電光のエルフライド 

暗室経路

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電光のエルフライド 前編

第十五話 飲みニケーション

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 人通りのあまり無い、柱の隙間にデッドスペースを見つけた俺は、すっぽりとハマる様にして、その身を隠した。
 袋をあける。

 察しの通り、中身は携帯で、ディスプレイを開けばご丁寧に〝ウサギさん〟とやら謎の人物に直通出来る様にセットされていた。
 コールをかけて数秒、直ぐに相手へと繋がる。

 『よお、上手くやってるそうじゃないか』

 案の定、相手は叔父だった。
 明るい声音の第一声に、俺の沸点は急激に上昇する。 
 コイツのせいで俺の心労はマックスだ。

 「……あんたは元気そうだな」  

 『元気なワケあるか、こちとら激務に追われてもう直ぐスキンヘッドになりそうだぞ』

 そうかい、往生際の悪さがとれて見栄えも少しはよくなる事だろうよ。
 嫌味を思い浮かべて溜飲を下げ、言葉を続ける事にした。
 言いたいことは山ほどある。

 「おい、聞けばあのガラクタは武器も無いらしいじゃねぇか。こんなんでどうやって戦えってんだよ」

 エンジニアから聞いたが、エルフライドは運用方もわからなければそもそも武器も無いという。
 そんな状態では訓練も始めようが無い。
 というか戦いすら始められないだろう。

 『なんだ、あんなにイヤイヤ言ってたのに随分やる気だな』

 本当に、コイツは……。
 俺がどんな思いで指揮官をやってるかわかっているのか?
 歯をギチギチ鳴らしていると、

 『冗談だよ、どんな手段をとるにせよ、エルフライドの武器は必要になるだろう。手配はしている。しかしな、ちょっと問題が発生中だ。かなり時間を有するかもしれない』

 時間だと?
 射撃訓練とかもしたいから、早く納品されなきゃ困るんだが。

 「いつまでだよ、人類のためとか言って銃で脅してでも急がせろよ」

 『まあ聞け。いくら工程を急がせて予定が繰り上がろうが関係ない。直接納品は出来ないからな』

 「なに?」

 『最悪、百日後の作戦時に納品場所まで取りに来てもらわないといけなくなる可能性が大だ』

 怒鳴り散らかしたくなるのを抑えるのに必死だった。
 百日後に取りに来いってことは。
 ぶっつけ本番で使えってのか?
 そんなんじゃ敵に対しての効果や特性も検証出来ない。

 軍を裏切るにせよ、何にせよ、武器が無ければなんの選択肢も生まれない。
 しかしまた、なんだってそんな時間がかかるんだ?

 「持ってこれないってことか?」

 『その通りだ。今の時代、我が国の業者は反戦派が圧倒的多数を秘めている。施工してくれている契約業者は一般にバレないように極秘裏に事を進めている兼ね合いもあり、納品には慎重にならざるを得ない——そうだ』

 「そうだ?」

 『いくら極秘裏と言っても、やり方なんざ腐るほどある。こちら側でも納品を円滑にするために軍の交渉担当に色々と提案したが、全て却下された。武器が遅れているのは何か裏があるような気がしてならん』

 裏がある、か。
 何か別の力が働いているのなら、違う道も選択しなければならない。

 「……そんで、武器は用意は出来ないってか?」

 『期待はするな、それが一番だ』

 「……そうか」

 『お前の事だ。何か、別に考えがあるのだろう』

 まあ、あるにはあるが——。
 最悪の場合DIY(手作り)兵器もやむなしと思っていた。
 エンジニアの資料には全員が鉄鋼や溶接、設計の有資格者だと記載してあった。
 超テクノロジーのエルフライドの整備はできなくとも武器は作らせられるだろう。
 専門じゃ無いので火薬銃でなく、かなり原始的な部類の武器になるだろうが。

 「もういいよ、武器は。キャンセルだ、キャンセル。本番にしか使えない飛び道具なんかアテに出来るか。違約金は払わなくちゃダメだろうけど、リスクを背負ってまで業者に作らせる事もないよ、キャンセルしてくれ」

