、蒼」
正座の膝におかれた自分の手が震える。ずっと一緒にいられると思っていた。この想いは、後悔しない。恥ずかしいものではない。ただ、恋した相手は山神さまの子。あまりにも身分違いだった。それでも思わずにはいられない。
『一生をかけて守ります。だから、一緒にいることを許して下さい』
と。あまりにも悲しい。空を忘れたくない。こんなに好きなのに。こんなに愛しいのに。好きだけではだめなのか。何よりも大切なのに。そして、空はまた、孤独に生きるのか。
神官にはあと五年。それだけの年月を、独りで外に出れば『穢れた巫女の子』と言われ。石を投げられて、虐げられ。これが最善なのか。
「だから、婚約話ですか。俺には無理です。一生を空に捧げます。この想いは空以外にはありません」
「……だから珠合わせの約束したのか」
ギクッとした。自分と空の話は全部筒抜けだということか。
「空様は、その間お前を待ち続ける。十五歳までと安易に約束したお前を!ずっとな!空様に術をかけるなど不可能。術師が負ける。幼い空様は愛しいお前をただひたすら待ち続けることになる!空様には上手く言っておく。下がりなさい。婚約は、破棄しておく………」
泣くつもりなんかないのに目頭が熱くなる。忘れてしまうのか、この白菊も、寒桜も。隣で笑う、空も。あまりにも、つらすぎる。
「風が変わったよ。もうすぐ、雪が降るよ」
「こんなに晴れているのに?」
「うん。風花、降るよ。ほら!きらきら綺麗だよ。最初の雪だね………そうにいちゃんと見れてよかった。そうにいちゃん、空はね、そうにいちゃんのことずっと好きだよ。『永遠は、幻だ』なんて言うけど、空は……そうにいちゃんを信じてる。だから、忘れないで、空のこと、忘れないで。春になったらそうにいちゃんの家を出るよ。そうにいちゃんのお祖父さんが泣きながら謝ってた。
『婚約は致しませぬ、けれど蒼を忘れてくだされ』
って。でも、そうにいちゃん、空が十五歳になったら祝言をあげるんでしょ?それまでに準備をして迎えに来てくれるんでしょ?お祖父さんに、
『そうにいちゃんと珠合わせの約束をしました。僕はずっと待っています』
って言ったら、
『再会したとき、最初、蒼に会っても、悲しまないでくだされ。宿命の星があるなら必ず蒼は空様を見つけます。そして答えを見つけます。そうしたら珠合わせを。それは宿命です』
って。僕は待ってるよ。ずっと、待ってるから」
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