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碧い紅玉〖第49話〗
しおりを挟む車を走らせ二十分くらいで海岸に着いた。海猫が鳴いている。ここに『彼』がいたら、『彼らも猫舌なんでしょうか』と言うかもしれない。
「裸足になるな。サンダルを履きなさい。硝子を踏んだら大変だ」
「はい!」
少年は波と戯れる。波の音と、無邪気な声音と、海鳥の鳴き声、引き波の砂を引く音が砂浜に広がる。
幸いあまり風もなく天気もいい。深山は波のスケッチを描く。幼い少年は波打ち際で貝を拾っていた。
たまに少年の深山へと振られる手に答えるように片手をあげる。深山の笑顔に満足したかのように少年はまた貝を探す。ずっとそれを繰り返した。
晩秋の荒涼とした砂浜にある、色彩。金色の髪が太陽を反射してそこだけが明度を増していた。
いつの間にか深山の視線は波ではなく少年を追いかけていた。丁度その時、大きな波が、幼い少年を飲み込んだ。
「アレク!」
深山は全てを放り、ティーカップの入ったバックを抱え波打ち際に急いだ。横たわる少年を見て、全身の血がひいた。
少年を抱き上げ、安全な所まで移動させる。苦しそうだが海水を吐かせた。頬を叩いても意識がなく、呼吸もなかった。
少年の紅い頬も、口唇も色が褪めていく。深山は血圧も、体温も一気に下がっていく感じがした。
「アレク!私にもう二度と君を失わせないでくれ!頼むから、アレク。お願いだ。悪かった。私が全部悪かったから!君を苦しめた。君に彼を重ね続けた。許してくれ。許して………」
涙に声が詰まる。暫く、美しい人形のような冷たい少年を深山は抱きしめ続けた。滲む視界の中で、深山はただひたすら少年の名前を呼んだ。深山の体温が部分的に少年にうつる。
何も答えない、冷たくなった少年にずっと深山は語りかける。潮風が晩秋の物悲しさを滲ませる。深山は少年の脱け殻を抱きしめ髪を撫でる。柔らかな金色の巻き髪。
「………アレク。これを君に。ずっと渡そうと思っていたんだ。忘れていたよ。本当にすまない。君にはあげられなかったね。ほら綺麗だろう?君の瞳と同じ色だよ。アレク。とても似合うよ」
君を守ってくれる。大事にしてくれ。そう言い、深山は咽び泣きながら、カップから指輪を取り出し、少年の左手にはめ、深山は少年を抱きしめた。
ふと、少年の左手の薬指の指輪を見る。ぼんやり光る少年の左手のアレキサンドライト。深山はそっと、少年の左手の白く、細い指に口づけた。
一瞬、指輪とカップの石と共鳴するかのように、二つの石の光が増した。カップも淡く光りカタカタと揺れ動き始め、深山は驚いて息を飲む。煌めく光は、閃光を放ったかと思うと、夕焼けに吸い込まれるように散った。
少年の長い睫毛に縁取られた碧い瞳が開かれる。
『ふかやま、さん……?』
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