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緑虫

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14 危なげな年上受けが心配すぎて溺愛執着気味になる若者風攻めxぽややんおっとり年上受け(2023.07.21)

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 三十路も後半に入り大分経った受け。

 昔から食べても太らず、筋トレしても細いままで現在に至る。

 人と争うのは苦手だから聞き役に回っていたら、気づけば誰からも「いい人」ポジションに。何人かの女性とお付き合いしてみたものの、押しが弱いせいかすぐに「思ってたのと違った」と振られ続けた。

 そんな今日も、職場の同僚たちと「浴衣を着て地元の祭りに行こう!」と半ば無理やり誘われて来てみたけれど、気付けば仲のいい人同士で固まっている。

「ま、いいか」ひとりは苦痛じゃない。むしろひとりの方が楽だ。

 そんな風に自分に言い聞かせて、盛り上がっている同僚の輪から離れ、祭りを楽しむ人たちを遠目から眺めて微笑んだ。

 子供達がヨーヨー釣りをしてはしゃぐ姿。りんご飴が大きくて齧れなくて騒いでるのも可愛くて、見ているだけで和んだ。

 屋台が並ぶ町中を抜け切ると、喧騒から外れてポツンとなる。

 空を見上げれば、夕闇が迫っている。

 晩飯の買い出しもしないといけないし、そろそろ帰ろう。

 同僚たちに連絡をしようか迷ったけど、気を使わせたらいけないかと思い直す。

 商店街を歩き、家に向かう。

 反対側から、スーパーのビニール袋をD両手に抱えたバンダナを頭に巻いた若者が、こちらに向かって来ていた。

 目が合う。真っ赤な顔をしてふうふう言っているので「重そうだなあ」と思って、ついすれ違い様「頑張って」なんて小声で言ってしまった。

 見たところ、洋食店の人みたいだった。今夜はスパゲッティでも作ろうかなあ、なんて考えていた受けは、バンダナの若者が自分を振り返って見ていたことには気付かなかった。

「スパゲッティ……スパゲッティ、うーん?」

 と今夜の献立を考え込む。

 どうせなら商店街で買い物を済ませて帰って、あとはのんびりと本でも読みたい。

 受けはやっぱり材料を買って帰ろう、とくるりと振り返る。すると、目の前にいたのは先ほどの飲食店従業員らしき若者。

「え?」
「あ、あの!」

 夕日のせいだろう、若者の顔は赤い。

「す、スパゲッティ食べたいんですか!?」

 唐突な質問に、受けは目をぱちくりさせる。どうやら先ほどの独り言を聞かれていたらしい。

 貴方を見ていたらスパゲッティを食べたくなったんですよとも言えず、「そうですね、そういう気分だったので」と曖昧に笑いながら答える。

 すると若者は、「俺! 店経営してるんです! 美味しいスパゲッティ作るんで、き、来てもらえませんか!?」

 と前のめり気味に聞いてきた。

「経営してるんですね。若いのにすごいなあ」

受けが笑うと、

「え? そこまで若くは……で、来てくれますよね!?」

 と更に前のめり気味に聞かれる。

 まだお客さんが少なくて経営が大変なのかなあ? なんて思って「じゃあ、ぜひ寄らせていただきます」と誘いに乗る受け。

 若者は滅茶苦茶ハイテンションで、海外に料理を学びに行っていたこと、この街に店を出して半年なこと、恋人募集中なことまでペラペラと教えてくれた。

 店に到着すると、落ち着いた雰囲気のあるこぢんまりとした店構え。若者の勢いある感じとは違って最初は驚いたけど、店に入ってカウンターの向こう側に立った途端若者がシャンと背筋が伸びたところを見て、受けは気に入った。好みの飲み物を聞かれる際、弱いか強いかこの後の予定まで聞かれて、「この子すごいなあ」と感心した受け。

 どうせ帰って寝るだけ、明日の休みも何もない。

「今日は日に当たって疲れたから、少し飲みたいんだ」

 若者オススメの飲み物を飲みながら、若者が作ったスパゲッティに舌鼓を打ち、こんなに喋ったのはいつぶりだろうというくらい喋って程よく疲れた受け。

 他のお客さんが入って来て忙しくなった若者と話してない間に、不覚にもその場で寝てしまう。

「……受けさん?」

 揺り起こされてハッと目を覚ますと、店内は薄暗くなり、他に客はいなくなっている。

「ご、ごめん……!」

 慌てる受けに、若者は笑いかける。

「慣れない浴衣を着て疲れちゃったんじゃないですか? 俺の家この上の階なんで、着替え貸しますから来てくださいよ」

 まだ酔いが覚めていなかった受け、確かに浴衣も脱ぎたいし、と若者の家に一緒に向かうことに。

 若者の家はそこそこ広くて、店と同じく趣味がいい。

「(貴方のセンス)好きです」

 酔っ払ってふわふわだった受け、色々言葉足らずで言うと、若者は顔を真っ赤にして「う、嬉しいです……!」と答えた。

 服を借りて飲みたいという若者に付き合って飲んでいる内に、知らない間にキスされている。

 あれ? なんで? とぽやんとした頭で考えたけど、相手は男なのに幼い顔立ちだからか、「うわー、キス久しぶり……」な感想。しかもうまくて気持ちよくて、全然嫌じゃない。

