ヴァルプルギスの夜が明けたら~ひと目惚れの騎士と一夜を共にしたらガチの執着愛がついてきました~

天城

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9.偽の魔女④

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 ‡

『あら、私あの子の報告を待ってたんだけど。たった一日でどこまで状況が変わったの?』

 笑いを含んだ声が水晶玉から発せられた。
 苦虫を噛み潰したような表情のリカルドは、ため息混じりに謝罪した。魔女の家ではなく、皇帝の部屋に据えられた魔道具の水晶玉は、最初の手紙の返信に大魔女が添えてきたものだ。
 今はリカルド専用の、通信魔道具となっている。

「『偽魔女』との面会が終わった途端、我が娘は婚約者との逢瀬に忙しいそうだ。私が状況を報告する」
『まあ誰でも同じだけど。それで? 連絡してきたってことは私が行かなきゃマズい状況?』

 水晶の魔道具に、黒髪にスカイブルーの瞳の魔女が映っている。年齢不詳の彼女が世界中の魔女を束ねる者だとは、その美しい外見だけでは解らなかった。
 リカルドは執務机に紙を一枚滑らせる。今日行われた『偽魔女』の供述をまとめ、そこにシャナが私見を書き込んだものだ。

「『偽魔女』は、十歳程度の子どもで自分は魔女だと供述した。しかし対面したシャナは魔女らしい気配は感じられない、と言っていた。ただその血の成分をシャナが調べたところ、血族の可能性があると」
『うーん、魔女が産んで捨てた子どもだとでも? その線は薄いわね、魔女は次代の魔女をとても大事に育てるのよ』
「――魔女は、生まれた子が男児で魔女になれない場合どうするのだ?」
『……』

 リカルドの問いに、ヴィーラが沈黙した。リカルドはまたも深いため息をつき、目を瞑った。

「シャナの話では、魔女より生まれた子は男女問わず星の魔力を操るという。『偽魔女』は魔女から産まれ六歳までは母と過ごしていた。しかし母に嘘をつき好奇心で森の外に出たのでもう戻れず、魔力も失ったと話していた。今から五年前の話だそうだ。そしてもうひとつ、シャナが『この子、男です』といきなりヤツの股間を掴んで言ったのだ。……その瞬間の現場の混乱が解るか? 魔女はどういう性教育をするのだ」
『あっはっはっ!!』

 打ち拉がれた様子のリカルドの言葉にヴィーラの笑い声が重なる。腹がよじれるほど笑った大魔女は、なんとか話を元に戻そうと呼吸を整えた。

『生まれた子が男児だった場合は、捨て子として処理するのさ。殺すのは忍びないからね、なるべく裕福そうで子供が好きそうな夫婦を探して、寒い夜なんかに籠に入れて玄関口に置いておく。すると、こんな雪の中で可哀想に、なーんて拾って貰えるわけ。……ただ、それが出来なかった魔女がいたんだろうね。男児と解っていて魔女教育をしながら森で育てた、と』
「根本的な質問なのだが、なぜ男児では魔女になれないのだ?」

 リカルドの唐突な質問に、ヴィーラは慣れていた。最初の接触からずっと、この男は疑問の塊のようで、アレコレと彼女を質問責めにしていた。

『後釜の魔女を産まないといけないからだよ。種だけじゃ、女に産んで貰うのに森に連れ去るしかなくなるだろう。それに魔女の母体じゃないと上手く星の魔力を操れる子が生まれないともいう。きっと胎の中で身籠もっている間に、それを学ぶんだろう』
「なるほど……では捨てられなかっただけでその森の魔女は、彼が魔女を継げないことは解っていたのだな」
『知ってたでしょうねぇ。でも、稀に居るのよ。男に入れ込んだり、子どもに入れ込んだり、身を持ち崩す魔女っていうのがね』

 リカルドはそれからヴィーラの迎え入れの準備をしておくと話し、こちらへ着く予定日を聞いた。
 しかしヴィーラは吹きだして笑うだけだ。

「なぜ笑う」
『アンタがそこの緊急呼び出し用の魔道具で、私の森に照準を合わせて押せば一瞬よ』
「そういう事は早く言え。部屋の準備もまだ出来ていないぞ」
『シャナは離宮いっこ貰ってんでしょ? そこに居候するからいいわよ~』

 リカルドはシャナを呼び出した後ずっと放置していた魔道具に歩み寄った。
 大きな姿見の形をした魔道具で、一番上の装飾部分についている宝石を撫でると、呼び出す魔女を変えられるらしい。ちなみに一生に一度、というのは『各魔女、一度』なので、これを使ってもリカルドが呼び出せなくなる魔女は二人だけだった。ヴィーラからそれを聞いて呆気にとられたシャナの顔は、なかな見物だった。

「水晶玉のほうはどうすればいい」
『こっちで切るから大丈夫。あ、きたきた。今行くわね』
「……」

 姿見の鏡の部分がふわりと発光し、柔らかい光の中から黒衣の魔女が現われた。
 軽い靴音を響かせ、優雅にリカルドの前に現われたヴィーラはシャナと比べるとかなり長身の魔女だった。身体の凹凸も激しく、黒衣の胸元は布がつれてパンパンで、腰と尻は踊り子のように締まって美しい身体つきをしていた。
 腰までの長い黒髪を無造作に後ろへ流し、スカイブルーの瞳を瞬かせてヴィーラはリカルドに近寄った。

「あら、思ったよりいい男だったわね、リカルド陛下。初めまして」
「よく来てくれた。……それと同じ言葉を返そう、大魔女よ。そなたら魔女はどうしてこうも美貌が常軌を逸しているのだ」

 魔女の滞在理由をどう捻り出すかと頭をフル回転させていたリカルドは、後半を独り言のように呟いた。それをしっかりと聞き取っていたヴィーラは艶やかに微笑んで言った。

「私達がツラで子種を選ぶからでしょうよ。だってたった一回の相手なのよ? 顔がいいに超したことないじゃない。魔女の産む子はみーんな可愛いの。そしてまた見目のいい男を選び、さらに可愛い子供が生まれるってことよ。シャナなんて、千年の魔女たちの最高傑作だわ。養女に出来て感謝なさい!」

 流石のリカルドも、大魔女ヴィーラの前ではため息と共に項垂れるほかなかった。


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