さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第十八話

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 宿を取ったテルラ達は、ハンター用の大部屋に入って荷物を下ろした。
 ずっと指の輪を作ったままだと疲れるので、テルラは腕も下している。
 テルラの左目でしか見えない聖女も一緒に部屋に入っていて、形と質感を確認する様に椅子を撫でている。
「さて。クエストをクリアするためには目に見えない魔物らしき物を退治しなければならないのですが、解決するには僕にしか見えない聖女様の協力が――」
 テルラが今後についての会議を始めようとすると、不意に椅子が動いた。女性陣には椅子が勝手に動いたかの様に見えたので、まるでポルターガイストだった。何も知らなかったら戸惑い、悲鳴を上げていただろう。
「テルラさんに私の存在を認知して頂いたので、時間経過と共に、この世界の物に干渉出来る様になって来ていますね」
「知らない女の声が聞こえましたわ。これが聖女様の声ですの?」
「え? レイにも聞こえる様になったんですか?」
 テルラが目を剥くと、レイはズレた位置に有る椅子を見澄ましながら頷いた。
「ええ。姿は相変わらず見えませんが、ハッキリと。プリシゥアとカレンはどうですの?」
「聞こえたよ。本当に見えない人が居るんだね」
「聞こえたっスね。まぁ、取り合えず座るっス。聖女様も、自分で動かした椅子に座って欲しいっス。そこに居ると思っていれば、私達も話し易いっスから」
「そうですね。ここに座ります」
 プリシゥアに返事をする聖女。
 見えない人との会話に戸惑いながら、全員で大テーブルを囲む。
「段々とこの世界に馴染んで来ていますね。無為に時を過ごすとこの世界の存在となり、帰れなくなる可能性が出て来ます。なるべくこの世界とは関わらない方が良いでしょう。しかし事件解決のためには皆様の協力が必要。バランス取りが重要ですね」
 困った声を出す聖女。今は指の輪を作っていないので、テルラにもその姿は見えていない。
「確認ですが、聖女様は異世界の人、と言う認識で良いのでしょうか」
「そうなりますね。――異世界の人という存在をすんなり受け入れているのは、他にも異世界人が居るからではと思うのですが、どうなんでしょう?」
「居ました。その方はすでにこの世界を去っている、はずです。どうやら、この世界には異世界人は居てはいけないらしいので」
「貴方達は世界に関する知識をお持ちの様ですね。その点についての追及は、時間の無駄なのでしません。異世界人が居てはいけないのなら、帰る意思の有る私がこの世界に足止めされる可能性は低いでしょう。安心しました」
「では、少し踏み込んだ質問をします。聖女様はどの様な理由から聖女と呼ばれているのでしょうか」
「私はインターネット上に存在し、不適切な書き込みを削除する仕事をしています。と言っても、この世界の文明レベルでは意味不明でしょう。ですので、そちらの事情を追求しないのと同じく、詳しく説明しません」
「しかし、説明して頂けないとクエストクリアが困難になってしまいます。役所に証拠を提出するか、経緯を詳細に報告しなければ報酬が出ないんです」
「報酬。確かにそれは大切ですね。しかし、私の情報を出し過ぎると私の存在がますますこちらの物になってしまう可能性が有ります。帰れなくなる確率は出来るだけ下げたいですね」
「帰れなくなるのは困りますね。さて、どうしましょうか……」
 テルラが考え込むと、カレンが肩を竦めた。
「元々ダメ元でクエストを受けたんだから、スルー出来るところはスルーしようよ。見えない人が相手なんだから、話が進まないといつもより疲れちゃう」
「そうですね。では、聖女様。僕達は、僕達に理解出来ない説明を求めません」
「了解です。話を続けます。――元の世界でも、私は物理的には存在していません。なぜ人間の形を得たのかは全く分かりません。この謎も時間の無駄なので追及しません」
 透明な人間が座っているらしい空席に向かって頷くテルラ達。
