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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
幕間 追求とお話と愚か者の顛末
しおりを挟む時はルーコとサーニャの二人が依頼に出発した直後に遡る。
向かう直前に二人と別行動を取った私はそのまま踵を返してギルドへと足を運んでいた。
「━━やあ、エリン。昨日ぶり」
建物の中に入ってまっすぐ受付に向かい、目的の人物……ギルドマスターであるエリンに声をかける。
「アライア?今日はルーコちゃん達と依頼に行ったんじゃ……」
「うん、そのつもりだったんだけど、ちょっと用事ができてね。あとエリンに聞きたいことがあったんだよ」
ここにきた理由は二つ、一つは事情を説明してルーコちゃんが森に入る許可がもらえないか打診してもらう事、もう一つは不穏な企みをしているかもしれないある人物の居場所を聞く事だ。
「━━なるほど、ルーコちゃんにそんな事情が……」
事情を聞き終えたエリンが考えこむような仕草をみせながら俯く。
正直なところ、ルーコちゃんが森に入る許可は下りるとは思えない。
いくら事情を聞いたエリンが同情しようとも、彼女の一存で許可は出せないし、上に議題を回したところで却下されるのは目に見えている。
「……なんとかしてあげたいところだけど、最高位の称号の利権に関しての事だからはっきり言って許可は下りないと思う」
案の定、エリンも私と同じ結論に至ったらしく難しい表情を浮かべていた。
「ま、だろうね。上の連中はその手の特例で利権が軽視されるのを嫌うから」
〝魔女〟という称号を得てから何度かギルドないし国のお偉い方と会う機会があり、その腐敗具合は知っている。
何度か会う機会があるだけの私でもその腐りっぷりに辟易しているのだから、ギルドマスターなんてやっているエリンはそれ以上に嫌気がさしている事だろう。
「……力になれなくてごめんなさい。せっかく頼ってきてくれたのに」
「エリンが謝る事じゃないでしょ。ルーコちゃんにも許可は下りないだろうっていってあるし、気にしないでいいよ」
駄目で元々のつもりで聞いた事だし、もうすでにルーコちゃんは〝魔女〟を目指して動き始めているから大丈夫と伝え、私はもう一つの件についてを切り出した。
「どっちかっていうとこの件に関してはついでで、本当に聞きたいのは別の件なんだ」
「別の……?」
聞きたい事がルーコちゃんの件だけなら同行を中止してまでここには来ない。依頼が終わった後の報告ついでにくればいいだけだ。
「そ、ちょっと居場所を知りたい奴がいてね」
「居場所って……私が立場上、そういうのを答えられないって知ってるでしょ?」
こめかみに手を当て、呆れ交じりのため息で返答してくるエリンを「まあまあ」と言って宥める。
無論、ギルドマスターであるエリンが個人のそういうのを答えられないなんて百も承知だ。
けれど、私の予感が正しければこの件はギルドとしても無視できない事態に繋がるかもしれない。
だからこそここでエリンの協力を取り付ける事が必要不可欠になってくる。
「もちろんそれは知ってるよ。それを承知でエリンに協力してもらいたいんだ」
「……一応、話だけは聞いてあげるわ」
そこそこ長い付き合いだからか、こうなった私が折れないのを知ってるエリンは肩を竦め、諦めた顔をして話に耳を傾けてくれた。
ギルドを後にした私はエリンの情報を元にとある酒場へとやってきた。
……流石にこんな真昼間から飲んでる人はあんまりいないね。
少し薄暗い店内を見回し、目的の人物を見つけて近づいていく。
「━━プハッ……クックックッ……そろそろか。失敗しても成功しても奴らもろとも消せる。この私だから思いついたまさに妙案……流石は私だ」
よほど良い事でもあったのか酒のグラスを傾けながら周りも気にせず上機嫌で騒ぐその人物の背後まで足を運び、声をかける。
「――ずいぶんと上機嫌だね。一級魔法使いのギーアさん?」
「あ?誰、だ……っ!?」
気持ちよく飲んでいたところに声をかけられ不機嫌そうに振り向いたその人物……ギーアが私の姿を目にして驚愕の表情を浮かべ、座っていた椅子から転げ落ちた。
「なっ……ど、どうして……い、いや、それよりも一体何の……!?」
よほど驚いたのか、すっかり酔いが醒めた様子で後ずさり、しどろもどろになりながら目的を問うてくる。
ただ声をかけただけなのにこの反応……それにさっきの独り言からして何か企んでるのは間違いないね。
昨日の一件があった時点でプライドだけは高いこの男が逆恨みで何かを仕掛けてくる可能性が高いと思っていたが、その考えは正しかったらしい。
「……お客さん、店内で揉め事は勘弁してくださいよ」
「分かってるよ。さ、ギーア一級魔法使い。他のお客さんの迷惑になるから外で話そうか」
