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爺との昔話と蝶々『星影』〖第42話〗──①
しおりを挟む「爺は、昔はお祖父さまの護衛隊長をしていた。それから俺が生まれ、俺を育ててくれた。育ての父は、俺にとっては爺だ。爺は術の方も強く、武力では中々勝てるものはいない。まさに文武両道だ。爺の鍛錬は厳しかったが、それ以外は優しかった。小さい俺には安らぎの場所だった。爺から初めて一本とれたのは十八の時だ。嬉しかったな。これから爺と少し特訓して欲しい。守りきれなかったらと思うと怖いんだ。自衛の力をすこしでも、つけて欲しい。俺は、空を失えない。空は俺に簡単な術を教えてくれ。少しでも力になりたい」
それから、雰囲気を変えようと雑談をした。空も薄荷の飴が大好きだ、とか、いまだに着物が上手く着れない、とか、空はいつも甘い匂いがする。とか。長い黒髪がいつも綺麗だ、とか。
尻尾を優しく手で石鹸で洗われると、感じてしまう。それがあの白くきれいな空の手だと思うとみっともなく足の間が反応する。居てもたってもいられなくて蒼はザバザバと冷水をかけた。
「どうしたの?」
空に尻尾を触れられて反応したなどと口が裂けても言えない。自分が恥ずかしい。毎日毎日、空を好きになる。少年のように。
「少し、火照った」
気持ちを隠すように、苦笑いをする。
「解った。尻尾には、ぬるい湯をかけるね」
尻尾は、意思とは関係なくパタパタッと湯をはじく。飛沫を浴びて、空が笑う。
「お湯に入ろう?そうにいちゃん」
「あ、ああ」
空の髪が遅咲きの菊花を浮かべた湯にふわりと浮く。濁り湯の白に映える象牙のような独特に滑らかに白いの肩の色。空はため息をつき、首筋に湯をかける。この美しさを目の当たりにする度に、空が人外、山神さまの子だと思う。
蒼はこの前、チラリと山神さまの顔を見た。長い美しい黒髪は空と同じ、肌も白く、しみも皺も、一切の穢れもなく神々しい、年は三十代くらいの、涼やかな絶世の美男だった。山神さまあっての空だ。そして、その山神さまを魅了する母君。色々なことが頭をめぐる。
「そうにいちゃん、湯あたりするから出よう?」
「そうだな」
寝衣を着て、爺が机の脇に敷き直した一組の布団に、二人で入る。寄り添うと空のぬくみを感じた。
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