上 下
145 / 168

28-4.呪怨と十束(呪怨視点)

しおりを挟む





 *・*・*(呪怨視点)









 忌々しい。

 憎い、憎い、憎い!!

 十束とつかの万乗ばんじょうの守護たる存在。

 何故、あの阿鼻あびから抜け出せたのかは、呪怨にとってはわからない。

 だが今は。

 憎い十束剣が目の前にいるのだ。

 たとえ己が利用された存在であれ、むしろ好都合。

 あの万乗の小娘が一緒でないのは不愉快だが、まあいい。

 地獄の炎で焼かれた痛みを思えば、順に屠っていくのもまた楽しみだ。

 力も得ている。

 現世にいた頃とは段違いに。

 たしかに、彼奴らから攻撃は受けたが、それを上回る力を呪怨は得ている。

 分裂した己の力を感じて、あの十束とよくわからない鬼を屠るのみ。


【とぉおつぅうかあああああああああ!?】


 力が。

 力が溢れ出してくる。

 まばゆくはないが、おどろおどろしい何かが呪怨の内側から溢れ出てくるのだ。これはいったい何か。

 ここに来る前に、呪怨の身に何があったのか。

 思い出せない。思い出せないのだ。だが、悪くない、むしろ心地良く感じる。

 今なら、あの時に地獄に落とされた己とはまったく違うと理解が出来た。


「くっそ……雷衝撃!!」


 鬼の方が、呪怨に雷属性の攻撃をぶつけてきた。

 たしかに効くが、地獄の炎程ではない。

 殺せる、屠れる、今なら。

 十束を、万乗を。

 今なら、今ならば。

 彼奴らを、逆に地獄に落とせる。

 己が味わった苦痛を逆に味合わせてやれる。

 そう思い、分裂した者らと共に、十束ら向かって駆け出した途端。


「………………………………失せろ」


 低い。

 地を這うが如く、低い声が響いた。

 なんだ、と思っていると呪怨が分裂したものは塵のように消えてしまい。

 残った呪怨本体も、このままだと消滅してしまいそうなくらいに、己の個を留めておくのが精一杯だった。


【ぐ……が!?】


 いったい何が起きたのか。

 声の正体はわかった。

 十束剣だ。

 おのが剣を構えていたかと思えば、諦めるどころか光のない瞳で言い放った直後。

 ほとばしるような力を感じて、呪怨の分裂した者らを消滅。先程切りかかってきた時とはまったく違う存在になった。


「さ、咲夜さくや?」


 鬼が十束に名付けられた名を口にすると。

 十束の方は、剣を軽く振ってから顔を上げた。美しいかんばせが、妖しくそしてさらに美しくなっていたのだ。


「……十束の恐ろしさ。……それを目の当たりにしたいのか? 呪い無勢が」


 そして、十束は先程よりは信じられない速さで呪怨の懐に入ってきたのだ。

 意識が、そこで途絶えた。
しおりを挟む

処理中です...