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30-5.倒すために③

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 *・*・*









 笑也えみやに持つようにと言われていたスティックシュガー。

 これで、みのりも退治出来るのだろうか。笑也に霊力がかなりあると証明はしてもらったが、扱い方までは教わっていない。笑也は悪霊などに振りかけるだけで出来ていた。

 咲夜さくやも取り出すように言ってきたので、おそらく、穫でも使えるかもしれない。

 だが、どこに振りかけた方がいいのかわからないでいると、咲夜が声を上げてくれた。


【穫! 切りつけた箇所に振りかけるんだ!!】
「そこで大丈夫!?」
【私が宿っていても、穫の身体ではそこが限界だ】
「あたしがいるわよん?」


 とここで、エミがこちら側にやってきた。正面はいいのかと聞けば、須佐すさひとりでなんとか食い止めているから大丈夫だと言う。大丈夫だとは、あまり思えないが。


「えっと……エミさんがやってくださるんですか?」
「そうじゃないわよん? みのりんを運ぶだけならするって意味」
「運ぶ……?」


 女性でも、穫がお姫様抱っこをされるのかと思ったが、首をひねっているとエミが指を軽く振った途端。穫の体は宙に浮いたのだ。

 落ちる落ちる、と思ったが咲夜を落とすこともなく宙に浮くことが出来た。そしてエミはちょいちょいと指を振っては穫の体を操作していく。


「行くわよん? あいつの頭の方に!」


 そこから、エミの誘導でジェットコースター並みの加速ではるか上空にまで連れて行かれ。到着した時には、八つに分かれた八岐大蛇ヤマタノオロチの頭部が間近にあったのだ。


(…………こ、こここ、怖い……!?)



 これが人間の姿でいた時と、比較にならないくらいに怖かった。しかし、倒さなくてはいけない相手だ。穫のためにも、エミらのためにも。

 ただ、この巨体に少量のスティックシュガー程度で倒せるとは思えない。すると、八岐大蛇の方に何故か異変が起きた。



【ギャァアアアアアアアアアアアアアア!!?】



 耳が壊れてしまうような絶叫に、咲夜の柄を握ったままの穫には直撃してきた。堪らずよろめいたが、エミが手を貸してくれたことで何とか落ちずに済んだ。


月詠つくよみがやってくれたようね?」


 たしか、月詠はこの八岐大蛇の本体をどうにかしろとエミに命じられていた。であれば、間に合ったのだろう。

 音が止んで、気力も湧いてきた穫はやれるだけやろうとスティックシュガーのフタを開けようとした。だが、エミに止められた。


「トドメを刺すなら、もっと派手にしなくちゃ?」


 と言って、穫からスティックシュガーを取り、軽く上空に投げた。何を、と思った時には、スティックシュガーが電柱以上の太さ、大きさになって浮いていたのだった。


「……え?」


 そんなファンタジー要素を目にすると思わず、変な声が出てしまった。

 そして、中途半端にちぎった部分から大粒の砂糖が漏れ出し、どんどん溢れてすべての巨大スティックシュガーから砂糖の洪水が八岐大蛇に降り注いで行く。

 うめいていた蛇の化け物は、塩ではなく砂糖に埋もれてしまい。まるでナメクジのようにどんどんしぼんでいったのだった。
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