「人間の女性の姿を得た私と同様に、私が相手をするべき不適切な書き込みも黒い球体と言う姿を得てこの世界に呼び出されました。黒い球体はこの世界の住人を汚染しています。本来はここまで強力な存在ではないのですが、なんらかの作用を受けて強毒化しています。私達が通って来た次元の穴を塞がない限り事態は収まらないので、穴を探さなければなりません」
「次元の穴。それを塞げば、あの黒い風船の様な魔物は消滅する、と」
「今後は対象を黒風船と呼称しましょう。黒風船は今も次元の穴を通り、こちらに来ています。穴を塞がなければなりません。同時に私の帰り道でもあります。私が穴の向こうに行き、その後に通路を隙間無く塞ぐ。それが一番の成功です」
「どうも本当に戦闘しないで済むっぽいっスね。私はヒマしそうっス」
 プリシゥアの呟きが聞こえなかったのか、食い気味に話を続ける聖女。
「私と黒風船が見えるテルラさんなら、次元の穴が見付けられます。探しましょう」
「僕が探さないといけないのですね」
「私もそこからこちらに来た訳ですから、おおざっぱな位置は分かります。しかし、正確な位置は分かりません。急に人間らしい自我を与えられ、混乱してしまったからです。帰り道の確認をせずに移動してしまいました」
「大丈夫です。次元の穴から黒風船が出続けているのなら、取り付かれた者がより多く居る方に行けば次元の穴が有るはずです。探すだけなら簡単です」
「なるほど。他人に話し掛けられない私と違い、情報収集が容易な皆様なら、確かにすぐに見付けられますね」
「聖女様が授けてくれた情報が無ければ至れなかった発想です。――では、昼食を取った後、情報収集に行きましょう」
 はーい、と返事をする女性陣。
 しかし、一人だけ怪訝な顔をしている仲間が居た。
「どうしました? カレン。何か気になる事でも?」
 テルラがリーダーとして訊くと、おでこを出している黒髪のカレンが口をへの字にした。
「もしかして、この世界って300年持たないんじゃ?」
 その言葉に首を傾げるレイ。
「いきなり突拍子の無い事を。わたくし達の活動を否定する様な発言の意図はなんですの?」
「意図とか難しい話じゃなくて、異世界の人が来ているのがおかしいかもって。聖女様って、カワモトさんに続いて二人目の異世界人でしょ? 二人居るって事は、三人目が居ても不思議じゃない」
 出番が無さそうで緊張感を失っているプリシゥアが気楽な姿勢で頷く。
「ま、居ないと思う方がおかしいっスね」
「なら、過去にも居るかも知れない。でも、そんな話は知らない。――誰か、異世界人が来たって話、聞いた事有る?」
 確かに異世界の人が活躍した話は聞いた事が無い。
 召喚魔法が有るので異世界の住人を呼び出した話は有るが、それで人間が呼び出されたとしても、所詮は魔法の効果。術者の命令外の行動は出来ない。
 カワモトや聖女の様に自分の目的を持っては動けないはずだし、用が済んだらすぐに元の世界に戻されるはず。
「それに、北の国で神様も暴れた。アレは川を汚した人間が悪いって話だったみたいだけど、それも変な話だと思う。あの国の鍜治場は昨日今日出来た物じゃない。暴れるなら川が汚れてすぐにの方が自然じゃない?」
「言われてみれば、カレンのおっしゃる通りですわ。しかし、わたくし達のあずかり知らない事情が合ったのかも知れませんわ。それを知れば自然に思えるでしょう」
「レイの言うあずかり知らない事情が魔物のせいなら女神様が言った300年で良いと思う。でも、異世界からの刺激で神様が乱心したのかもと考えると、結構切羽詰まってるんじゃないかなって」
 全員が考え込む。
 一分くらい重い沈黙が部屋に満ちたが、テルラがそれを破った。
「考えると異常事態に感じますが、今は黒風船を何とかしましょう。本当に危機的状況なら女神様が動いてくださるはずです。僕達は僕達の仕事をするしかありません」
「そうだね。変な事言ってごめん。行こう」
 カレンは気持ちを切り替え、一番にテーブルを離れた。
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