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〖第28話〗瀬川side③
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「じゃあ俺は相当みっともないね。朝から君のことが頭から離れなくて君の口唇ばかり目で追ってる」
「そんなつもりで言ったんじゃ………」
「解ってる。ただ朱鷺くんに謝らなきゃいけないなって思うんだよ」
俺は珈琲を一口飲んで、息をはいた。
「君は俺より十歳下なんだよね。それを忘れてしまっていた。俺が君に甘えてばかりで君に甘えることを許さなかった。でも、そんな暗黙のルールを作った俺が君に甘えられて、とても嬉しかった。おかしな話だね」
ごめんね、朱鷺くん。そう言って俺は彼を見つめる。彼は困った顔をして俺を見ていた。
朝食も食べ終わり、朱鷺がお皿を洗っている。料理好きがこうじて開放型のキッチンで嬉しいのは料理を作っている時や洗い物をしている時でも相手と顔を見ながら会話できること。
「もうすぐ秋が終わるね」
朱鷺はさくさくと洗い物を片付けながら返事をする。
「そうですね。気が早いですがクリスマスプレゼントに何か欲しいものってありますか?」
「朱鷺くんかな」
「は?」
朱鷺は、意味を把握できていないようだった。
「君が欲しい。君を抱きたい」
目を見つめて真剣に言う。沈黙が流れる。沈黙を破ったのは朱鷺だった。
下を向き、最後のコップを洗いかごに入れ終わった後、濡れた手をタオルで拭きながら小さく呟くように言う。
「──僕だって、抱いてほしいですよ。先輩のこと、好きだもの。……でも、駄目じゃないですか」
俺は立ち上がり、朱鷺の腕を引き寝室へ足早に連れていく。
ブラインドを下ろす。時間が朝から真夜中に変わる。
ベッドサイドの小さなアロマライトだけが灯っている。
[newpage]
*******************
俺は、彼の手に口づけた。
「朱鷺くん。君が好きだよ」
優しく押し倒し、朝みたいに口づけし、首筋に指先で触れ何回も深く欲のままに口づける。
耳朶を甘噛みし、右手でシャツのボタンを外す。綺麗な鎖骨のラインに見とれ、胸に顔を埋める──この一連の行為だけで彼は『怖い』と『やめて』を繰り返し、震えている。俺は身体を離した。
「かなり重症だね。君を抱くのはそう簡単にはいかなさそうだ」
ごめんね。嫌だったね、もうしないから。とつけ加え、ベッドの端に座り、俺は朱鷺の髪を優しく撫でる。
「先……輩?」
事情を把握できていない朱鷺に俺は素直に一連の意味を話す。
「ごめんね。試させてもらった。君がどのくらい触れられることが嫌いか。
首に触られるの、本当に嫌みたいだね。
あと、ぎっちり目を閉じていたけど何が怖いの?」
「さ、触れられる感触です。先輩だと解ってるつもりなのに、怖くてたまらないんです。ご、ごめんなさ……」
額に口づける。まだ朱鷺はまだ震えていた。
「いいよ。気にしてないよ。いきなりあんなことしてごめんね。驚いたね」
ポンポンと頭をたたく。朱鷺は瞳に涙をためながら俺を見つめて言った。
「先輩、僕に、触って」
朱鷺は震えながら、俺の右手を手に取り、左側の首筋に添えた。
「嫌いに……ならないで……お願い」
朱鷺が、泣かないように一生懸命になりながら、途切れ途切れに繋いだ言葉が
『嫌いにならないで』
だった。今にもこぼれそうな大きな瞳に俺は言葉が出なかった。右手を取る手の温度が芯まで冷えてしまっていた。
「そんなつもりで言ったんじゃ………」
「解ってる。ただ朱鷺くんに謝らなきゃいけないなって思うんだよ」
俺は珈琲を一口飲んで、息をはいた。
「君は俺より十歳下なんだよね。それを忘れてしまっていた。俺が君に甘えてばかりで君に甘えることを許さなかった。でも、そんな暗黙のルールを作った俺が君に甘えられて、とても嬉しかった。おかしな話だね」
ごめんね、朱鷺くん。そう言って俺は彼を見つめる。彼は困った顔をして俺を見ていた。
朝食も食べ終わり、朱鷺がお皿を洗っている。料理好きがこうじて開放型のキッチンで嬉しいのは料理を作っている時や洗い物をしている時でも相手と顔を見ながら会話できること。
「もうすぐ秋が終わるね」
朱鷺はさくさくと洗い物を片付けながら返事をする。
「そうですね。気が早いですがクリスマスプレゼントに何か欲しいものってありますか?」
「朱鷺くんかな」
「は?」
朱鷺は、意味を把握できていないようだった。
「君が欲しい。君を抱きたい」
目を見つめて真剣に言う。沈黙が流れる。沈黙を破ったのは朱鷺だった。
下を向き、最後のコップを洗いかごに入れ終わった後、濡れた手をタオルで拭きながら小さく呟くように言う。
「──僕だって、抱いてほしいですよ。先輩のこと、好きだもの。……でも、駄目じゃないですか」
俺は立ち上がり、朱鷺の腕を引き寝室へ足早に連れていく。
ブラインドを下ろす。時間が朝から真夜中に変わる。
ベッドサイドの小さなアロマライトだけが灯っている。
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俺は、彼の手に口づけた。
「朱鷺くん。君が好きだよ」
優しく押し倒し、朝みたいに口づけし、首筋に指先で触れ何回も深く欲のままに口づける。
耳朶を甘噛みし、右手でシャツのボタンを外す。綺麗な鎖骨のラインに見とれ、胸に顔を埋める──この一連の行為だけで彼は『怖い』と『やめて』を繰り返し、震えている。俺は身体を離した。
「かなり重症だね。君を抱くのはそう簡単にはいかなさそうだ」
ごめんね。嫌だったね、もうしないから。とつけ加え、ベッドの端に座り、俺は朱鷺の髪を優しく撫でる。
「先……輩?」
事情を把握できていない朱鷺に俺は素直に一連の意味を話す。
「ごめんね。試させてもらった。君がどのくらい触れられることが嫌いか。
首に触られるの、本当に嫌みたいだね。
あと、ぎっちり目を閉じていたけど何が怖いの?」
「さ、触れられる感触です。先輩だと解ってるつもりなのに、怖くてたまらないんです。ご、ごめんなさ……」
額に口づける。まだ朱鷺はまだ震えていた。
「いいよ。気にしてないよ。いきなりあんなことしてごめんね。驚いたね」
ポンポンと頭をたたく。朱鷺は瞳に涙をためながら俺を見つめて言った。
「先輩、僕に、触って」
朱鷺は震えながら、俺の右手を手に取り、左側の首筋に添えた。
「嫌いに……ならないで……お願い」
朱鷺が、泣かないように一生懸命になりながら、途切れ途切れに繋いだ言葉が
『嫌いにならないで』
だった。今にもこぼれそうな大きな瞳に俺は言葉が出なかった。右手を取る手の温度が芯まで冷えてしまっていた。
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