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第8章

オオカミの願い

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「取り敢えず、飲み物作ってくる」

 谷崎の話した突然の祥介の話に、
秋彦は動揺しているようだった。

階段だと、お茶が運びづらいと思い、
階下に降りた。

奥の方でガサゴソしている。







 「なにしてるんすか?」

 「あのね、この前買ったのが、取れなくて」
 
「この瓶すね。っと。レモンですか?」

 「ううん。柚子茶。韓国ではメジャーらしいけど。外国の食料品店で買ったんだ」







透明な耐熱カップ。
柚子のいい香り。
谷崎は秋彦との出逢いを思い出す。

 「俺、持っていきます。熱いのは、階段じゃ危ない。一人分は良いですが、
二人分はきついですよ」




 来客用のトレイを持ち、
谷崎はスイスイ歩く。
秋彦はそれでも、ゆっくり歩いてくれる谷崎の優しさが嬉しい反面、切ない。

意識しないと決めたはずなのに。谷崎は何も言わないけれど、谷崎の気遣い、優しさ、笑顔に癒される。 

「柚子茶美味しいっす。クラッカーとかに塗って食べても。食パンでもいけそうですね。美味しいっすね。身体の芯が暖まりますね」 

「あと、これ…柚子茶じゃ合わないけど、この前谷崎くんにレシピのプリントアウトしてもらったの見ながら、
プリン作ったんだ。ごめん、冷たいの。

折角柚子茶で暖まってもらったのにごめんね。僕、やっぱりドジだね」 



苦笑する秋彦の谷崎は背中にポンポンと優しく叩き、 

「俺、このやり方で冷やしたことないんです。食べましょ!」 

と笑った。冷えても口当たりは良く、つるっ、ふわっとしていた。

「んま!」 
「そう?『す』とか入ってなかった?」 「いえ。これ、茶こしとかで裏ごししてありますね?」
「うん。良く解ったね。すごいや」
「優しい味。先輩の作るものは気遣いが入ってる。…ご馳走さまでした!さて、問題の手紙を見ますか」

 深呼吸をして、秋彦は封を切った。
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