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16-1.狭間で手を伸ばす
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どこだろう。
笑也の前で倒れてしまったのは、覚えている。
だけど、そこから穫の記憶は曖昧で。
今、どうして暗い暗い空間の中で立っているのかわからなかった。
楽しい、何かをしていた。
楽しく、何かを過ごしていたはずなのに。
だんだんと、なんだったかを忘れていくのだった。
自分ですら、なんだったのかを。
「……なんだっけ……??」
ああ、ああ。
とても、楽しかった。
楽しかった何かを、ここに来てから思い出せなくなっていく。
【……いいんだよ、忘れて】
耳通りのいい、澄んだ声が響いてきた。
なんだろう、誰だろう、と振り返れば。
誰も居なかった。
あったのは、白い球体だけ。
だけど、不思議だが、すぐに触ってみたい気持ちになった。
そっと、手を伸ばせば。
「ダメだよ、穫!!」
「みのりん、触っちゃダメ!!」
二人の女性に、静止の声をかけられた。
誰、と振り替えれば。
綺麗な服装でいる、二人の女性が空間に立っていた。誰だったのか、見覚えはあるのに思い出せない。
「それに、触ってはダメだ。穫」
「み……の、り?」
「君の名前だ。……そこまで、退化させようとしていたのか」
紫の綺麗な服を着た女性は、穫の手を掴んだ。
その時はじめて、穫の手が小さな子供の手になっていることに気づいた。
「……みのりんは渡さないわ。この子は笑也のよ?」
もう一人の赤い服を着た女性は、穫が触ろうとしていた光から、穫を遠ざけるように前に出た。
【……やれやれ。天の神に言われても、僕は諦めるつもりはないよ?】
「……あんた。月詠に封印されてたはずよ? どうやって、出てきたわけ?」
【さ、ね? けど、穫は諦めない。達川の次期当主じゃなくて、相応しいのは僕だ】
「はぁ?」
そして、光はどこかに行ってしまったようで。
女性はくるっと穫に振り返ると、綺麗な手で穫の頭を優しく撫でてくれた。
「?」
そして、疑問に思っている間に。
穫は思い出した。自分は何者で、どうしてここに来たのかはわからないが。エミや佐和が助けに来てくれたのはわかった。
「エミさん、佐和ちゃん……?」
「戻ったわね?」
「帰ろう、穫。達川氏が待ってる」
「……うん」
二人の差し出された手を取った直後。
眩しい光に、目を開けられなくなったが。
みじろぎしたら、誰かに強く抱きしめられたのがわかった。
「穫ちゃん……!!」
笑也だった。
気がついたら、最上階のバースデーパーティーの会場で。そこの大きなソファに寝かされていたようで。
穫は、笑也に抱きしめられていたのだった。
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