あなたを追いかけて【完結】

カシューナッツ

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第8章

オオカミの手紙

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秋彦、元気か?
ご飯、食べているか?

でも、谷崎がいてくれるから安心だ。
秋彦は、谷崎が好きだろう?


解るよ。声が違う。
俺と谷崎に挟まれてつらかっただろ。

もう、苦しむな。
俺は、ただの『従兄弟』に戻りたい。
昔のような、関係がいい。


勿論何かあったら助ける。

だけどもう、あんまり俺に構うな。






一人前の雛は、親鳥の背中を、遠くで見守るくらいがいい。

優しくて、笑顔が可愛らしくて、高めの声で『祥介』と呼ばれる度に振り向くと、手を振り駆け寄る秋彦がいた。



『しょうちゃん』

と声をかけられる度、秋彦の特別になれた気がした。

でも、俺は秋彦を裏切った。
俺は駄目なんだ。想いを告げた時点で、終わりに出来なかった。

お前を邪な目で見て、その欲求を満たすために俺は加野を抱いたんだ。加野の瞳はお前に良く似ていた。

一連のお前を巻き込んでしまった件は、全てもとを辿れば俺の責任だ。原因は、俺にある。

秋彦に触れる資格なんてない。

傍にいる資格もない。

秋彦の足を不自由にしたのも、心を病ませたのは俺のせいだよ。一生残る足枷をつけた。




ただ、やり残したことがあるんだ。
アキ、ずっと忘れない。

アキは俺の親鳥だからな。好きだったよ。ずっと好きだよ。

次会うときは『従兄弟』だな。
今年の春みたいな関係に、記憶も、傷も、戻せたらいいのに。


谷崎、秋彦を頼んだ。
秋彦はずっと独りだった。
大切にしてやってくれ。
かけがえのない『従兄弟』だから。
…………………………………………

「ずっと一緒って軽い言葉なんだね。皆そう言って、いなくなっちゃう。父さんも、母さんも…祥介も」

谷崎の甚平の袖を右手で無意識にぎゅっと握りしめる秋彦を見て、谷崎はずっと独りだったんだな、と思った。

家に帰っても誰もいない。

独りでご飯を作って食べる。

癒しの世界は祥介といる時間と本の世界。


祥介と過ごした時間はしあわせだったと思う。昔から好きな人との穏やかな生活。

谷崎はそれを壊してしまったのではないかと怖くなる。
本当に、自分のせいかもしれないと思う。ただ見つめるだけでも良かったはずだ。



話しかけたとしても、
仲良くならなくても。




「先輩、すみません。俺のせいで」
「どうして?」

不思議そうな顔で秋彦は谷崎を見つめる。谷崎は手をグッと握りしめる。


「俺が先輩と会わなかったら、話しかけなかったら、葉山先輩と喧嘩しなかった。加野とつきあわなかった。

先輩とずっとしあわせでいられた。
足も、そのままだったかもしれない…ごめんなさい。

先輩を好きになって、毎日が楽しくて。ごめんなさい
…俺も、ずっと独りだったから、俺の周りにも、誰もいなかったから…」
………………………………………………

『キンキラ坊主、こんな時間に一人か?早く家に帰んな。親御さん心配してるぞ』

『うっせーな、じいさん。どうせ、家帰っても誰もいねぇからいいんだよ』

『ははは。威勢がいいな。それ自前か?』

『目と髪のこと?悪いかよ』

『いや。綺麗だなと思ってよ。金の稲穂と夏空だな。ラーメン食ってけ。今日は「じいさん」のおごりだ。名前は何て言うんだ?』

『谷崎、潤一郎…』

『はははは。こりゃいいな。文豪じゃねぇか。まだ季節にはちっと早いけど、特別に冷やしラーメン作ってやるよ。
潤ちゃん。大事な友達が出来たら連れてきな。メンマとギョウザ、サービスしてやるからよ』
…………………………………………………

俯く谷崎の髪を秋彦を撫でる。秋彦の谷崎を見る眼差しは暖かなものだった。
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