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9.偽の魔女③
しおりを挟む「確かに最後だけで良いと言われているけれど。……そんな目で見ないで、アズレト様」
ちゅ、ちゅっ、と何度も手の甲や指先に口付けられ、その間もずっとアズレトの瞳はシャナを捉えていた。堪らず目を逸らしたシャナの様子に、ふっと笑う気配があった。
「そんな目とは、どんな」
「……」
「皇女様、テラスは夜風で冷えます。中に入りましょう」
「えっ……と、はい……」
百合を抱き締めていたらそのまま椅子から抱き上げられ、部屋に入る。メイドに花束を渡して花瓶に生けるよう指示を出し、シャナはそのまま自室へと連れ去られた。
アズレトはメイドの開けた扉からシャナの部屋に入り、そっと彼女をベッドへ下ろした。
「先ほど触れた時、手がとても冷たくなっていました。寒かったのでしょう?」
「このくらいの気温なら、そんなには。私の手はいつも冷たいんです」
「……いつでも俺が温めますので言ってください」
「え、えぇ……?」
輝くばかりの美貌で上目遣いに迫られシャナはズリズリとベッドの上で退いた。明日の公務は昼過ぎからで良いとはいえ、準備もあるため余裕はそんなにない。寝坊などしたらリカルドに突っつく隙を与えるようなものだし、シャナの性格的にもそれは避けたかった。
「きょ、今日は、無理ですよ」
「解っております。軽く触れるだけです。……明日は責任を持って起こしますから」
「いやいや、いや、何かする気満々ですよねその言い方」
「軽く触れるのもいけませんか。本日はこんな夜になって初めて皇女様のお顔を拝見できたのに。……では口付けはしません、撫でるだけで」
「う、撫でる、だけなら」
パアァッと輝いたアズレトの笑顔の美しさに目を焼かれそうになり、シャナは慌てたようにベッドの上で視線を彷徨わせた。そのうちにもアズレトはベッドに上がってきて、シャナを抱き締めるように腕を回して背を撫でてくる。
(あ、その撫でかた、ちょっと好きかも)
アズレトの体温に慣らされすぎて、シャナは緊張していた身体の力を抜いてしまった。弛緩した身体をアズレトは丁重に抱き上げて膝の上に乗せ、まるで揺り籠のように背を支えてシャナの髪を撫でる。温かくて大きな手が耳の外側をすりすりと撫で、根元へ触れて、首筋にするりと降りてきた。
「んっ……ぁ……」
首の辺りを擽られ、小さな顎の下に伸びた指先はそのまま喉を撫でる。親指がぷくりとしたシャナの唇を優しく撫で擦り、不意に近づいてきたアズレトの顔が頬同士を触れ合わせてきた。子ども同士が頬を擦り合わせる時のように、すり、と懐かれてシャナはびっくりしてしまった。
何度も何度も顔を擦り付けられるから、堪らずシャナは分厚い胸板に両手を突っ張ってイヤイヤする。すると呆気なく離れたアズレトは、照れたように『しつこすぎました、申し訳ありません』と笑った。
「シャナ、……」
ぽふっとベッドに下ろされて、アズレトが覆い被さってくる。さして豊かでもないシャナの胸元に顔を埋め、すう、と深い呼吸をしているのが聞こえた。
シャナはその後もさんざん髪や首の辺りを吸われて、身体中温かい手で撫でられて、骨抜きにされてしまった。
「明後日の公務はなるべく控えてもらうよう、陛下に掛け合います」
スカートの上から太ももを執拗に撫でられ、下着を愛液で濡らしてしまったシャナは、染みの上を指の腹ですりすりと撫でられながらアズレトの声を聞いた。公務をそんなに簡単に外せるものかと思うが言葉にする余裕がない。こんなところまで『撫でる』に入るとは思ってもいなかったシャナの完全敗北だった。
「――ですから、明日の夜までどうか、待っていてください」
たっぷり甘やかしますから、と囁く声が、シャナの身体に甘い痺れを起こさせる。耳朶に触れる吐息までもがくすぐったくて、シャナの心臓は破裂しそうなほど激しく鼓動を響かせていた。
こうしたアズレトの猛攻が毎日のように続くのだ。婚約が成るのが先か懐妊が先か、それともシャナの心臓が限界になるのか、未だに行く末は解らなかった。
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