 『おお、そう言うと思ってな、実はもうキャンセルの打診は独断で行なった。公安に頼んでな』

 「はあ!?」

 人を驚かす趣味でもあるのか?
 その後出しジャンケンみたいな喋り方は是非辞めて欲しいのだが……。
 それに、【公安】だと?
 あの【公安警察】の事だよな?
 軍不要論が噴出する中、暴走しだす懸念のある軍と、それを警戒する警察は対立に近い関係にあると思っていたが——。

 いや——、【公安】は警察からは独立した特殊な組織だったか?
 しかしそれにしてもなんで軍に協力するような真似を——。
 しかも頼んだ?
 妙なことを言い出す叔父に聞いてみることにした。

 「なあ、公安と軍って協力関係にあるのか?」

 「ん? 個人的な付き合いだが?」

 個人的付き合いだって……?
 それが本当なら、警察と軍の二重スパイみたいなもんじゃないのか?

 「おい……危ない橋を渡ってるわけじゃないよな?」

 『軍にいるのは危ない橋じゃないのか?』
 
 禅問答のように、平然と聞き返す叔父に絶句する。
 嫌な予感が的中することほど、最悪なことはない。
 叔父は電光中隊の総司令的立場な筈……このことが露見すれば部隊もどうなるか分かったもんじゃないぞ。

 最悪、怒った軍に私的に吊るされるんじゃないか?
 口をパクパクさせて何を言おうか考えていると、叔父は愉快げに話を続けた。

 『まあ、聞けよ。公安を通じて業者に聞いてみたらな、面白い返答が返ってきたんだ』

 「……なんて?」

 『〝三十丁、既に納品済みですけど?〟 だとよ。しまいには〝予備分九丁のキャンセルという事でよろしいですかね?〟 と、きたもんだ』

 予備分、九丁?
 その前に三十丁納品?
 まるで、ウチの前にどこかの部隊に納品したみたいなニュアンスじゃないか。
 電光よりも優先されている——エルフライド部隊が存在する?

 「……どういう、事だ?」

 『さてな、それはこちらで調べる。とにかくお前はコチラを期待せずに事を進めろ。必要資金だけはニシモト通じてたんまり送ってやる。その辺だけは頑張らせてもらってるからな』

 「……軍は一体何がしたいんだよ」

 『まあ、わかる事は信用出来るのは自分だけ、という事だけだ』 

 「ほう、アンタは俺を信用してないってことか」

 言ってやると、叔父の声音が少し変わった。

 『お前は俺の半身だよ』

 ハンシン?
 なんだ藪から棒に。

 「気持ち悪いこと言うなよ」

 『すまんな。それじゃあもう切るぞ。最後に質問あるか?』

 そんな叔父の言葉に、俺の口から何故かこんな言葉が飛び出ていた。

 「なあ……叔父さんは誰かを裏切った事はあるか?」

 誰も裏切りたく無い、誠実でいたい。
 だが、そんな甘えた願いは現実では叶いそうにない。
 どちらかを選択しなければならない。
 浅ましくも俺は自分の弱い心を守る為、自分と同罪、もしくはそれ以上の罪を犯した人間を求めていたのかもしれない。

 自分の罪が薄まるわけでも無いのに、誰かの犯した大罪を聞いてみたくなったのだ。
 叔父は暫く黙った後、ポツリと言った風に話し始めた。

 『思い出せないが、多分ある。思い出せない、てのは思い出したくも無いんだろう。忘れる努力をしたって事だ。思い返せば、そんな努力に費やした人生を歩んできた。その中で——ふと、気づいた事がある』

 「気づいたこと?」

 『裏切らないよう努力をした覚えは無かった』

 「……努力、か」

 『どちらにせよ覚悟を決めろ、准尉。まだ途上だが、俺ですら出来たんだ。お前に出来ない訳がない』

 ブツッと電話が切れる。
 俺は耳元から携帯を力無く下げる。

 「参ったな……」
 
 裏切りたくなければ努力しろ、か。
 叔父のアドバイスがこんなにも響くとは、余程指揮官業務が堪えているのだろう。
 叔父の言葉がなければ、思考を放棄するところだった。

 そうだ——何が危ない橋だよ。
 俺だって、軍部を裏切るような計画を画策していたじゃないか。
 選択は視野を広げれば両極ではなく、無限に存在する。
 俺の歪んだ正義心を満たす以外に全員がハッピーな結末、そんなものが果たして本当にあるんだろうか?
 
