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 ベンベロー侯爵家の馬車に、逃亡者オートリアスを乗せて・・・というか、荷台に転がして積んだというのが正解だが、深々と腰を折り曲げて挨拶した侯爵は領地へと帰って行った。
 ベンベロー家から申し出があった迷惑料はさすがにいらないと考えていたカーライルとアレクシオスだったか、ランバルディはそれをとどめて、貰えるものは何でも貰えとさらに土地を要求し、二人を、いやパルティアも含めて三人を驚かせていた。

「あのくらいでなければ公爵家は維持できないのかもしれないな。私は侯爵で十分だと今日初めて思ったよ」

 父の強欲さに啞然としているアレクシオスを慰めるように、カーライルが声をかけると、近い未来の娘婿も零す。

「ええ、私も、父や兄に万一があったら私にはとても公爵は務まらないと思います」
「それでは公爵と次期公爵の長生きを祈って、乾杯でもしようかね」



 そのような一波乱を乗り越えて、漸く結婚式を迎えたのだ。
 抜けるような快晴で、皆が晴れやかな顔をしている。
 因みに会場はエンダライン侯爵家だが、これも婿に出すセリアズ公爵邸のほうが立派だからそちらを使おうとランバルディがしつこく言ったので、珍しく、本当に珍しくアレクシオスが雷を落として黙らせていた。

「わあ、パルティア様とってもお美しいですわ」

 涙目のニーナが褒め讃えると照れくさそうに微笑むのがさらに新婦の美しさを引き立てる。

「お心が繊細なアレクシオス様のことだから、パルティア様が美しすぎて失神したりして」

 メイドの軽口が聞こえたニーナが睨み、パルティアは吹き出した。

「では神殿で失神しないよう、今のうちに慣らしておきましょう。アレクシオス様をお呼びして」

 待つ間、鏡に映る自分の前髪の束を指先で少し散らす。

「パルティア様、いらっしゃいました」

 ニーナの声に振り向くと、真っ白な絹に銀糸を刺繍した衣装でいつもよりさらに美しいアレクシオスが立っていた。

「すごい、素晴らしいよパルティア」
「ありがとう。アレクシオス様もとっても素敵だわ」

 手を取り合い、見つめあうその気持ちはよくわかるのだが、ニーナはさらりと邪魔をした。

「申し訳ないのですが、そろそろ出ませんと間に合わなくなりますわ」

 ニーナがパルティアのトレーンを持ち上げて、汚さぬよう付き従う。
少し先にフラワーガールたちが待っているはずだが、そういえば新郎新婦の両親たちが姿を見せないと気がついた。

「カーライル様はどうされたのでしょう」

 ニーナの問いに答えたのはアレクシオスだった。

「お義父上は、あの、ちょっと感情が昂り過ぎて休まれているが、じき落ち着かれるだろうから心配はいらないよ」

 感極まったカーライルが号泣し始めると、なんとランバルディまでが泣き始めて、ふたりの顔をスーラとメニアが拭いては目を冷やしをくり返しているのだ。

「私たちは先に教会に行って待っていよう」
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