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31-1.終焉①

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 本当に、塩をかけたら縮んでいくナメクジのように。八岐大蛇ヤマタノオロチがどんどん萎んでいった。

 随分と呆気ない終わり方だなあ、とみのりはどこか冷めた気持ちでいた。

 萎んでいく八岐大蛇の合わせて、エミが穫を地面に降ろしてくれた。山のように積もったスティックシュガーの中身が地獄に似合わない雪景色のように見える。ゆっくり降りて、まだ咲夜さくやは剣のまま穫の手に収まったまま。

 エミも山には近づかないように、と穫にひと声掛けた。


須佐すさ~!! どーう?」


 そう言えば、と須佐を探すと大粒の砂糖に紛れて、須佐らしき影が砂糖の粒をゴミを捨てるかのようにあちこち放り投げていた。

 エミが呼びかければ、須佐は砂糖を投げるのを一度止めた。


「もうすぐだ! 何か影がある!!」
素戔嗚尊すさのおのみこと様!? 彼処に!!?」


 羅衣鬼らいきも必死になって探していたようで、指を向けた場所を穫は見ようとしても地面にいるからよく見えなかった。

 なので、須佐が跳躍しながらそこに向かい、何かを握ってからこちらに戻ってきた。


「……こうなっていた」


 須佐が手にしていたのは。

 干物のような、爬虫類の抜け殻のような感じでいた。

 八つの尾に別れた小さな蛇の死骸があったのだった。


「……これが」

「怨念の塊だった、魂のような部分はない。もしくは、兄者が今対応しているかもしれない」

月詠つくよみさんが……」


 呪怨が地獄で裁かれていたように。

 この八岐大蛇も、裁かれるのだろうか。

 それが正しいのか、穫ではわからないが。終わったんだな、とほっとしてしまい腰の力が抜けてしまった。

 地面にへたり込むと思ったら、冷たい何かが穫に触れてきた。


「笑也……さん?」


 魂の状態の笑也が。

 安心し切った笑顔で、穫の体を支えてくれたのだった。


『お疲れ様。それと……無事で良かった』


 その声と笑顔は間違いない。穫が愛して止まない、たったひとりの男性のものだ。


「笑也さん! 笑也さん!!」


 穫は溜まらずに彼に抱きついた。

 透けることはなく、透明感があっても実体のある笑也に抱きつき、冷たさとか気にせずに穫は笑也との再会を喜んだ。


『おかえり。……帰ろう? 現実に』
「はい!」


 終わったんだな、と実感出来たのと笑也に会えたのが嬉しくて。穫が強く頷いた。


「……穫。嬉しいのはわかるが、私を放り投げないでくれ」


 そして、咲夜を放り投げてしまったのを彼女に言われるまで気づかず。帰る前に、何度も謝ったのだった。
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