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16-1.狭間で手を伸ばす

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 *・*・*









 どこだろう。

 笑也えみやの前で倒れてしまったのは、覚えている。

 だけど、そこからみのりの記憶は曖昧で。

 今、どうして暗い暗い空間の中で立っているのかわからなかった。

 楽しい、何かをしていた。

 楽しく、何かを過ごしていたはずなのに。

 だんだんと、なんだったかを忘れていくのだった。

 自分ですら、なんだったのかを。


「……なんだっけ……??」


 ああ、ああ。

 とても、楽しかった。

 楽しかった何かを、ここに来てから思い出せなくなっていく。


【……いいんだよ、忘れて】


 耳通りのいい、澄んだ声が響いてきた。

 なんだろう、誰だろう、と振り返れば。

 誰も居なかった。

 あったのは、白い球体だけ。

 だけど、不思議だが、すぐに触ってみたい気持ちになった。

 そっと、手を伸ばせば。



「ダメだよ、穫!!」
「みのりん、触っちゃダメ!!」


 二人の女性に、静止の声をかけられた。

 誰、と振り替えれば。

 綺麗な服装でいる、二人の女性が空間に立っていた。誰だったのか、見覚えはあるのに思い出せない。


「それに、触ってはダメだ。穫」
「み……の、り?」
「君の名前だ。……そこまで、退化させようとしていたのか」


 紫の綺麗な服を着た女性は、穫の手を掴んだ。

 その時はじめて、穫の手が小さな子供の手になっていることに気づいた。


「……みのりんは渡さないわ。この子は笑也のよ?」


 もう一人の赤い服を着た女性は、穫が触ろうとしていた光から、穫を遠ざけるように前に出た。


【……やれやれ。天の神に言われても、僕は諦めるつもりはないよ?】
「……あんた。月詠つくよみに封印されてたはずよ? どうやって、出てきたわけ?」
【さ、ね? けど、穫は諦めない。達川たちかわの次期当主じゃなくて、相応しいのは僕だ】
「はぁ?」


 そして、光はどこかに行ってしまったようで。

 女性はくるっと穫に振り返ると、綺麗な手で穫の頭を優しく撫でてくれた。


「?」


 そして、疑問に思っている間に。

 穫は思い出した。自分は何者で、どうしてここに来たのかはわからないが。エミや佐和さわが助けに来てくれたのはわかった。


「エミさん、佐和ちゃん……?」
「戻ったわね?」
「帰ろう、穫。達川氏が待ってる」
「……うん」


 二人の差し出された手を取った直後。

 眩しい光に、目を開けられなくなったが。

 みじろぎしたら、誰かに強く抱きしめられたのがわかった。


「穫ちゃん……!!」


 笑也だった。

 気がついたら、最上階のバースデーパーティーの会場で。そこの大きなソファに寝かされていたようで。

 穫は、笑也に抱きしめられていたのだった。
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