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「ランバルディ様、少々お時間を賜りたいのでございますが」

 ランバルディが護衛兼侍従のベイツを連れて廊下を歩いていると、コーズが背後からしずしずと近寄り小さく声をかけた。

「コーズ、どうした?アレクシオスに何かあったのか?」
「・・・あっ・・・も」

 様子がおかしいと、ランバルディはコーズを自室に引っ張り込んだ。

「なんだ?はっきり言え」

 コーズは小さく震えている。

「あっ、あったも何も」

「あったも何もありません!アレクシオス様ったらパルティア様にプっ、プっ、プロポーズみたいなことおっしゃって、パルティア様をかちんこちんにしたくせに、自分が何を言ったか気がつかずにいるんですよっ!まったくもぉぉっ!」

 公爵閣下への言葉遣いではないが、コーズはランバルディの乳兄弟の息子で、ランバルディが名付け親でもある。
言葉遣いを窘めることはなく、その内容に食いついた。

「なんとっ!アレクシオスがプロポーズしたと?」
「そうなんです!」

 さすがにランバルディの手を取ることはできないので、ベイツの手をすっと取り

「パルティア様、これからもこうしてふたりで歩いていきたい」

アレクシオスの口真似でコーズが呟いて見せると、ベイツまでがおおおっ!と頬を赤らめた。

「こうおっしゃったのですよ!これ、プロポーズ、で、す、よ、ね?」
「なんと!間違いないっ!それは婚姻の申込みだっ」

 ランバルディは拳を突き上げた。

 失恋に入水しようとまでした繊細な愛息が無事立ち直り、パルティアと事業を軌道に乗せて、今ではそれを拡大するほど。
 先祖代々エンダライン侯爵家と犬猿の仲だったことなどとうの昔に拭い去った。
 エンダライン次期侯爵のパルティアと婚姻すれば政略的にも、そして侯爵配偶者としてアレクシオスの立場もすべてが安泰!
考えれば考えるほど素晴らしい成り行きである。

「これは本当にカーライル卿と話を詰めたほうがよいな。ちょうどあちらも滞在中なのだから晩餐にでも誘うか。手紙を書くからコーズ、届けてくれるか?」

 断るわけがない。

「もちろんでございます、お任せ下さい」

 ランバルディからの手紙を胸元にしまい、今度は同じくメンシアの施設に泊まるカーライルの部屋へと向かう。
ノックをすると、顔見知りになった執事ベニーが顔を出した。

「おや、コーズ様」
「エンダライン侯爵様はいらっしゃるでしょうか?セリアズ公爵閣下より書状をお届けしたのでございますが」

 恭しく頭を下げると、部屋の中からコーズを呼ぶ声がした。

「ランバルディ卿の使いだと?こちらへ通せ」

 部屋に通されたコーズが見たのは、ボサボサ頭のまま寝起き顔でガウンを羽織り、ソファで寛ぐカーライルだった。

「おやすみのところを失礼いたします」
「こちらこそすまんな、こんな格好で人に会ったとスーラに知られたらまずい。内密にな」

 長らく仇敵のように思っていたエンダライン侯爵はもっと気取った嫌な男かと思っていたが、気さくで飾らないよい男だった。

 ─普段と随分違う印象だな─

 左の眼窩にモノクルを嵌めるとランバルディからの書状に目を通す。

「了解したとお伝えを」

 返事は口頭で済ますつもりのようだ。
まあ、この姿では、むしろ待たせずに通してくれたのだからとコーズが深々と礼をすると、カーライルがいやいやと手を振る。

「ああ、堅苦しいことはいい。それより我が妻は身だしなみに大変にうるさいのだ。こんな寝起きで人に会ったと知れたら本当に何を言われるかわからん。くれぐれも、くれぐれも内密にしてくれたまえよ」
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