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第十八話
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ささやかなフリルが付いている派手な原色のドレスモドキを着ている女は、まるで迷子になっているかの様に不安げに佇んでいる。
指の輪を解くと影すらも見えなくなり、輪を覗くと困っている表情までハッキリと見える。
「女の方? 一番奥の一室が女性の部屋ですが、あそこに何か気になる物でも?」
レイが通路の奥を指差す。女性のみが入れられている部屋は男性が入っている部屋と違って窓にカーテンが掛かっているが、今は開いている。
「いえ、そうではなく、黒い風船と同じく、ガーネットの左目でしか見えない人です。普通の人間にしか見えないので魔物ではないと思いますが……」
「――です? 目が合ってますよね? ああ、良かった! 私が見えるんですね! 声は聞こえますか?」
派手な釣鐘型スカートを揺らし、女がテルラに駆け寄って来た。
最初は口パクだったが、近付くに連れて声が聞こえる様になる。
「ええ、見えますし、聞こえます。貴女は一体?」
「私はseijo5289です。突然この世界に召喚されたのですが、誰にも気付かれず、ほとほと困っておりました」
「聖女……様ですか? 数字の意味が分かりませんが、それも名前でいらっしゃるのでしょうか」
虚空を見上げて会話を始めたテルラを心配する仲間達。指の輪を解いていないので、乱心した訳ではないだろう。
「ええと、テルラ? ガーネットの左目でしか見えない方と会話しているんですの?」
「レイには聞こえませんか? 目の前にいらっしゃるんですけど」
「全く。――とにかく、状況から無関係とは思えません。会話が出来るのなら、この事態が何なのかを聞き出せませんか?」
「そうですね。ええと、レイの言葉は聞こえていますか?」
自称聖女の年齢は、見た目では判断出来なかった。背丈はパーティメンバーの女性陣と同じくらいだが、目が大きく口が小さいので、顔だけなら幼子にも見える。
「はい。そちらの声は問題無く聞こえています。存在座標がほんのわずかだけずれているので、簡単には干渉出来ないのでしょう。なんらかの作用によって存在が認知出来れば誤差が自動修正され、こうして会話が成立する様です」
「はぁ……? 存在、座標、ですか?」
テルラが全く理解していない様子なので、聖女は言い直す。
「つまり、私は私が元々居た世界とは別の世界に片足を突っ込んでいる状態で、胴体はこの世界の外に有るんです。だから普通は見えないんです。しかし片足は入っていますので、全くの無関係ではない。だから見える人には見える。そう言う状態です」
「聖女様と似た見え方をしているあの黒い風船の様な物体も、同様に片足だけこの世界に入っている、と言う事でしょうか?」
「詳しく言うと違うのですが、長くなるのでアレの正体についての説明は後回しにしましょう。この世界の人は、異世界から飛ばされてきたアレに困らされているでしょう? すぐにでも解決したいでしょう? なら長話はするべきではありません」
「すぐに解決出来るのですか?」
「私はアレを処理するために生み出されたプログラムです。手で触れるだけでアレを消去出来ます。しかし、対象がオリの中なので手が届かないんです」
「では、手が届けば彼等を正常に戻せると?」
「はい。現に、何人もの人を正常に戻しました。しかし数が多く、処理が間に合いませんでした。こうして一か所に纏めて頂けたのは好都合でしたが、手が出せなくなったんです。目に見えない幽霊みたいな状態なのに、壁抜けは出来ません。それどころか、ドアノブに触る事すら出来ないんです」
「ふーむ。――看守さん。比較的安全な人を一名、外に出して頂けませんか?」
王女に向かって暴言を吐く若者達に冷や冷やしていた兵士風の男が、慌ててテルラの横に来た。
「一人だけ、ですか?」
「どうやら正気に戻せる手段が有る様ですので、試しに一名だけ」
「了解しました」
一人の若者が部屋から出される。二人の看守に両脇をホールドされているその男は、猜疑心に満ちた目で周囲の人間を警戒している。
その男に聖女が近付き、頭に乗っている黒い風船に右手を添えた。
「あ、本当に消えました。――気分はどうですか?」
指の輪を覗いているテルラが訊くと、男の顔から険しさが消えて行く。
「……? 何だろう、気分が良くなった。いや、元々気分が悪かった訳じゃないが……心が軽くなった」
テルラ以外の何も見えない人達は、何も動いていないのにハッキリと分かる変化が起こって驚いた。
そんな人達に向き直り、部屋の中が見える大きな窓を指差すテルラ。
