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 ブルブルッとオートリアスが震えをもよおしている。

「さあ、貴殿はこの馬鹿息子をどうなさるおつもりですかな?」

 ベンベローの使役が一番厳しいものであるなら、オートリアスはベンベロー家に。
甘いようなら多分セリアズ家に渡されるだろう。もう十分なほど怯えさせたので、カーライルは満足しており、むしろいらないくらいだ。
 皆がその行方を見守った。

「我が家に引き渡して頂けるなら、弟とおなじように鉱山に送りますが、必ず一番深いところに兄弟とも送るとお約束いたします。実際エイリズがいるのもガスが発生しやすく、もっとも危険な所にございます」

 弾かれたようにオートリアスが顔を上げて、ぶんぶんと横に振っている。
 いつのまにか猿轡を嵌められて、ぐうぐうと何か言おうとしている。大方嫌だと言っているのだろうが。

「死んでも構わないと?」
「はい、構いません。鉱山の貴重な人足を失うより、だれより早く異変がわかれば皆を助けられるのです。それで儚くなるのであれば領主の息子として本望でしょう、私も此奴らも」

 まったく逡巡することなく言い切り、

「是非ベンベローにお引き渡しください。此奴らには我が一族の皆が煮え湯を飲まされました。財産も信用も失い、家名は傷だらけにされ、怒り心頭の者が多くおります。いつか私が倒れたとしてもその怒りは次代に引き継がれます故、いつの間にか放免にするなど甘いことはせず、本当に死ぬまで鉱山に置いておくことをお約束致します」

 絶望的な目をしたオートリアスが、往生際悪く足をバタバタさせ始めた。

「まあ、一生外には出さないほうがいいな。それは同感だ。言うことなすことがおかしい、野放しにしたら、今代は生き残れても、次代当主に災いを為すこと間違いないぞ」
「はい、私もそのように考えております」

 ランバルディとカーライルには異存はない。アレクシオスを見ると、眉尻を上げた険しい顔でオートリアスを睨んでいる。

「私とカーライルはそちらに引き渡すことに同意だが、アレクシオス?其方はそれでよいか?どこに渡しても、二度とおまえとパルティアの前に姿を見せることは無くなるのだが、アレクシオスがもっとも厳しいと感じた家に渡すので良いぞ」

 ベンベロー侯爵を信用するか否か。
もしかしたら、子を思い、逃してしまうこともあるかもしれない。しかし弟エイリズは鉱山にて労役についていると調べはついている。
 決断したアレクシオスは毅然と告げた。

「では、ベンベロー侯爵家に」

 ほんの少し前までは、ベンベロー家に引き渡されることがオートリアスの希望だったが、父の口からほとばしった言葉を聞いてからは、なんとか他家にならないかと祈るような気持ちだったのに。
 今や口も体も自由を奪われて、ゔーゔー唸るしか出来なくなったオートリアスは、呆けたようにぼんやり項垂れている。


 断罪をアレクシオスに委ねるのは荷が重いかと心配したランバルディだったが、栽を下した姿を見て、気づくと安堵の息を吐いていた。
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