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蒼の術〖第41話〗──②
しおりを挟む「俺もさっきまで同じことで悩んでいた。ひとり不機嫌になって、意地悪言って。空より年上なのに、子供じみてた。ごめんな。こんな旦那様で。伝書鳥を呼んで、忌み処へ連絡しよう」
蒼は指笛で伝書鳥を呼んだ。懐から携帯筆を出し、忌み処への手紙をしたためる。鳥を放ち、空に、
「行こうか」
と言い、赤い手を着物で拭い、空に手を差しのべた。それから蒼は、
『少し用事があるから出かける。部屋からは出るな。何かあったら金の笛を吹け』
と空に言い残し、爺を空につけ、独り、敷地の外れにある神泉に行った。実は少し脇腹が微かに敵の刃に触れ血がとまらなかった。
******
優しい君の白い手は、身も心も俺を少年に返す。友
の祝福。美しき伴侶。指輪の契約。幸せのしるし。
******
「敵ながら良く切れる刃を使うな」
試しに傷に、神泉の湯の花を傷に塗ると怖いくらいに治っていく。四回ほど塗っては落とすことを繰り返すと傷は消えた。あまりの効き目に怖くなるが、病にも効いて欲しいと、暁のために少しだけ拝借した。
夜、空と一緒に風呂に入った。今日は『僕が洗ってあげる』と、空が背中を流す。風呂椅子を並べ、爪を擦る。中々血がとれない。
「爪と、耳と尾を出して」
と言われ素直に出す。勿論『爪は刃物以上に切れるから危ないからいい』と言ったが『穢れた血は穢れ。落とさないと』と言うので石鹸と海綿で優しく汚れを落として貰った。
「爪、もう戻していいよ。綺麗になったよ。傷、一つもないんだね。良かった。そうにいちゃんは、強いんだ……」
空の言葉に少し後ろめたい気持ちもありつつ、素直に気持ちを伝える。
「空に言われると、自信がつくな。俺の師匠は誰だか解るか?」
空は、大きく瞬きをして、
「眼鏡のおじさ……そうにいちゃんのお父さんじゃないの?」
蒼は笑い、ピョコッと出した黒い耳を自分で洗う。後ろに回って尻尾を洗う空に、
「爺だ」
と言った。あまりに以外だったのか、空は『えっ』と言い、動きが一瞬とまる。
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