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28-3.対峙(咲夜視点)
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厄介この上ない。
「雷撃!!」
呪怨らしきものに立ち向かうべく、咲夜は羅衣鬼と協力して攻撃を向けてはいるが。
一向に、呪怨らしきものにダメージを当てられないのだ。先程の手応えの無さもだが、守護鬼となった羅衣鬼の雷撃を喰らっても何も問題がないのだ。
当たりはするが、避ける気配もないまま、霧のような実体をすり抜けていくだけ。現世での戦闘経験があまりない咲夜でも、この相手をどうすればいいのか。
以前倒した時のように、咲夜の持つ十束剣としての神力に次ぐ霊力を当てたところで意味がないだろう。
神によって、聖なる鬼となった羅衣鬼の攻撃を受けても何のダメージも受けていないのだから。
「……面倒だ」
何処にいるかわからない、今までの宿主とは一線を画す主である穫の危機であるというのに。
その穫と引き離されてしまっている。
無事であることは、血の盟約が継続している今なので多少は安心出来てはいても。
魂が無事とは限らない。
せっかく、笑也という将来の伴侶とも言える相手に出会えた。今咲夜達が対峙している、呪怨の不安も消え失せたはずなのに。
何故、世の中とやらは現世になっても面倒事が多い。
かつての友である昌遠とは全然違うのに、同じくらいの安心感を与えてくれるのだ。穫は。
「二度と……同じことにはさせん!!」
彼女の死は、笑也と共にあってこそ。
こんな、怪異に巻き込まれての死にも似た状況になるだなんて、穫も望まないはずだ。
とにかく、彼女の元に行くべく、咲夜は羅衣鬼と共に今目の前にいる呪怨らしきものに立ち向かうしかない。
「……雷衝撃!!」
羅衣鬼も当たってもダメージを与えられないことで苛ついていたようだが、また新たな攻撃を編み出してから呪怨らしきものにぶつけていく。
すると、初めて、呪怨らしきものが悶えたのだ。
【ぐ…………ぐぁあああああああああ!?】
効いているようだ。なら、と咲夜も半実体化させた己の剣に雷撃を纏わせてみる。
うまく行くかはわからないが、何もやらないよりはマシだ。
「はぁああああああああああ!!」
ここで立ち止まっているわけにはいかない。
穫のためにも、早く駆けつけて本来の現状を確かめたいのだ。
昌遠の時のように、間に合わない事態になどさせたくない。
咲夜のその思いが届いたのか。
呪怨らしきものに、初めて手応えがあった。肉を穿つような感覚、かつての時代なら幾度かあった経験だが。
穫には、させたくない。
汚れ仕事は、咲夜が請け負う。
肉を断つようにして、剣を振り上げる。同時に、纏わせた雷撃を喰らわせる。
巻き込まれないように、咲夜はすぐに離れた途端。
【あ゛ぁあああああああああああ゛!!?】
あの時。
呪怨だった時と同じ最期のように。
らしきものは、遭遇した時よりはやけにあっさりと。
形成されていた実体を崩れさせていった。
「呆気ねーな?」
「……ああ」
まだ油断はならないと、剣をそのままにしていると。
崩れた呪怨らしきものが、何故か再生し出したのだ。
今度は一体だけでなく、一気に三体も。
「ええ゛!?」
「……結局面倒だな」
八岐大蛇の尾とやらは、それだけ咲夜達を穫の側に行かせないようにしたいのだろう。
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