聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ

文字の大きさ
40 / 41
番外編 ジークのお散歩

#04

しおりを挟む
 
 翌日、夕日が紅に染まる頃、シドが帰って来ると子供達が彼に群がった。
 相変わらず言葉は少ないし、特に遊んであげるような素振りもないのに、皆が彼の元へ集まるのは、そうさせる何かがあるのだと思う。
 シドがアダムの姿を見てチョイチョイ、と指で側に来るように指示を出す。

「シドさんおかえりなさい」
「ああ、悪かったな、アレ・・のせいで帰りが遅くなった」
「あー……、ジークさんですね。でも、まだ元の姿に戻れてないですよね?」
「……ああ」

 シドが凄く機嫌が悪いのはジークのせいなのは分かったけど、アダムは久しぶりに顔が見れて安心した。
 ジョエルが国からシドを呼びに来る度に、もう帰って来ないかも知れない、と切ない孤独感を味わうし、今回はたまたまジークが国に帰ってくれたから良かったけど、気が変わって帰らなかったり、途中で何かあったら、シドと会えるのはいつになるか分からないのだから、不安になるのも仕方の無いことだった。
 それに、こんな気持ちも、好きな相手がいるから湧く感情だと思えば、贅沢な物なのかも知れない、とアダムは久々に見るシドを見つめた。

「コホンっ……で?」
「え……?」
「何も無かったのか?」
「特に何もありませんでした」

 アダムは変なことを聞くシドに首を傾げた。
 確かにジークのせいで子供達にそわそわさせてしまったけど、子犬の状態の彼が悪戯出来ることと言えば粗相をすることくらいだ。
 じっと顔を見つめて来るシドが「本当に何も無いのか?」と聞いてくるので「はい」とアダムは返事をする。
 彼が何かを言いかけた時、自分の背後から、「あれ、シドさん帰って来てたんですね」と教会の用事を済ませたフィリップが声を掛けて来た。

「ああ、さっき戻って来た」
「そうですか、ご苦労様でした」

 フィリップと神父のレナードには、シドがディガ国の獣人だと言うことは伝えてあるが、平和維持をする為に存在している神の使徒で聖獣王だということまでは伝えてない。
 ただ、神父は古い文献のことを多少知っているようで、ディガ国のことも薄っすらだが、理解しているようだった。
 フィリップが思い出したように、「あ、そういえばあの子犬、何処に行ったの?」と聞いて来る。

「あー……、飼い主の元に帰った見たい」
「そうなんだ? アダムの寝相が悪くて帰ったんじゃ……?」
「え、僕、寝相悪くないと思うけど……」
「冗談だよ」
 
 くすくす笑っていたフィリップが急に顔を凍らせた。
「あ、俺、何か変なこと言ったっぽい……」と、さっさと逃げて行く様子を見つめながら、理解出来ないアダムは首を傾げる。

「アダム」
「はい? ……え? ぇ? ちょ、っと、何処へ?」

 よく分からないままアダムはシドに荷物のように持ち上げられると、シドの屋敷へと拉致された――――。


「あの、っ、ま、まだ、僕、仕事が……」

 あっと言う間にシドの部屋の寝台の上で全裸にされ、全身を隈なく凝視してくる彼に無駄な抵抗をしてみる。

「シドさん! どうしたんですか?」
「朝方、ジークが上機嫌で帰って来た理由を探そうと思ってな」
「え……?」
「まさかとは思うが……」
「……んっ、やぁ」

 シドは何を思ったのか、アダムをくるんとうつ伏せにすると、迷うことなく後孔をペロっと舐め始める。

「ま、まって、駄目!」
「ふむ、ここは無事か、では……」
「あ、……っ、あ、ぁ」

 何を勘違いしているのか大体の察しがついたアダムは、息も絶え絶えになりながら、「ジークさんは直ぐにディガ国へ向かったから、本当に何も無かったんです」と懸命に伝えた。

「ほぅ、では何故、うちの弟は上機嫌で帰って来て、婚約をすることを嬉しそうに承諾したんだ?」
「そ、そんなの知りません。ジークさんに聞いて見たらいいじゃないですか」
「……しゃくに障る」

 そんな……、とアダムは細々と声を出した。

「まあ、いい、序だ……」
「ついで? って、……や、ぅ」

 そのままシドが覆い被さって来ると、かすめるような口づけをした後、じゃれつくようにアダムを抱き起こす。
 既に衣類は全て剥ぎ取られているし、力では到底無理なのも承知の上で「シドさん、駄目です……ぅ」と胸を押す。

「せっかく帰って来たと言うのに、お前は、すぐ駄目と言う……」

 しゅんと落ち込むシドに、胸がきゅうんとなる。
 最近おぼえた耳をペチャリと垂れ耳にするワザをアダムに見せつけながら、「どれだけお前を想っていたか……、この胸を引き裂いて見せようか」などと言う。
 人間界で有名な恋愛小説の影響らしく、近頃のシドはビビアンから教えてもらった、色恋のワザも身に着けたようだった。

「も、もぅ……、シドさんは、どうして……」
「なんだ?」

 首を傾げながら、アダムが少しだけですよ? と言うのを待っているのが見て取れる。
 けれど、アダムにはまだ仕事が残っているし、取りあえず、「あの、仕事が終わってから……?」と言えば、絶望するような溜息を吐き、「信じられない」と大袈裟に言う。

「どれだけ離れていたと思っている」
「……えっと、6日くらいでしょうか?」
「いいや、6日だ」
「はい……」
「6日も離れていたというのに、よくそんな落ち着いた返事が出来るな……」

 聞かれたから、正直に答えただけなのに、怒られている理由が分からなくて、アダムはシドの顔を覗き込んだ。
 くすっと笑みを浮かべた彼が、「よし、では続きを……」と言うので、慌ててアダムは脱がされた衣類を手に取り反論をした。

「ごめんなさい、シドさん、僕、神父様に報告しなければいけないことがあるのです」
「お前は、俺と神父とどちらが大事なんだ?」

 え? とアダムは驚いた。
 答えられない、と言うよりも、どう答えて良いのか分からなかった。
 比べるような対象ではないので、「どちらも大事ですよ」と笑顔を見せれば、カっと目を見開き「なんだと……」と彼が落胆気味に呟いた。
 そんなに変な返事だったかな? とアダムはシドに、「とにかく先に仕事を終わらせてからすぐ来ます。待ってて下さいね」と言い残し、教会へと急いだ。
 もちろん、シドは不貞腐れたままだったが、いつもの事だとアダムは気にも留めなかった――――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...