 「俺、死んじゃうかも……」

 最近、頭の使いすぎでオーバーヒートしそうだ。  
 イマジナリーで湯気の立っている頭のまま、ノロノロと少女達が騒ぐ服屋へと戻ったのであった。






ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ

 
 意外と少女達の買い物に対しての抵抗感が減るのは早かった。
 店を色々回ったが、全員商品を手に取り、何を買うべきか話し合っていた。
 予想に反してる金を使いすぎない様にセーブしている様も見てとれた。

 これには驚きだ。
 欲に忠実な子供が自ら自制心を持って欲しいものの選別を行うのだ。
 同じ年頃の俺だったら、ある分だけ使っただろう。
 彼女達は先を見据えている。
 それがどこまで先なのかは分からないが、俺はそれに対する——。
 
 「ミシマさん」

 振り返ると、シノザキが直立不動で立っていた。
 ご丁寧に腕を曲げて腕時計を構えている。

 「三時まで、残り十分です」

 俺は頷き、全員に集合をかける。
 予想通り、荷物が多くなっていた。
 一旦バスへと置きに行くよう全員に伝え、先導する。
 立体駐車場に行くと、赤い消火栓の表示灯に照らされた、エンジニア達がモールで購入したであろうグラサンをかけた状態でドヤ顔待機していた。

 「どうですか? 指揮官どの」

 「このバスはビーチには向かわないぞ?」

 軽口を叩きながらバスに荷物を載せおわり、周辺で輪になって視線を浴びながら指示を出す。
 予定通り、彼女らには映画館へと行ってもらう事にした。
 エンジニアとは飲みの約束があるので、少女達とはここでお別れだ。
 一応、エンジニア達が潰れたら休ませるために西本から鍵を拝借しておく。
 三時間後にまた、彼女らとはモールで待ち合わせをする。

 「大衆文化がどの様なものかしっかりと学んでこい」
 
 俺の言葉を締めに、頷いた少女達とは別の道へと歩き出す。
 薄暗い立体駐車場を抜け、日が照らす大通りへと出た。
 デカい国道を挟んだ先に繁華街へと躍り出る事が出来る。
 
 「准尉殿! 一体どんな店へと連れてって頂けるんですか?」

 歩道橋を渡っている最中に、酒を飲みたくてウズウズしているエマが明るげに発した。

 「大衆居酒屋だ、個室を予約してあるから思う存分飲んでくれ」

 「皇国の飲み屋には興味があったんですよ。チップが要らないって本当なんですか?」

 ライアンが興味津々と言った風に、身を乗り出して尋ねてきた。
 合衆国はファーストフードやその他を除く、様々なサービス業の給仕サーブにはお小遣いチップをやらなければならない。
 その文化に留学生時代は辟易したもんだが、逆に皇国にきたエンジニアからすれば手間が省けて万々歳だろう。
 羨ましいことだ。

 「ああ、この国にはそんな概念は無いな」

 そんな事を話しながら、俺達は雑多な繁華街へと踏み込み、とある店へと入る。
 中はネットの前評判通り落ち着いた店だった。
 ウッド調を基調とした和のテイストが盛り込まれた現代風居酒屋だ。

 カウンター席には提灯が立ち並び、エンジニア達は興味深そうにそれを眺めている。
 スムーズな接客のおかげで早々と奥の個室へと足を運び、腰を落ち着ける事が出来た。

 「さて、今回は国の奢りだ、好きに頼んでくれて良いぞ」
 
 俺の言葉にイェーイと無邪気に喜ぶエンジニア達。
 メニュー表が文字だけだったのでどういった料理なのかを解説をしていると、店員がお盆に人数分の水と小鉢を運んできた。