「好きって言われて嬉しいです」

 と赤い顔して言われながらキスされまくり、喜んで感情爆発して海外長いからオーバーリアクションなのかーそうかーと受けは納得。

「明日休みなんです。一緒に遊びに行きません?」

 と言われて、

「うん、いいね……」

 と言った後、キスされてる最中に寝落ちした受け。

 翌朝目を覚ますと、酔いが覚めて「あのキスは流石にやりすぎた! こんな若者に自分みたいなおじさんが……! 穴があったら飛び込みたい!」と恥じ入る受けに、若者は「朝食です!」とそれは豪華な朝食を用意してくれた。

「(この料理全部)好き……!」

 まだ半分寝ぼけた受けが言うと、若者はキュンとした顔になって「お、俺もです」と言うなり、屈んで受けにちょんとキスをした。

 ここにきてようやく自分の言葉足らずに気づいた受け。だけど散々好きと言っておいて「誤解でした」なんて言える性格じゃない。しかも若者は男同士なのに嫌そうじゃないので、

「あれ? 海外長かったからこれも友達の挨拶……?」

 と思った。

 朝食が終わって一旦家に帰って風呂に入ってから待ち合わせしたいと伝えると、何となく若者ががっかりしてる風だったけど、

「まだこっちにきて半年だから友達いなくて寂しいのかな」

 と受け取る受け。

「連絡先教えて!」とかなり前のめり気味で聞かれて、友達なら普通はおかしい距離感も、「僕と一緒で友達がいなくて寂しいんだな」と思った。

 待ち合わせの時間より少し早めに行こうとした受け。すると若者がすでに待っている。

「早いね」

 声を掛けると、キュンとした顔ではにかむ若者。

「昨日屋台の食べ物を食べ損ねて」

 と受けが言うと、若者は「あれも食べたい、これも食べたい」とどんどん買っては受けに半分食べさせる。

「あはは、(お祭り)大好きなんだね」と笑うと、

「……大好きですよ」

 と真顔で答える若者に何故かドギマギする受け。いやいや、相手は男だし若いし、人恋しくておかしくなってるのかな? と反省する。

 そして花火が始まった。

 花火を見ないでずっと受けを見ている若者。

「受けの家に行ってみたい」と言われ、花火は好きじゃなかったのかな? と思い「じゃあうちで飲み直すか」とオーケーする受け。

 そして受けの家に着く。

 受けは驚いていた。

 若者が受けを押し倒したからだ。

「お、男の経験は?」
「……ないけど」
「い、いれるのといれられるのとどっちがいい?」
「……わからない」

 自分は断然入れる方と真っ赤な顔で言われてしまい、気がつけばどろどろに蕩かされていた受け。

 どうして男なのに嫌じゃないんだろう? とぽわんとした頭で考えた。

「あ、この人といると落ち着く、趣味が好き……つまり一目惚れ?」

 と気付く。

「あの、僕は君が好きなようなんですか」
「俺も好きです!」
「でも君は男で」
「受けも男ですね!」
「しかも若くて将来もあるし」
「三つしか変わらないですけど!?」

 汗だくになりながら言われて驚く受け。

「二十代かと」
「童顔いやなんですけどね、今はそれより!」
「え、あの、ま、」

 若者に美味しくいただかれた受け。

「好み」
「一目惚れ」
「大好き」
「付き合って」
「ていうか付き合う」

 と攻める若者の猛攻に「僕のどこが……?」と不思議に思いながらも、イエスと言わされる受け。

 翌朝、家にあった材料で美味しい朝食を作ってくれた若者に合鍵を渡して出社しようする。

 すると玄関で若者が突然「ごめんなさい!」と謝って来た。

「……一晩の過ちってこと?」
「違う! そうじゃなくて……!」

 チラチラと受けの首の方を見ている。受けはさっぱり分からなかった。

「仕事終わったら店来て! 美味しいご飯奢るから!」

 と拝み倒されて、若者のご飯にすっかり惚れた受けは、小鹿のように歩きながらも出社した。

 すると、何故か同僚たちが今日は生ぬるい目で受けを見てくる。

「なんです?」
「い、いいええっ! 最近恋人できました!?」
「恋人……う、うん、へへ……」

 はにかむ受けに心臓撃ち抜かれる同僚たち。実は滅茶苦茶優しくて穏やかな受けは競争率高かったけど、あまりにも純なので「汚しちゃいかん」となんとなく自然に牽制し合った結果がこれだった。

「料理が上手なんだ」
「へー!」
「年下で」
「うおお!」
「なのに男らしくて」
「おお……ん?」

 受けの言葉で、「あ、独占欲の強い彼氏ですね……」と理解した同僚一同だった。

 その夜仕事終わりに約束通り若者の店に行く。

「みんな今日はなんだか優しくて」

 と伝えると、若者が鏡を渡しながら頭を下げて来た。

 どうしたんだろう? と思いながら首を見ると、そこには見事なキスマークが。

「ギリギリいけると思ったんですが……」

 と申し訳なさそうに言う若者。

 かわいいなあ、と思ってしまった受けは、

「次はもう少し下の方によろしくね」

 とぽろりと言ってしまう。

「は、はい! あの、今夜付けてもいいですか!」

 とやっぱり前のめり気味に若者に言われて、おかしくなって笑ってしまった受けだった。
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