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〖第27話〗瀬川side②
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「俺も──君だけだ」
するりと朱鷺を起こさないようにソファを抜け出し、久しぶりに朝食を作ろうと思ってキッチンに立つ。
朱鷺が好きなものを作ろうと思う。
具だくさんの野菜のスープ。
チーズ入りの中がとろっとしたオムレツ。食パンにこの前買った林檎ジャム。
それと──苺ジャム。
プレーンヨーグルトにアカシアの蜂蜜。
さくさくと料理を作る。
コンソメを入れた野菜スープの味見をする。塩気を調整する。
オムレツには、とろけるチーズをいれる。ヨーグルトはガラスの器に盛り、今回で食べ終わりだ。パックを捨てる。
苺ジャムの瓶をしばらく見つめていた。
「どうしたんですか?」
後ろから、まだ少し眠さを引きずった朱鷺の声がした。
朝のことがあったので、俺は朱鷺を真っ正面から見ることが出来ない。
「早く起きたから、朝食を作ろうと思って」
「あ、すみません。急いで顔洗って手伝いますから」
パタパタと足音をたて朱鷺が洗面所に消える。朝のことは覚えてないのだろうか?
あんな───自分から誘って…。
思い出しただけで顔が赤くなるのが解る。キスなんて、初めてのことじゃないのに。
ただ、朱鷺の唇やうっすら開いた瞳、睫毛。「好き」と呟くように言った淡い初めて聞く声。片手に残る髪の感触。染み付いて消えない。消えてくれない。
「──輩、先輩、どうしたんですかぼんやりして。手、痛みますよね。すみません。朝は僕が当番なのに。座ってて下さい。今、珈琲淹れます」
いつの間にか着替えた朱鷺が俺を見る。
「いいよ、俺がやるから」
「いいですよ。休んでいて下さい」
優しい口調とは裏腹に半ば無理やり座らされ、俺は八時の日差しを浴びる。
普段なら起きてもいない時間。朱鷺に起こしてもらい夜中のアルコールを少し引きずりながら、朱鷺に珈琲を差し出され、食事も早々にソファで二度寝している。
「珈琲、どうぞ」
ダイニングテーブルに珈琲が置かれる。
綺麗な楕円形の爪。
水仕事の度にハンドクリームをぬっているからかとても綺麗な指先をしている。つい朱鷺の唇に目がいってしまう。赤い。甘い声をだす口唇。
手早く朱鷺は料理を仕上げ、いつもより少し賑やかな朝のテーブルになる。
「先輩の作るスープが一番美味しいです」
「良かった」
朱鷺を見る。彼はいつも通りだ。とても喜んでくれているけれど、変わらない。今朝のは何だったのか。寝ぼけていたのか、夢の中にいたのか。
「何ですか?先輩今日変ですよ。人のこと、じーっと見たりして。あ、オムレツ美味しい!」
「ねえ、覚えてない?」
「何をです?」
朱鷺は平然とカトラリーを手慣れた手つきで操りオムレツを綺麗に食べる。
「朝の、こと」
「………」
「覚えてないの?」
俺は苺ジャムを選び、トーストをかじる。
「──忘れては、くれませんよね」
朱鷺を見る。俯き耳まで赤く染めながらスープを口に運ぶ。
「恥ずかしいですよ。──あんな、自分から、甘えて……みっともないです。朝だから忘れてくれると……思ったのに」
大きな疑問符が出る。
彼にとって口づけをねだることは相当な重さがあるようだ。
確かに朱鷺のふとした時に見せる表情や所作はぞっとするほど艶やかだったりするが、普段の朱鷺はあまり性的なにおいがしない。むしろ好まないのかと思う時がある。煩悩のかたまりの俺とは大違いだ。
するりと朱鷺を起こさないようにソファを抜け出し、久しぶりに朝食を作ろうと思ってキッチンに立つ。
朱鷺が好きなものを作ろうと思う。
具だくさんの野菜のスープ。
チーズ入りの中がとろっとしたオムレツ。食パンにこの前買った林檎ジャム。
それと──苺ジャム。
プレーンヨーグルトにアカシアの蜂蜜。
さくさくと料理を作る。
コンソメを入れた野菜スープの味見をする。塩気を調整する。
オムレツには、とろけるチーズをいれる。ヨーグルトはガラスの器に盛り、今回で食べ終わりだ。パックを捨てる。
苺ジャムの瓶をしばらく見つめていた。
「どうしたんですか?」
後ろから、まだ少し眠さを引きずった朱鷺の声がした。
朝のことがあったので、俺は朱鷺を真っ正面から見ることが出来ない。
「早く起きたから、朝食を作ろうと思って」
「あ、すみません。急いで顔洗って手伝いますから」
パタパタと足音をたて朱鷺が洗面所に消える。朝のことは覚えてないのだろうか?
あんな───自分から誘って…。
思い出しただけで顔が赤くなるのが解る。キスなんて、初めてのことじゃないのに。
ただ、朱鷺の唇やうっすら開いた瞳、睫毛。「好き」と呟くように言った淡い初めて聞く声。片手に残る髪の感触。染み付いて消えない。消えてくれない。
「──輩、先輩、どうしたんですかぼんやりして。手、痛みますよね。すみません。朝は僕が当番なのに。座ってて下さい。今、珈琲淹れます」
いつの間にか着替えた朱鷺が俺を見る。
「いいよ、俺がやるから」
「いいですよ。休んでいて下さい」
優しい口調とは裏腹に半ば無理やり座らされ、俺は八時の日差しを浴びる。
普段なら起きてもいない時間。朱鷺に起こしてもらい夜中のアルコールを少し引きずりながら、朱鷺に珈琲を差し出され、食事も早々にソファで二度寝している。
「珈琲、どうぞ」
ダイニングテーブルに珈琲が置かれる。
綺麗な楕円形の爪。
水仕事の度にハンドクリームをぬっているからかとても綺麗な指先をしている。つい朱鷺の唇に目がいってしまう。赤い。甘い声をだす口唇。
手早く朱鷺は料理を仕上げ、いつもより少し賑やかな朝のテーブルになる。
「先輩の作るスープが一番美味しいです」
「良かった」
朱鷺を見る。彼はいつも通りだ。とても喜んでくれているけれど、変わらない。今朝のは何だったのか。寝ぼけていたのか、夢の中にいたのか。
「何ですか?先輩今日変ですよ。人のこと、じーっと見たりして。あ、オムレツ美味しい!」
「ねえ、覚えてない?」
「何をです?」
朱鷺は平然とカトラリーを手慣れた手つきで操りオムレツを綺麗に食べる。
「朝の、こと」
「………」
「覚えてないの?」
俺は苺ジャムを選び、トーストをかじる。
「──忘れては、くれませんよね」
朱鷺を見る。俯き耳まで赤く染めながらスープを口に運ぶ。
「恥ずかしいですよ。──あんな、自分から、甘えて……みっともないです。朝だから忘れてくれると……思ったのに」
大きな疑問符が出る。
彼にとって口づけをねだることは相当な重さがあるようだ。
確かに朱鷺のふとした時に見せる表情や所作はぞっとするほど艶やかだったりするが、普段の朱鷺はあまり性的なにおいがしない。むしろ好まないのかと思う時がある。煩悩のかたまりの俺とは大違いだ。
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