 「こちらお通しになります、お飲み物はお決まりですか?」

 「とりあえずビール四つお願いします」

 「かしこまりました、他に注文お決まりでしたらお呼びください」

 お通しはどうやら、きんぴらごぼうみたいな料理だった。
 箸を持ってパクついていると、エマが怪訝な表情を浮かべていた。
 
 「これは、サラダですか?え、頼んで無いですよね?」

 「"お通し"と言ってな、皇国のこういう店は勝手にくるんだ」

 「まじですか? サービス?」

 「サービスの店もあるが、有料の店もある。まあ、要らない場合は前もって言っとけば大丈夫だ。必須の場合もあるからそこら辺は諦めなければならない」

 「へー変わってますねぇ」

 「味は微妙だな、食った事ない感じがする」

 「甘いな、と思ったら辛い。不思議な味だ」

 思い思いの感想を言っていると、ビールが運ばれてくる。
 さて、とりあえず皇国流の乾杯の儀へと移ろう、そう思ってジョッキを掲げようとした矢先。

 「あの、すいません」
 
 ビールを運んできた店員が申し訳なさそうに口を挟んできた。

 「あの、失礼ですがお客様がお若く見えまして……年齢確認をよろしいですか?」

 俺は無言で叔父から貰っていたミシマ准尉の免許証を掲げる。
 証明写真なんかも俺の写真にすり替えられている代物だ。
 エンジニア達がなんだなんだと、固唾を呑んで見守る中、律儀に全文チェックを済ました店員が頭を下げて去っていった。

 「なにかあったんですか?」

 「年齢確認だよ」
  
 エンジニア達が笑い転げているのを見て、俺は神妙な面持ちでビールを口に含む。
 そうだ、迂闊だったな。
 留学時代、合衆国では合法だったので酒は結構仲間と飲みまくっていた過去がある。

 そのせいか抵抗なく頼んでしまった。
 というより、現在は特殊な環境なせいですっかり自分が未成年だという事を忘れていたのもあるな。
 店員に提示した免許証は偽造ではなく、公安を通じて裏技みたく法的に発行したと叔父は言っていた。
 つまり、我が国で俺はミシマという三十五歳のオッサンとして登録されている。
 ならば今飲んでも法には接触していないはずだ……多分。

 「笑いすぎだぞ」

 「いえいえ、すいません。准尉がお若く見えるのは私たちだけじゃ無くって安心しました」 

 「シノザキに会った時には幽霊を見たみたいに反応されたぞ」

 「確かに見た目が若すぎですよ、ティーンエイジャーにしか見えませんもん」

 俺はため息を吐きながらビールを机に置き、不敵な笑みを向けてやった。

 「そのティーンエイジャーから良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」

 エンジニア達はその言葉を受け、シンクロしたかの様に一気にビールを飲み干して、俺を見据えた。
 その顔は嫌半分興味半分と言ったところか。
 なんにせよ仕事の話になると真剣だ、好感が持てる。

 「良い知らせから聞きたいですね」

 「現在、エルフライドの武器を製作中だ」 

 「悪い知らせは?」

 「納品は期待出来ない、もうこちらから作ってしまおうと思っている」

 トビーが頭を抱えた。
 ライアンは信じられないと言った様に口をあんぐりさせ、エマは真顔だった。
 暫くして、エマが口火を切る。

 「そもそも資材が無いです、現実的ではありません」

 「お前らには設計を頼みたい。恐らく反戦派であろう街の業者とは複数契約して、武器だと分からない様にできるだけ分散させて製造させる。後は出来上がった部品を持ってきてお前らが組みたてるだけ、簡単だろ?」

 「……私たちに火薬銃みたいな精度の高い武器を設計するノウハウは無いですよ?」

 そんな事、百も承知だ。
 軍関係者が全員、銃を作れると思っているような間抜けは素人だ。
 合衆国時代に銃のことは学んだが、銃というのは単なる鉄パイプから鉛が発射される物では無い。

 ライフリングというスプリング型の溝が掘られた精度の高い筒から、火薬の力で押し出された鉛の弾が回転しながら射出される。
 撃ち続ければガスの煤が溜まり、動作不良や暴発の危険もある繊細な代物なのだ。

 各国はその問題を解決するため、ガスを調整するようレギュレーターを搭載したり、涙ぐましい努力をしてきたのだ。
 歴史再現の如く一からの努力を、たった百日で俺はやるつもりは無い。

