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〖第10話〗朱鷺side②
しおりを挟む今、僕の頭に浮かぶのは、香織先生や、鷹さんみたいな綺麗な人。先輩の隣にいても、釣り合いが取れる人たち。
こんな時、格好良くなりたかったと思う。こんな、モップ頭の冴えない子供──好きな人に、触れてもらうことも出来ない欠陥品の身体。
こんなの、すぐ飽きられて、捨てられる。
それに隣にいるのが、苦しい。先輩と比べて不相応だとは自分が一番解っている。
「どうして君はそんなに自信がないの?」
僕の考えていたことが読まれたようだった。先輩は厳しい顔をする。
でも、すぐ柔らかな表情になり、僕を見つめて言った。
「君は素敵な子だよ。ちょっと臆病だけど優しくて、素直で、いつも一生懸命で人の痛みが解る子だ。自信を持ちなさい。
俺は君の巻き毛が好きだよ。天使の髪だ。
陽の光と相性が良い。白くてアイロンをかけたシャツから君のきちんとした性格が解ったよ」
先輩が視線を合わせる。
「今から訊くことにちゃんと答えてね」
僕は頷いた。
「俺のこと、すき?」
いきなりそう訊かれて驚いたけれど、僕
「──はい」
そう目を見て言った。
「──君が好きな人は、君のことが好きでたまらないんだよ。そんな人が嘘をつく?」
涙がポロリと落ちた。
「俺は君を抱きしめてあげられないから、君が俺のところに来ればいい。──おいで」
僕は先輩の首に手を回す。しがみついて泣いた。
先輩はずっと優しく髪の毛を撫でてくれた。髪に触られるのは苦手なはずなのに、僕は心地よくて、ずっとこの時間が続けばいいと思った。
僕は泣いて潤んだ声で先輩に言った。
「僕には、僕には先輩だけ。ずっと、ずっと好きですから。僕のことも好きでいて下さい」
「──君のことをずっと好きでいるよ。俺にも、君だけだ。君しかいらない」
先輩の口調が変わる。何を意味するものかは僕には解らないけれど、先輩の言葉は嬉しいはずなのに、まるで何かの契約のようで、少しだけ怖かった。
「あのさ」
明るい声に、何故かほっとした。絡めた腕をほどき、先輩に向き直るように座る。
「今日、一緒に寝ない?」
「は?」
自分からこんな間が抜けた声が出るとは思わなかった。
「寝るって言ってもそういうんじゃないよ」
先輩が笑う。僕が連想したものをからかうように、楽しそうな顔をして、続ける。
「一緒のベッドで寝ないかっていうこと」
「僕………ソファで寝るからいいです」
「眠る君を見たいんだ。あ、寝てる隙に君に何かしようって思っている訳じゃないから、
そこは安心してくれて構わないよ」
「──わかりました」
僕は軽くため息をついた。僕は他人がいると眠れないので、先輩が寝たらソファで寝ようと思っていた。先輩は、僕に穏やかな口調で話しかけた。
「今の俺の一番怖いことが何か当ててごらん」
「そんな、急に言われても解りませんよ」
「すぐ解るはずだよ」
「『別れ』、ですか?」
「はずれ、違うよ」
「──解らないです。『別れ』じゃないなら何ですか?」
「『君に嫌われること』だよ。別れる形が違ったけれど君は戻ってきてくれた。もうあんな苦しい時間はたくさんだね」
先輩は冷めた珈琲を含む。
「それに、君に無理に触れるようなことも絶対にしないよ。
あと、もう間違わない。君を悲しませたくない、理由が俺なら尚更ね。
だから安心していい。どうかな?」
「………わかりました」
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