荒事が始まる空気を感じ取った店主の言葉に従い、外に出るよう促すも、ギーアは一向にその場を動こうとはせず、取り繕った表情を浮かべる。
「……わ、私には特に話す事なんてない。お、お引き取り願おうか」
「あなたにはなくても私にはあるんだよね。というか、拒否権はないから」
これ以上の会話は無駄だと判断し、ギーアを強制的に外へ出すべく指をパチンとはじいて軽い衝撃波を発生させた。
「へぶっ!?」
まさか魔法が飛んでくるなんて思いもしていなかったようで防ぐ間もなく店の外まで吹き飛ばされるギーア。
一応、方向には気を付けたつもりだったが、吹き飛ばした際にいくつか椅子を巻き込んでしまった。
「ありゃりゃごめんね。壊した分は弁償するから取っといて」
「あ、ちょ、ちょっと━━」
迷惑料も込みで店主に多めのお金を渡し、吹き飛ばしたギーアを追って店を後にする。
「かっぺっ……クソッ」
吹き飛ばされたギーアは土だらけになって汚れながら道の真ん中で蹲って悪態を吐いており、何事かと周りの注目を集めていた。
「さて、それじゃあギーアさん?少し聞きたい事があるんだけど……」
「っいくら〝魔女〟だからってこんな横暴が許されると思ってるのか!これはギルドに抗議させてもらうからな!」
興奮した様子で叫ぶギーアに辟易しつつも、このままでは話が進まないと思い、私はもう一度指を弾く。
「ぶっ!?」
「私の話、聞こえてるかな?少し聞きたい事があるんだけど」
今度は周りに被害が出ないよう下から上に衝撃波を発生させてギーアを撃ち抜き、軽く吹き飛ばしてからもう一度近づいて同じ質問を繰り返した。
「ひょ、ひょまえ……ひょんな……」
再度吹き飛ばされて、なお態度を崩さないギーアに対して何度も指を弾き、素直に喋りたくなるようお話をしてあげる。
見ている周りの人達がドン引きしている気がするけど、そんなのは気にしないとギーアが素直になるまで指を弾き続けた。
「……まだ答えてくれないのかな?」
「ひょ、ひょひゃへましゅっ!ひゃひゃらひゃんへんひへひゅひゃひゃいっ!」
ちょっとやり過ぎたしまったらしく、ボコボコになったギーアの言葉はひどく聞き取りずらい。せっかく素直に喋ってくれるみたいなのにこれでは全く意味がなかった。
「……しょうがない。こうなったらエリンのところに連れて行った早そうだね」
見ていた周りの人達に「お騒がせしました」と頭を下げ、ギーアの首根っこをつかんで連行し、エリンの待つギルドへ急ぎ向かう。
ギルドに着いた後、ボコボコになったギーアをエリンに治してもらい、改めて聞きたかった事……何を企んでいるのかを尋ねた。
「…………特に話す事はない。それよりおい、そこの受付嬢、この〝魔女〟はなんの理由もなくこの私を攻撃した。これは立派な規約違反━━━━」
「五月蠅いですよ。余計なことを言ってないでさっさと何を企んでいたかを吐きなさい」
私の話とギルドが独自に調査した結果からもうギーアがクロだという事は分かっているせいか、返すエリンの声音は冷たい。
「なっ……ちっお前じゃ話にならん。もっと上の奴を呼んで来いっ」
「……このギルドに私より立場が上の人間なんていませんけど?」
もう何年もギルドに出入りしている筈なのに未だエリンを受付嬢と勘違いしている事にも呆れるが、この期に及んでまだ言い逃れをしようとするその性根が終わっている。
「……はっ?何を言って━━━━」
「あんまり長々話に付き合ってられないんだからさっさと話してくださいよ」
戸惑うギーアを無視する形で詰め寄るように問いただすエリン。そこから先は正直、さっきの私の行動が可愛く見えるほどの惨状だった。
治癒魔法の得意なエリンは私と違って大抵の怪我を一瞬で治す事ができる。だから多少の無茶をしても問題ないと魔法でギーアを痛めつけては治しを心が折れるまで繰り返していた。
「冒険者崩れへの殺害依頼に魔物を封じた玉の違法取引、さらには試験管を買収しての不正昇級……他にも色々、よくもまあ、ここまで悪事を重ねられるものね」
エリンによる拷問紛いの追及で心の折れたギーアは聞きたかった事以外にも、今まで行ってきた悪事の詳細を全て吐き出し、もはや取り返しはつかない。
この後、ギーアを待っているのは称号の剝奪とギルドからの永久追放、そして然るべきところで罪を問われての裁きだ。
流石に処刑とまではいかないが、それなりの罰を覚悟しておいた方がいいだろう。
「というか今はそれよりもルーコちゃん達の方が優先ね。人員を集めるからすぐに出発の準備をしておいて」
「分かってる。先に門の方で待機してるから急いでね」
ギーアが冒険者崩れに渡していた玉に封じられている魔物が凶悪なダイアントボアだと知り、応援と解体用の人員を手配して慌ただしく動き始めるギルド内。
そして全ての準備を最速で終わらせた私はエリンに手配してもらった人員を引き連れてルーコちゃん達の救援へと向かったのだった。
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