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秘蜜の計画

#15

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 自分は男なのに彼の寵愛を受け、生活を共にするなんて、おかしいとアダムは首を傾げた。
 いくらアダムが世間に疎いとはいえ多少の知識ある、本来は地位のある男性が女性を受け入れることだと。

「あの、僕は男です」
「だから? 問題はないよ。ねやも優しくね?」

 ジークがそこまで話をすると、ビビアンが激怒した。

「殿下!」
「何だよ」
「夜の相手なら沢山いっらしゃるじゃありませんか!」
「それはソレ、これはコレ」
「殿下!」
「煩いな……、だけど、このままだと処刑されそうだよ?」

 ジークが憐れむようにアダムを見つめる様子を見て、更にビビアンが反論をした。

「きっと国王が何とかして下さいます」
「だから、その王様が出来ないから、俺が何とかするって言ってるの」
「いくら殿下でもアダム様に寵愛を受けさせるなど……」
「大丈夫だって、男の扱いも慣れてるから」
「……そう言うことを申しているわけでは御座いません!」

 黄金に輝く瞳と髪をキラキラさせながら笑顔を見せ、ジークがこちらに向かって手を伸ばすとアダムの手を握った。
 普通にしていてくれたら、ジークも決して怖いばかりの男では無い。テラスから脱走の手助けをしようとしてくれた彼が、本当に悪い獣人だとは思えなかった。

「俺の寵愛を受けるなら、家にだって自由に帰してあげるよ? 勿論この国には帰ってきてもらうけどね」
「本当ですか?」
「うん、約束するよ」

 思わずアダムは身を乗り出した。
 家に自由に帰してくれると言う彼に、単純な思考回路が屈してしまう。だが、シドも家に帰してくれると言っていたことを思い出し、乗り出した身を一旦引っ込めた。

「どうしたの?」
「いえ、何でもないです……」

 頭をふるふると振り、ジークとシド、どちらの言うことを聞いたら良いのか分からない。
 アダムは家に帰れるなら、どちらでも一緒だとは思うが、ジークの提案は国から出ても、また戻って来なくてはいけないし、シドに一度相談した方がいいのだろうか? と考え込んでいると、宮殿から使いの者が走って来た。
 どうやら来客が来たと報告しに来たようで、ビビアンはジトっと虫でも見るような目で、ジークを見ると諦めたように。

「アダム様、少し席を外します」
「うん」

 がっかりしながら、ビビアンは使いの者と一緒に宮殿の方へ歩いて行った。それを確認すると、ふぅ、とジークが小さく息を漏らした。

「ねぇ、俺のこと嫌い?」
「嫌いじゃないです」
「じゃあ、問題ないね。大事にするから俺についておいでよ」

 問題ないと言うが、本当にそうなのだろうか? 今までの行動を考えても、ジークは問題ばかり起こしそうな気がした。

「ジークさんは、どうして僕に寵愛を?」
「そりゃ……、芳香があるからね」
「けど、それは、満月前の数日……」

 そこまで言葉にしてから、アダムはハッとする、ロイドの説明は満月の数日前から発情が始まり芳香が出ると言う説明だった。
 じゃあ、どうして満月が終わったのに出るのだろう? 白金の粒子は見えないが、刻印は茜色には染まる。
 芳香は満月に近付くと濃くなると言っていた言葉通り、満月に近付くと目に見えるほど濃くなるかも知れないとアダムなりに解釈したが、その時シドの言葉が蘇った。
『お前は、芳香が出る理由を知らないのか……?』彼はそう言って呆れていた。
 もしかして、満月じゃなくても誰かに発情すれば、芳香は出てしまう? そこまで理解するとアダムは顔が熱くなる。
 つまり、シドに対して発情していたと言う事実に気が付き、恥ずかしさで気が動転する。ジークが「どうかしたの?」と顔を覗き込んで来るがそれどころでは無かった。

――うぅー、やだ……。

 シドは分かってて、あの質問をしたのだと思うと、とてつもなく恥ずかしくなる。
 アダムがどれだけ取り繕っても、芳香が出ればどんな状態か分かってしまうのなら、こんなに恥ずかしいことは無い。
 次に会う時どんな顔をすればいいのだろう、と何とも言えない溜息を吐くと。

「ん……、ねえ? 俺が寝てる間に何かあった?」

 怪しむような表情を見せシドに問われるが、アダムは何もないとかぶりを振った。事実シドと色々あったが、そんなことをジークに報告出来るわけが無かった。

「あの、ジークさんはシドさんって知ってますか?」
「シド……?」

 その名前を聞きジークは眉を寄せる。
 テーブルに乗せていた手を降ろし、自身の髪をかき上げると、何処で会ったかと聞かれ、祭壇のある建物だと答えた。それを聞き、「何だよ……、興味なさそうだったのに」とジークはブツブツ文句を言っている。 

「あの? シドさんのこと知ってるんですか?」
「知ってるも何も……、もしかして何かあったの?」
「いえ……」

 何も無いと言ったが、アダムの表情がそうじゃないと言っていたのだろう。ジークから舌打ちが聞える。

「その男の言うことは信じちゃダメだよ」
「どうしてですか?」
「どうしても! ねえ、何かされた?」

 思わずアダムの頬が熱くなる。きっとジークには、それだけで十分に何かが伝わった気がした。
 彼はガタンと立ち上がると「もう帰る」と言い足早に出口へと向かって行く、アダムはジークの後姿を見ながら、結局、シドの素性に関して何一つ情報を得られなかったことを残念に思った。
 しばらくガゼボでサボテン茶を一人で堪能していると、年老いた獣人がビビアンと一緒に、こちらに向かってくるのが見える。アダムの側まで来ると、礼儀正しく腰を折り挨拶をした。
 その老獣男は、たっぷりと蓄えた髭を摘まみ上げると、少しだけ気取った素振りを見せる。

「アダム様、こちらはブライ監察官です」

 ビビアンから獣人の名前を教えられ、それに頷くとアダムも自分の名を名乗り軽く腰を折った。

「はじめまして、アダムです」
「これは、これは、ご丁寧な挨拶をありがとうございます」

 ツンと尖った鼻を鳴らすとブライは、そのまま話を始め、見張りの塔にいる人間の子に役職を与えると言う。

「使用人として、お側に置かれますか?」
「使用人……ですか?」

 レミオンを使用人にするなんて、そんなこと出来るわけがない、と訴えたが、何か役職を与えないと、見張りの塔から出せないと言われる。
 一番手っ取り早く与えられる役職が使用人だと言われたが、役職を与えてもしばらくは修行期間があると言う。
 ビビアンがコソっとアダムに「なるべく早く役職を、お与えになった方が良いかと思われます」と耳打ちをしてくると、強い眼差しを向けてくる。彼女の目が、これが最善策だと言っている気がして、仕方なくアダムは了承した。

「では、早速手続きに移りましょう」

 ブライは笑顔を見せるとクルと背を向け、丸いシッポを振りながら宮殿から出て行った。
 それを見届け、急にアダムは切なく思う、使用人にすると言う話をレミオンが聞いたら、ショックを受ける気がして落ち込んだ――――。
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