 「誰が銃と言った?」

 言いながら俺は店員を呼び、ビールのおかわりを注文する。
 店員が去ると、エマは身を乗り出す様な姿勢で口を開いた。

 「准尉は一体、何を作るつもりですか?」

 俺は箸立てから一本箸を取り出し、ポケットから輪ゴムを取り出して箸の両端にくくりつける。
 爪楊枝を取り出して、それを飛ばす様なマネをすると、エマは気づいた様だ。

 「まさか、弓、ですか?」

 「まだ思案段階だ。候補生達を使って色々試してみない事には始まらないがな」

 「弓の様な古代兵器が……エルフライドに通用するとでも?」

 「矢尻に色々つけてみるのも面白いかもしれない。ボカンっていうやつとかをな」

 俺の言葉に、三人は苦笑というよりかは嘲笑の様な笑みを浮かべる。

 「准尉殿、エルフライドってのは空をピュンピュン飛び回るんですよ。飛び回る相手に矢を当てれるのはコミックのスーパーヒーローだけなんです」
   
 ライアンがシラフの顔でそんな説教じみた事を言い出した。
 まあ、最もではある。
 しかし、エルフライドは常識の外側にあるという事を忘れている。
 ミシマ准尉の手記で様々な事を学んだが、あの兵器は我々の尺度で測る事は出来ないという事だ。
 
 「エルフライドはスーパーヒーローに最も近い存在だろ?乗れば世界制覇すら可能なんだ、それくらいやってもらわなきゃ困る」

 俺の口ぶりにエンジニア達は神妙な面持ちのままだった。
 まだ乗り気では無いな。
 仕事をしたくない訳ではない、そんな事に貴重な時間を割くのかと言った雰囲気だ。

 「やってやろうじゃないか。まさかエイリアンも弓で撃たれるとは思って無いだろう」   
 
 俺のジョークじみた言葉に、ただ肩をすくめる三人。

 「とにかく、俺達は最善を尽くさなきゃならん。状況は刻一刻と変わるだろうし、その都度変えていけばいいさ。とりあえず、今から俺たちが目指すべき道筋は決まっただろう?それで良しとしようじゃないか」

 ダメ押しのように俺がそう言うと、暫く三人は無言のままだった。
 気まずい空気感のまま、エマが不意に口を開いた。

 「……准尉」

 「なんだ?」

 「おかわり良いですか?」
 
 エマがジョッキを掲げてそんな事を言う。
 それを見た二人も同様に、

 「あ、俺も」

 「俺も欲しいです」

 「ビールだけじゃ無く、他にもある。色々試してみるといい。あと、料理も適当に頼もう、どうせ食うだろ」
 
 その後は仕事の話は忘れ、ただひたすら飲んで食ってを繰り返した。
 三人の故郷の話や、トビーがシノザキを見てかなりタイプだった、みたいなくだらない話をして時間が過ぎていく。
 気づけば二時間半は経過しただろうという時、ふと真っ赤な顔のライアンがこんな事を口に出した。

 「クロスボウタイプが良いかもしれませんね、照準がつけやすい」

 なんの脈略もなく、いきなり武器の話に戻ったのだ。
 エマとトビーがすかさずそれに反応する。

 「私もそれは思ったけど、次弾を発射するまで時間がかかるわ」

 「マガジンタイプにして、いや、それだと先端に炸薬を詰んだら暴発しかねないな」

 「いや、それは弓でも変わらんだろう。矢は矢筒に保管するんだろう?振動で爆発するタイプの爆弾なら揺らせば危険だろう」

 「炸薬に安全装置をつけるのは? グレネードみたく点火式にして紐を引けば解除される」

 「戦闘中に手間だろう、振動式のが効率的だ」

 「矢筒じゃなく、レール式にしたらどうだ?」

 「どういうこと?」

 「いいか、よく見てろよ」

 卓上のナプキンを手に取り、胸元に刺していたペンで設計図の様なモノを書き出したトビー。
 それに釘付けになるように見入るエマとライアン。
 あーでもないこーでもないと話し合う彼女らを見て、暫く呆気にとられていたが。
 ずっとみているとなるほど、と合点がいった。
 奴らは根っからのエンジニアなのだな。

 中身の無い話をしながら、ずっと俺のアイディアが気になって頭の中でひたすら精査していたに違いない。
 思わず俺が笑ってしまうと、怪訝な表情を浮かべた三人が見返してきた。
 
 「准尉?」

 「頼もしいよ、お前らは」

 俺の言葉に、訳もわからず顔を見合わせる三人が愛らしくなったのは言うまでもない。
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