「成功ですね。聖女様は本物です。では、手前から順番にドアを開けましょう。そうすれば、ここに居る人達全員が正常に戻るでしょう」
指の輪を解くと影すらも見えなくなり、輪を覗くと困っている表情までハッキリと見える。
「女の方? 一番奥の一室が女性の部屋ですが、あそこに何か気になる物でも?」
レイが通路の奥を指差す。女性のみが入れられている部屋は男性が入っている部屋と違って窓にカーテンが掛かっているが、今は開いている。
「いえ、そうではなく、黒い風船と同じく、ガーネットの左目でしか見えない人です。普通の人間にしか見えないので魔物ではないと思いますが……」
「――です? 目が合ってますよね? ああ、良かった! 私が見えるんですね! 声は聞こえますか?」
派手な釣鐘型スカートを揺らし、女がテルラに駆け寄って来た。
最初は口パクだったが、近付くに連れて声が聞こえる様になる。
「ええ、見えますし、聞こえます。貴女は一体?」
「私はseijo5289です。突然この世界に召喚されたのですが、誰にも気付かれず、ほとほと困っておりました」
「聖女……様ですか? 数字の意味が分かりませんが、それも名前でいらっしゃるのでしょうか」
虚空を見上げて会話を始めたテルラを心配する仲間達。指の輪を解いていないので、乱心した訳ではないだろう。
「ええと、テルラ? ガーネットの左目でしか見えない方と会話しているんですの?」
「レイには聞こえませんか? 目の前にいらっしゃるんですけど」
「全く。――とにかく、状況から無関係とは思えません。会話が出来るのなら、この事態が何なのかを聞き出せませんか?」
「そうですね。ええと、レイの言葉は聞こえていますか?」
自称聖女の年齢は、見た目では判断出来なかった。背丈はパーティメンバーの女性陣と同じくらいだが、目が大きく口が小さいので、顔だけなら幼子にも見える。
「はい。そちらの声は問題無く聞こえています。存在座標がほんのわずかだけずれているので、簡単には干渉出来ないのでしょう。なんらかの作用によって存在が認知出来れば誤差が自動修正され、こうして会話が成立する様です」
「はぁ……? 存在、座標、ですか?」
テルラが全く理解していない様子なので、聖女は言い直す。
「つまり、私は私が元々居た世界とは別の世界に片足を突っ込んでいる状態で、胴体はこの世界の外に有るんです。だから普通は見えないんです。しかし片足は入っていますので、全くの無関係ではない。だから見える人には見える。そう言う状態です」
「聖女様と似た見え方をしているあの黒い風船の様な物体も、同様に片足だけこの世界に入っている、と言う事でしょうか?」
「詳しく言うと違うのですが、長くなるのでアレの正体についての説明は後回しにしましょう。この世界の人は、異世界から飛ばされてきたアレに困らされているでしょう? すぐにでも解決したいでしょう? なら長話はするべきではありません」
「すぐに解決出来るのですか?」
「私はアレを処理するために生み出されたプログラムです。手で触れるだけでアレを消去出来ます。しかし、対象がオリの中なので手が届かないんです」
「では、手が届けば彼等を正常に戻せると?」
「はい。現に、何人もの人を正常に戻しました。しかし数が多く、処理が間に合いませんでした。こうして一か所に纏めて頂けたのは好都合でしたが、手が出せなくなったんです。目に見えない幽霊みたいな状態なのに、壁抜けは出来ません。それどころか、ドアノブに触る事すら出来ないんです」
「ふーむ。――看守さん。比較的安全な人を一名、外に出して頂けませんか?」
王女に向かって暴言を吐く若者達に冷や冷やしていた兵士風の男が、慌ててテルラの横に来た。
「一人だけ、ですか?」
「どうやら正気に戻せる手段が有る様ですので、試しに一名だけ」
「了解しました」
一人の若者が部屋から出される。二人の看守に両脇をホールドされているその男は、猜疑心に満ちた目で周囲の人間を警戒している。
その男に聖女が近付き、頭に乗っている黒い風船に右手を添えた。
「あ、本当に消えました。――気分はどうですか?」
指の輪を覗いているテルラが訊くと、男の顔から険しさが消えて行く。
「……? 何だろう、気分が良くなった。いや、元々気分が悪かった訳じゃないが……心が軽くなった」
テルラ以外の何も見えない人達は、何も動いていないのにハッキリと分かる変化が起こって驚いた。
そんな人達に向き直り、部屋の中が見える大きな窓を指差すテルラ。
「成功ですね。聖女様は本物です。では、手前から順番にドアを開けましょう。そうすれば、ここに居る人達全員が正常に戻るでしょう」
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